芸恋小説 | ナノ

「ん…う、……っ」
「……っ」


くぐもった声が鼻から抜けていく。もう何度も身体が芯から震えた。回数なんて分からない。


「あ、や…ま、つださ…」
「………ん、あかんよ、エミちゃん」
「あっ、しが、つり……んう……っ」


彼のベッドに腰掛けたまま、かたかたと小刻みに奮える太腿の間で、さっきから松田さんは顔をあげる事なく私を攻めたてる。耐え切れずに瞼をふせてみれば、感覚がより鋭敏になってしまい慌てて目を開ける。開ければ開けたで、松田さんと私が触れあっている場所がはっきり見えてしまって、今度は羞恥心を刺激された。それを知ってか知らずか、彼は時々私に視線をくべ、反応を確認しながら行為を続ける。鼻先と唇とから生暖かい吐息が直接私の中にねじ込まれるたびに歯をくいしばって意識を留まらせようと必死な私を。


「あ、も、だ……あっ」


じゅわり、と下腹部が強くうねる。同時にくり、っと彼の指が小さな芽を捕えた。


「ん!」
「………」
「ん……あっ、ううっ……あ……」


溢れてくるのが分かる。ずっと奥から。離してくれない松田さんを私も逃がさないように、そしてすがるように彼の頭を抱えたまま熱が放散していく感覚に酔いしれた。


「はあ……、ん、ひゃ!」


ようやく一息つこうとしたところで、松田さんがもう一度吸い付くように空気を飲む。聞こえた音は、水気を含んでいると簡単に分かるように濁っていて、目をつむっていてもその様子は簡単に浮かんで来た。それだけで私のお腹の奥は簡単にきゅう、と小さく強く、より深いところまでと彼を欲しがるのだ。なんて貪欲なんだろう。


「も、もう、松田さん!」
「あ、また。あかんよ、ほんま…」
「え?」
「……まあ間違いはないんやけどな?」
「え、あ……は、い」
「……こんなときくらいは、せめて」


するり、と松田さんの手がさっきまで彼が顔を埋めていた場所に伸びてきて。そのままためらいなくひと撫で。咄嗟のことにも従順に反応する私の身体。きゃう、と声が漏れてしまう。そんな私を見て、松田さんはふ、と口元を緩めた。


「も、もう、ほんと…遊ばないでください!」
「遊びて……俺、本気なんやけどな。遊びでこんなことせんしな。…な?」
「うっ……あの、だってそもそもは」
「ん?」
「そもそも、は…………」
「ん?……何?そもそもは?」


普段なら、私の言おうとしてることをすぐ分かってくれる松田さんのくせに。今日はやたら察しが悪い。じっと彼をみつめていると、耐えかねたのか、にやり、と小さく表情を歪ませた。


「……松田さん、なんか今日意地悪じゃないですか?」
「そうか?いつもと変わらんつもりやけど?」
「………いじわるっていうか……」
「………ん?」
「だって……そもそもは私、が、……あの…」


ん?と相変わらず何か言葉を含んだ顔で、松田さんは私の言葉を促した。私を見上げる彼からはいくら俯いたところで表情なんて隠せない。

わかってるくせに、と小さく睨みつけてみる。


「……エミちゃんがしてくれるってハナシ?」
「うわ!!」
「え?ちゃうの?」
「や、いや…!そ、そうな…いや、あの」
「…ぷっ……」
「………」
「あははは、ほんま…かわいいなあ」
「だって」
「恥ずかしい?」
「……恥ずかしいです!」
「今さらやん…そない格好して……さっきまであんなに素直に反応してくれとったのに」
「ちょ、…もう、そんなこと口に出さないでください!」


慌てて足元のタオルケットをわし掴んで胸元まで引っ張った。


「……そういうのんが、……余計そそられるって覚えといた方がええで」
「え?」
「……逃げると追いたくなるんが、……男なんやて……」
「……んっ……」


ずっと見下ろしていた松田さんと視線の位置が同じになった、と思った瞬間、唇は塞がれた。普段は少しずつ深く強く激しくなるキスが、今日は一気に熱を増す。蕩けていく、松田さんとの、キス。

冗談めいたさっきまでの彼は一変。余裕なんて感じられないくらい執拗に追いかけて来る舌。私だって余裕なんて、そんなもの、はじめからないのだけれど。

誘い出されて絡めとられて。少しずつ傾いた身体がシーツに沈んでいく。

ギシ、とベッドが軋んだ。




はじまる。
これから、また。




「……ほな、……お言葉に甘えて、してもらおかなあ、なんて…」
「ハイ」
「え?……えと……本気なん?」
「はい」
「………じゃあ」
「……あの、」
「……イヤなら無理なんてせんでええねんで?」
「イヤじゃないです!イヤ、じゃ、ないですけど」
「……うん?」
「あの、上手く出来るかどうか……」
「………ちょ、エミちゃ……あかんて……!」



がんばれ松田。



続く
20110902


 


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