Take care.
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喉笛を切り裂くと、ふみゃ、と鳴いて猫は死んだ。
可愛がってたろうと、男の側に置いてやる。

「終わりました。すぐ戻ります。」

マンハッタンの冬は寒い。
ではまた後で、と切った電話をポケットにしまう。
目の前の男が身に着けている毛皮のコートに、
鮮やかな赤い染みが出来ていくのを見ながら、
チラチラと雪が降り始めた空に息を吐いた。



死んだことがある。
よって私は生まれながらにその身の非凡さを認識した。

霞みがかったような記憶。
感じる身体と精神の不合致。

これが輪廻転生というものならば。
なぜわたしにはかつての記憶があるのか。

答えは出ないまま、
私は何度目か知らぬ人生を生きていく。





「ただいま帰りました。」

半日かけて戻ったそこは、同じ国とは思えないほど暖かい。
重厚な門を潜り、広い庭園を抜けたその先。
かつてホテルであった洋館が私たちホームだ。
蒔が焚べられたエントランスでは、兄弟が思い思いにくつろいでいる。

「おかえり」

呼ばれた方を振り向くと、奇術師の名を持つ兄だった。
彼は私に目もくれず、トランプを重ねて遊んでいる。

「きてたの」
「知ってるかい? 最近、有名な探偵が僕らを追ってるんだってさ」

私の問いには答えず、兄は相変わらず食えない笑顔を貼り付けそう言った。
彼は顔のペインティングがなければ相当の美形なのに、勿体ない。
ありがとう、気をつけるよと私は肩を竦めてその場を立ち去る。
彼の作るトランプタワーが2つになっていた。




ここは私たちの家である。
世に言う児童福祉施設であるがその実は違う。

報告を終えて、ホームの外へ出た。
庭では子供たちがナイフを片手に遊んでいる。
なんという、不釣り合いか。なんと対極のものなのだろう。

「No.13!! 死神だ!!」

何人かの子供が寄ってきた。私は笑う。
死神だなんてまぁ、物騒な名前をつけられたものだ。
彼らの持つナイフには生々しい血が付いていて、
どうやらなにか動物でも殺していたらしい。
にこにことそのナイフの切れ味を話す少年に
果たして私はうまく笑えていただろうか。

遠い昔に生きた時代、誰かが言っていた。

戦争しか知らない子供と
平和しか知らない子供の価値観は違う、と。

では、殺しと平和が成り立つこの施設は一体なんなのか。

感情に左右されない。
死への躊躇がない。

私の評価は概ねそんな所。
当たり前だ。

私はとうに死んでるはずの人間で。
この世界にいないはずの人間なのだから。

姿形が変わらぬ時もあれば、再び赤ん坊からやり直す時もある。
生きてきた世は様々で、魔物やドラゴンが彷徨く世界もあれば魔法を使う世界もあった。
それらは明らかに今生きる世界とは異なる世界で、私は複数世界を輪輪廻転成しているらしい。

なぜ。
なにか私に与えられた役があるとするならば。
命を奪うことに長けた私に、

「チョコレートとイチゴのダブルでお願いします」

「少々お待ち下さい」

市街地の方に向かえば、最近よくやってくるようになったアイスクリームのワゴンがあった。
ここのは絶品で、この値段でいいのかと思うほどである。

「どうぞ」

「ありがとう」

今日の店員は珍しく、隈が激しい黒髪のお兄さんだった。
いつもはサングラスのおじさんだったり、
綺麗なお姉さんだったり、
壮年の紳士だったりする。

ニコリという愛想の欠片もないので、
他の人は彼が担当のときは遠巻きに見てるのだが、
実はこの黒髪のお兄さんの時は、
トッピングが他の人の2、3倍だから嬉しい。
勤務中にしょっちゅう自分で作っては食べしてるから、
きっと気があうだろうと思う。

「そう言えば、最近噂があるのですが」

珍しくお兄さんが話しかけてきた。
アイスを頬張りながら、お兄さんの話を聞く。

「この街にとある学校があると」

お、と思う。
なんだこいつ、何者だ。
しかし顔をには出さない。
ニコニコとして年相応の笑顔を作る。

「学校?小学校と中学校しかないですよ?」

「…そうですか」

ありがとうございます、これおまけです。
そう言ってお兄さんはブラウニーを差し出した。
もちろんありがたく貰った。







それから、半月後。
0からの呼び出しを受けた。
どうやら次の仕事らしい。
隣の奇術師が言うには、この間言っていた例の探偵のことじゃないかと。
薄暗い部屋の中、6人のNumbersが輪になり席に着く。

ボスの顔は、誰も知らない。
秘書の0のみが、彼もしくは彼女に繋がる唯一の手段だ。

「ワイミーズハウスご存知ですか、No.9?」

「Sure.」

No.9は世界的なジャーナリストで情報屋だ。
よくこの召集に応じれたと思う。
世界中にいるNumbersは著名人も多く、突飛な行動が取れない。
いつも何人かはテレビ電話での参加だ。

「ワイミーズハウス。
創始者はキルシュ・ワイミー。
イギリス生まれの世界的な発明家だ。
その莫大な特許料を財源に、
ワイミーズハウスという頭脳明晰な子供を育てる、
則ち探偵を養成する機関を設立。
今のそこのトップが"L"であり、"Gordon"であり、"Edward"。
今世界中で活躍する探偵、刑事は、
そのほとんどがここの施設出身と言えるね」

「その、Lがいまこの施設を追っています」

0は淡々と述べた。
どこで情報が漏れたのだと、政治家のNo.7が机を叩く。
まぁ年間何万もの殺人を請け負っといて、
警察も何もこの施設を黙認していた今までのほうがおかしいか。
この州のトップはNo.7だし、
あちこちに手先が潜り込んでいるようだし。

「どうやらLの琴線に触れちゃったらしいねぇ、うち」

隣のNo.3が話しかけてきた。彼の手元にはやっぱりトランプがある。

「目には目を、歯には歯を、施設には施設を」

0はまた淡々と述べる。ピンと来た何名かは、ニヤリと笑った。

「君たちにはワイミーズハウスを潰してもらいます」



20140928

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