芸恋小説 | ナノ

寝癖も寝言も、口を開けて寝ていたらしいこともこの間食卓の笑い話にされたことを思い出した。それでも、これは恥ずかしいとかそういう問題じゃなくて、何をどうしたらいいかわからない、という問題。そんな私に気づいているのかいないのか、彼は私の腰を少しだけ浮かしてからそっと下ろしたり、自身を反らしたりして刺激する。それだけで簡単に漏れる声は突かれる度に甘さを増した。

「ほら、…どうやったらエエって、わかるやろ?」
「んっ……」

下から持ち上げられるようにすくわれた胸は、松田さんの手のひらの中で自由に形を変えていく。先の方をつままれて挟まれて、コロコロと指で転がされれば、私の中心は一層熱くなる。私の声と、卑猥な音とが交錯する部屋で、すでに理性なんてどこかへ飛んでいってしまっていた。もっと、欲しい。素直な思考で蝕まれて、私は求めるがままに身体を動かしてみる。

「あ、……ん、う……はあ、」
「…そうそう」

上下前後左右、探るように松田さんの腰の上で円を描くと、時折彼も頬を歪めた。少し上気したその表情に、幸福感が増してくる。

(ああ、もう……好き。食べちゃいたい…!)

こみあげる衝動のままに、身体を倒し、その唇を塞ぐようにキスをした。足りない何かを埋めるようにしがみつく。もうどうなってもいい。エッチだとかスケベだとか、恥ずかしいとか、どうでもいい。ただ、この感覚に酔っていたい。飲み込まれていたい。

ねっとりと、絡め取られた舌を、誘導のままに添わせているときだった。

「ん!!」
「…ここ、擦られるの好きなんや…?」

お腹の下をまさぐられたかとおもうと、さんざん求めた刺激を直に与えられる。倒れ込んだ身体を支え起こされ、逃げ場もなくなった。

「は、…あ、あ、…だ、だめ…!」
「ん…あかんの?」

ウソつき、と言わんばかりの笑いの含んだ声は、決してやめるつもりのないことを知らせるようだった。…やめてほしくない、というこちらの本心に、気づいているんだと思う。

手が指が絶え間なく私の敏感な部分を転がして。腰は跳ね上げられるように下から突き上げられて。

こみあげてくる波に飲み込まれるのは、同時だったのか、私の方がはやかったのか。それとも逆か。どうだったのかわからない。かろうじて視界が捉えた松田さんが、切なそうに顔を歪めたのはなんとか確認できたのだけれども。





「……はあ、」
「しんどかった?」
「…え。…や、あの」
「…よかったんや?」

答えあぐねた私ににやり、と松田さん。

「もう、いじわる!」
「そうか、そうかー。あそこがええんか」
「もー!そういうの口に出さないでくださいよ!」
「ははは、照れ屋さんやなあ」
「照れてるんじゃなくて、恥ずかしいんですってば!」
「ええやん、俺らだけなんやし」

いつも通り、松田さんの胸に抱かれるように横たわって、そっと頭を撫でられた。愛していることと愛されていることを同時に実感できる幸せな時間だ。

「……たまにはこう、変わったことすんのもな、」
「ええやろ?って?…なんかおじさんっぽいですよ、それ…」
「うわ、きついな……」
「あの、」
「ん?」
「……あの、ね!」

ずっと感じてたことを伝えようとして、やっぱり恥ずかしくなって言葉がとぎれとぎれになる。意を決して身体を持ち上げたけれど、至近距離で目が合うと気持ちが揺らいだ。……それでも、伝えようと思いきれるのは、きっとこの人が大好きだからで。

「…今日のも、嫌ってわけじゃないけど」
「うん?」
「…い、いつもの方が」
「……」
「松田さんとぎゅってしながら、の、が……幸せって、…いうか……あの」
「…………」

驚いた瞳が私を射抜く。振り絞った勇気は一瞬でしぼんだ。

「や、やっぱナシ!わ、忘れてくださ、…うわあ!」

見下ろしていた松田さんの顔が、いつの間にか逆転している。バツが悪そうな彼の頬は、赤く染まっていた。

「…そんな可愛いこと言われたら、もっかい頑張らんとあかん気がしてくるやんか」
「や、いいです!いいです!もう頑張らんでいいですから!」
「…手遅れやで、エミちゃん。俺のことそそのかした罰や」







(甘い刺激も時には悪くないけれど)

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