black butler1
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さて、ここはどーこだ?

 百代と喧嘩した。お菓子はなにを食べるかとか、そういうくだらないものだったのだけど、譲らなかった百代はついに具現化して私に鬼道を放ったのだ。腰に提げてる百代は、まだ怒っているのか一言も喋らない。

 古い建物が建ち並ぶ街。どこまでも続く灰色の空。肌寒い気候。おそらくここは、

「ロンドン?」

 かの英京、ロンドンか。私はぐるりと通りを見回す。馬車にドレスに燕尾服。どうやら、面倒なことに百代のやつ、時までも遡ったらしい。落ちていた新聞の日付は19世紀後半。確か、イギリスが世界のトップを走っていた時期だ。人々は洒落た服を着ていて、いかに栄えているかがわかる。ため息をつくと、人々が訝しげな視線でこちらを見ているのに気づいた。確認してみれば、私は帽子を被っていなかった。大きな耳が丸見えになっている。私は再度ため息をついた。この悪趣味な神の嫌がらせはまだ続くらしい。
 
 私は通りの奥に入る。人目を確認すると、適当な新聞売りの少年に変化した。この街はどうやらこれまでの霊圧やチャクラや  のような、特異な力は無いように見える。久し振りに、私はただの人になれるのかもしれない。



 夜、暴漢に襲われそうになったので思わずナイフを投げた。私のナイフは男の頸動脈をぶったぎる。昼、これまでと変わるかもと思っていたのはどこへやら。私は相変わらず殺人鬼でしかないんだと自覚する。まぁ、仕方ない。そういうふうに育ったのだ。

「どうするかなぁ」

警察に捕まるのはやばいと思って、男の遺体を川に投げ入れた。浮浪者のようだし、喧嘩に巻き込まれたで片が付くだろう。そこから街をふらついて今後の住処を探していると、後ろから声を掛けられたらしい。

「見ーちゃった」

振り向くと、大きな帽子に黒いローブの男だった。見るからに怪しいその男は、ニヤニヤとこちらを伺っている。

「なんのことです?」

しらばっくれようと、私は肩を竦める。早く立ち去りたかった。一晩に2体も川に投げ入れたくないし。私は相手の出方をうかがう。彼はニヤニヤした笑みを崩さず言いはなった。


「君、死神だろう?」




 私は葬儀屋と名乗る例の怪しい男の生業を手伝うことになった。私があのとき欲していた宿を彼は提供すると言ったのだ。そのかわりに仕事を手伝えと。交渉は成立し、私は彼の助手になった。

 ある日、店番をしているとまだ幼げな貴族の少年とその執事らしき美丈夫がやってきた。猫の姿だった私は一旦ドアの向こうに行き、いつもの姿に戻った。ドアを開けて再度客人たちと対峙する。いらっしゃいませ。

「なに用でしょうか」

彼等はびっくりしたような目で私を見た。まぁそれは仕方ない、私は帽子もサングラスもしていないのだから。葬儀屋が大丈夫だと言ったからなのだが、やはり異質は異質らしい。

「葬儀屋に用があってきた、お目通し願いたい」

それでも落ち着いた様子で言う小さな貴族様。どうすればこんなに小さな子が貴族然となるのだろう。環境はやはり人を作るらしい。

「畏まりました」

私は奥に行って、彼を呼ぶ。

「先生、お客さんです」

「はーい、今行くよ」

私は茶でも準備するべきかと、そのままキッチンに向かった。あの貴族様は、どの茶葉がお好みだろうか。



 私が紅茶を持って客間に戻ると、3人が一斉にこちらを見た。私は無表情のまま、彼らの前に茶を並べていく。菓子受けは、王室御用達のクッキーだ。

「そういえばお前、従業員を雇ったのか」

「まぁね、可愛いだろ?」

 机の上に紅茶と菓子を置く。お暇しようとした私を葬儀屋は膝の上に座らせた。いやな顔をしても、ニヤニヤと笑っている。この世界で私はずいぶん子供扱いされていた。

「ひなた、こちらは伯爵。上客だ。それとこっちは執事のセバスチャン」

 私は名乗り、伯爵が差し出した手を握った。シエルと名乗るこの少年は美しく聡明そうで、貴族然としていた。

 セバスチャンとやらも伯爵にふさわしく上品そうな男だ。彼がじっと私を見つめるので、私は居心地が悪くなる。それを見て、葬儀屋が私の顎の下を撫でた。私は喉が鳴りそうなるのを必死に抑える。葬儀屋はそれをわかってて、面白そうに見ていた。

 耐えれなくなった私は、葬儀屋の膝から飛び降りると自室に逃げた。





「彼女はキメラか?」

「さぁ、我が輩と会ったときは既に耳を持っていたからね。その前も記憶も無いようだったし」

 その部屋では、セバスチャンだけが面白そうな顔をしていた。



20141010

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