芸恋小説 | ナノ

恋愛に歳の差なんて関係ないって、よく聞く言葉ではあるけれど。…とはいえ、俺はずっと年上なわけで、好きな子にええとこ見せたいなっていうのは、男としても当然あるわけで……。





「え、エミちゃんですか?…そりゃ、一緒に番組やらせてもらってますし…話したり仲良くはさせてもらってますけど。あの番組はスタッフ含めてみんなわきあいあいとしてますから」
「それはお友達ってことですか?エミさんと一歩進んだ関係になるなんてことは…」
「……こんなオッサン相手にしてもらえるはずないやないですか。ほな、次の仕事がありますんで……」

仲間うちでもしつこいと有名な芸能リポーターの攻撃をかわして逃げ込むように楽屋に戻ると、ここにもしつこさでは負けないヤツがいて。

「隆やん、珍しいやん」
「何がや」
「普段はこーんな顔でむすっとスルーするか」

慎が大袈裟に眉間にしわを寄せる。

「それか、有無を言わさんような顔で笑って…どっちにしてもスルーやんか」

今度は気持ち悪いほど不自然な笑顔を浮かべた。やけに目力強調してるし…なんやねんコイツ……。

「……あんな、俺はいつもそんなイメージか?」
「そやね」
「………」
「まーそれにしても、やっぱあの人らの情報網っていうか、情報収集力っていうんかいな。すごいよなー」
「んー……」

エミちゃんと付き合い始めて、まあ近い仲間はこのことを知ってるとはいえ、公にはしていない。だいたい彼女の近くにはもうずっと山田さんが目を光らせていて、俺らのことを見張っているんちゃうん…って感じなわけで。エミちゃんが気付いてるかどうかはわからんけれど、収録合間なんかにかわいいこと言う彼女の頭をちょーっと撫でようとしたくらいでも、背筋がゾクリときたりする。

こんな状況やし、だいたい清純派アイドルとお笑い芸人やで。どうやって俺ら2人を線で結びつけたのか。…まあ確かに最近は芸人と女優さん、とかそういう組み合わせも意外ではなくなってきたとは思うけど。とはいえ。

「……10歳ちかくちゃうねんで……」

もうあとすぐに呼び出しがかかるだろう収録前に最後の一本、とくわえた煙草に火をつけて、大きく息を吐き出した。



異変に気付いたのはそれからすぐのこと。

「それじゃあ休憩はさんで続き撮りますんで」

スタッフの声と同時に緩んでいくスタジオの空気。立ちっぱなしのMCの俺らとアシスタント役のエミちゃんが同時に息を吐いた。

「お疲れさーん」
「あ、お疲れさまです。…あ、慎之介さん、さっきのとこ上手く絡めなくてすいません」
「あー、大丈夫大丈夫」
「お前、何言うてんねん。咄嗟にアドリブしたんはお前やろ。むしろお前が先にごめんなの一言言うべきやで。直前の合わせン時は台本通りやったくせに…。なあ、エミちゃん」
「…あ、……は、い」

目が泳いだ。一瞬のことやけど、確かに。

「………」
「あ、私ちょっとメイク直してもらってきますんでっ」
「え、」
「失礼しますっ」

慌てるように走っていくエミちゃんは、いつもの彼女からは信じられないほど足早にスタジオから消えていってしまった。

「……隆やん何したん?」
「……何が」
「明らかにおかしいやん、エミちゃんの態度」
「………何が」

彼女が身体を滑り込ませていったスタジオの入り口を2人で呆然と見つめるかたちのまま。慎との掛け合いは別に漫才でもないのにテンポが同じ。まわりは忙しなく動いているのに、俺の頭の中もめまぐるしく時間を遡ろうとしているのに、この状況を探ろうとしてもリアリティがないのか、いまいちうまく働かない。

「あの子あんまりメイク直すとか気にしいひんやん?……ははーん……」
「なんやねん。きしょいぞ」
「この間隆やんデートやったやんな?」
「なんでお前知って…!」
「俺と隆やんの間で隠し事なんて無理に決まってるやろ。……なんか強引にコトを進めて怒らせたんちゃうんか?」
「お前とちゃうし、そんなん……」

……きっぱりと言い切ろうとして言いよどむ。あの子の嫌がることなんてするつもりは毛頭ない。胸を張って言える、と思ったけれど、いざ指摘されて、あんな風に違和感丸出しの態度を見せられてしまうと自信は一気にしぼんでいく。

何したっけ……。あれか?もうちょっと一緒にいたいって言われたけど、もう遅いし帰り、って言ったことか?せっかく天気良かったのに外にも行かへんでずっと家の中にいたことか?いやだってあれは、外ではいちゃいちゃできひんし。ひっついても恥ずかしそうにはしたけど嫌がる様子なんて見せへんかったやんな?いやそれってあれか、俺に遠慮して……。それともあれか、あのキスのあとか?だってあんな色っぽい声出されたら……。

「無理矢理押し倒したりしたんちゃうの?隆やんのムッツリー」
「お!押し倒……!!!」

まるで脳内を全部読まれているかのタイミングに、思わず声が上ずって。そして飲み込んで。瞬間ぐさりと刺さる氷のような視線を感じておそるおそる目線を移動させてみれば、無表情のまま、でもはっきりとその奥に怒りのような感情を煮えたぎらせた山田さんがこちらを睨みつけている。

「お前、何言い出すかと思ったら…」
「まあ、ここでぐだぐだ悩んでてもしゃーないやん。はやいとこエミちゃん探して謝って来たらええんちゃう?」
「あ、ああ。そやなあ…」

なんだかんだ結局慎がまともなことを言うものだから、腑に落ちない気分のまま納得せざるを得ない。

「許してもらえるかわからんけどなー」
「………」

楽しそうに笑う慎は軽く睨みつけた俺の背中をバンと平手で押し出しながら送り出す。山田さんの視線は相変わらずだ。

「はー……」

俺は極力自然を装いながらスタジオのドアをくぐった。


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