Have a nice trip.
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 アイスを食べにいこうと街の方に向かったら、あのワゴン車はなかった。仕方ないので、別のアイスを食べる。店主にアイスと言うとびっくりした顔をされた。あのワゴン車のほど美味しくなかった。

「もしもし、」

「あれあなたはアイスクリーム屋の」

ベンチに座ってアイスを頬張っていれば、いつかの隈のひどい黒髪のお兄さんが話しかけてきた。お兄さんはよれよれの白いシャツと洗い晒しのジーンズを着ていた。

「今日もアイスですか。寒くないです?」

「雪を見ながらのアイスというのもなかなかいいものです」

「そうですか」

今朝方から降り始めた雪は、くるぶしほどまで積もっていて、お兄さんのよれよれのスニーカーはびしょびしょだ。

「お兄さんのアイス屋さんは潰れたんですか?」

「はい。ワタリに私が食べ過ぎたからだと言われてしまいました」

「そうですか。残念です」

「ええ。あなたのようなお客さんには本当に申し訳ないです」

お兄さんはベンチに体育座りで座ると、どこからか取り出したドーナツを食べ始めた。

「もうすぐクリスマスですが、何か予定は?」

「ちょっと家族と旅行に行きます」

「それは良いですね」

「ええ、とっても。お兄さんは?」

「ずっと抱えてた問題がやっとクリスマスには片づきそうなんです」

「学生だったんですか」

「そんなところです。その後は、ジャパンに行くんです」

「ジャパンですか。いま大変みたいですけど」

「そうですね。でも一度本場の茶菓子を食べてみたくて」

お兄さんは立ち上がった。

「だから、早く問題を片付けないと」

「そうですね。私も旅行の準備をしないと」

Have a nice trip.
そう言ってお兄さんとは別れた。どうやらこの雪は夜まで続きそうだ。






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