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 しばらく仕事が無かったので、この町の甘味屋を全て制覇した。最後のアイスクリーム屋で全てのフレーバーを食べ終わったとき、ナユタから連絡が入った。

「ハンター試験?」

会社の一室で、ナユタは資料を見せてきた。

「そ。そのなかに今回のターゲットが何人もいるから、一斉にやっちゃおうって話なんだけど」

「試験も受けなきゃいけないんですか」

「どっちでもいいけど、確実なのは受験者に紛れるほうかな。ついでに資格も取ってしまえば、かなり便利だと思うよ」

「へぇー」

私はハンター試験について書いてある項目を見る。確かに七回も人生を遊んで暮らせるほどの価値らしい。

「いいですね」

「でしょ?」

ナユタは切符その他もろもろを棚から出してくる。

「じゃあこれはひなたちゃんの担当ってことで。変化していく?」

「いや、このままで」

イルミに黒崎の姿を見られたし。チャクラが使えないときに変化しなければいけない状況になったらまずいし。

「じゃあこっちの身分証だね。申し込みはこっちで済ませるから、この街に向かってね」

「わかりました」



 翌日の早朝、私は電車に乗り込む。昼頃になってやっとハンター試験の出発地点になってる大衆食堂がある町にやってきた。

 店を見つけると、少し観察する。見るからに怪しい男が次々と入っては、出てこない。どうやらここで合っているらしい。

私は店にはいると注文する。

「ステーキ定食、弱火でじっくり」

店主は驚いた顔をして店の奥に案内した。そんなに幼く見えるだろうか。

 
 地下には既に多くの人がいて、私は受付を済ませると角の方で壁にもたれかかった。その横で腕を切ったり切られたりしていたが、まぁいい。暗殺のターゲットをサングラス越しに確認する。それなりに腕が立ちそうで、最初の方でリタイアする事はないな、と安心する。中盤以降で機会を窺おう。計画を練っていると、オッサンが話しかけてきた。

「よ!俺トンパ!お前、新人だろ!」

「ええ」

「俺、 回目なんだ!良かったら試験のこと教えようか?」

「…いつもどこで落ちてるんです?」

そう言うと彼は、笑い飛ばした。そうだよなぁ、なんで俺こんなに何回も受けてるんだろうな!不機嫌になればいいと思って言ったのに、彼は愉快そうだった。器がでかいのか、バカなのか、なにか目的があるのか。私は慎重になる。

「よし、友情の証にこれやるよ!」

「…どーも」

彼は、ジュースをくれた。見るからに怪しいそれを、私は取り敢えず持ってきていたポーチにしまい込む。彼はそれを見ると残念そうに去っていった。これはどうやら毒らしい。



 それからもオッサンは懲りずにジュースを配っていた。数分すると試験管が来て、付いて来いと言う。私は試験管のすぐ後ろを陣取ると、彼についていく。

「ねぇ君いくつ?」

どうやら私に話しかけているらしい。目がくりくりとした少年だ。

「…9つ」
 
 私はナユタに設定された私のプロフィールを思い出す。名前はひなた、名字はない。流星街の出身で、正確な年はわからないが多分9つ。親も出自もわからない。今は拾われた先の謎のハンターの家で修行中。詳しく詮索されない便利なプロフィールになっている。

「へぇ!俺はゴン。くじら島の出身で、11歳!」

よろしくね、と握手を求めてくるが、私はそれに応じなかった。彼はポカンとしている。後ろの少年がこれは試験で全員がライバル。なれ合いは禁物だ、と言った。その通りである。

「そういうこと」

 私は後ろの少年をチラリと見る。するとなんとなく見覚えがあった。ゴンが彼をキルアと呼ぶのを聞いて、ゾルティック家の資料を思い出した。彼がゾルティック家三男にして、次期当主か。あの猫目の兄貴とは違って、彼は表情が豊かだ。


 
 全ての階段を登り終わると、そこには空が広がっていた。私は霊圧やチャクラを使わずに登りきった自分を内心誉めた。暗殺のターゲットを確認すると息切れしながらも、全員階段を登り切っていた。どうやらここが彼等の最後の場所になりそうだ。

「ここはヌメーレ湿原」

 試験管のサトツさんがこれからの説明をする。取り敢えずまだ彼を追えばいいらしい。私は、この湿原に住むという猿?が突然やってきたことに注目している隙に、サトツさんに霊絡を結びつけた。これで暗殺に行っても帰ってこれる。私にしか見えないそれは、とても便利だ。

 では、スタートです。というサトツさんは勢いよく湿原に飛び出していった。続いて飛び出す受験者たち。私は、取り敢えずターゲットたちを見失わないよう、彼らにも印を仕込む。 


 ターゲット一人目は、とある盗賊団に所属しているらしい男だった。それなりの腕前だと聞いていたのだが、湿原に入って早々カラスに騙されて崖を落ちていってしまった。なんだ、こんなものかと私は呆れる。死んだか確認に崖の下まで行こうとしたが、その谷は深すぎた。印も消えたし、死んでるだろうと、私はその場を後にする。

 ターゲット二人目は、裏家業で荒稼ぎしてるという筋骨隆々の大男。なんと見つけたときにはでっかい植物に食われていた。下半身の皮膚が溶けかかっている。えげつないことをするのは人間だけじゃない。悲痛な叫びを挙げる男はすほっといても死ぬだろうと思ったが、一応ナイフを投げておいた。

 最後のターゲットは、霧の濃い草原にいた。私は彼の印の気配を追う。しかし、彼の印の気配は一瞬で消えた。誰かに殺されたのだろうか。私は一応、彼の死を確認に向かう。やっぱり彼は死んでいて、私は仕事が減ったと内心喜んだ。

「そこにいるのは誰かな?」

 深い霧の中、声がした。この声には聞き覚えがある。確か、試験が始まる前に腕を切ったり切られたりしていた、ピエロの男。名前は確か、ヒソカ。どうやらこいつがターゲットをやってくれたらしい。

しかし、私は彼が苦手だ。

 私はここで彼と一戦交えるのは賢明ではないと判断し、霊圧を脚に込めると瞬歩で上空に跳ぶ。霧を抜けると、青空が広がっていた。

「今日はいい天気だなぁ、」

 私はサトツさんの霊絡の気配を探す。どうやら、少しばかし遠い。霊圧を脚に込めると、そのまま上空を駆けた。


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