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「この子を貸そう」

数ヶ月後、伯爵が執事を伴ってやってきた。彼はよくわからないが、どこかの指示で探偵の真似事をしているらしい。大変だなぁ、と思いながら私は紅茶を入れた。それを持ってきた私を指して、葬儀屋はそう言ったのだ。2人の視線が私を捉える。私は冷静を装うと、葬儀屋に食ってかかる。

「店長、私聞いてませんけど」

「今言ったもの」

 しれっという葬儀屋に若干の憤りを覚えつつ、私は紅茶と菓子受けを机にセットする。上に置かれた資料を盗み見れば、どうやら最近騒がせている子供たちの誘拐事件のようだ。

「ああ、この事件ですか」

「何か知っているのか」

「いいえ、記事になっていること以上のことは存じ上げませんが…」

 嫌な感じがするんですよね、この事件。そう言えば葬儀屋はにんまりと笑った。






「で、ノアの方舟サーカス団に潜入ですか、しかも団員として」

私は展開の早さに目が回りそうだった。店を出て数時間後にはノアの方舟サーカス団のキャンプ地に着いていた。

「ああ、無理なら止めておけ。彼奴が貸すくらいだから使えるんだろうが、足手まといになられるのも迷惑だ。葬儀屋のところに戻ると良い」

 庶民の恰好に扮した伯爵が偉そうに言い放った。そんな態度じゃすぐばれるだろうと私は肩を竦める。私は大きなキャンプ地を見ながら答える。

「ここまで来て言いますか。執事任せの坊ちゃんよりか動けると思いますけどね…いえ、何も」

じろりと見てくる伯爵は流石に怖い。

「そこの執事殿には及びませんが、少しはお力添え出来ると自負しております。足手まといにはなりません」

 私は二人を見やる。どうやらこの執事は、私の正体に薄々気づいているようだし、私は遠慮なく意見させて貰う。

「ですが、一気に三人も新入りが来たらさすがに怪しまれるでしょう。私は裏から調査致します。そちらも素性の解らぬ葬儀屋の従業員と共に行動するより、二人の方がなにかと都合がよろしいでしょうし」

「それもそうだな」

「それが出来れば最善ですが…一体どうやって?」

「…そこは企業秘密というやつで。何かわかり次第、お二人の元に向かいます」
 
 私は訝しむ2人に背を向けると、瞬歩でその場を後にする。

「あいつ何者だ」

「大体の検討はついてますが…今はなんとも。敵に回すとやっかいかも知れません」



 私は彼等のキャンプ地が燃えるのを見ていた。どうやら伯爵にとっても因縁の相手だったみたいだし、あの男爵とやらはずいぶんとえげつない男だったし。このくらいの報いは当然か、と私は嘆息する。

「貴様、何者だ」

後ろから伯爵様がやってきた。どうやら私の調べ上げた情報は間違っちゃいなかったらしい。彼等は短時間でこの事件を攻略することが出来た。

「何者とは?」

「葬儀屋にいたときから怪しいと思っていたが、お前、人ではないな」

それは葬儀屋もなんだけどなぁ、とは声に出さず私はにんまりと笑った。

「伯爵様の執事と似たようなものかと」


20141010

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