1
::
ー悪い、寝ぼけちまった
そう言ったのは、私の斬魄刀、百代である。彼の能力は斬魄刀のなかでも特殊で、四次元の操作をすることができる。即ち、時間と空間を操ることができる能力である。
その彼が寝ぼけたのだ、どうなったのだと思う?
答えは簡単だ。
「ここはどこ?私は誰?」
まさしくこの状態。街中を行き交う人々、道を走る自動車。かつての現世にしては、突飛すぎる服装の人が多い。それとも、時を超えて文化が変わってしまったとか。それもおおいに有り得る。
「どうするべきか」
とりあえず当面の資金を手に入れなければと、この世界の通貨を確認する。しかしどうやら、全く違うらしい。所持してるいくらかの金は無駄になってしまった。
裏通りを歩いていると、骨董品店を見つける。どうやら質屋もやってるらしい。私は腰に下げている百代を見た。
「御免ください」
「おや、お嬢さん。なにかお探しかな」
店主は少し胡散臭そうな爺さんだった。
「これ、いくらで買います?」
私はカウンターに百代を置いた。百代は喚くが、当面の資金繰りが出来れば迎えに来ると説得する。
「ジャポンの品物で?」
「ええ、珍しい紅二重の柄に鞘。見る目のある御仁は相当な値を付けるでしょうね」
「ふぅむ、まぁこれくらいが妥当なとこでしょうか」
どうやら店主の趣味じゃなかったらしい。店主は悪趣味な装飾がされた電卓で買値を表示するが、私は納得いかない。
「そんなんじゃ売れません」
「じゃあ、これでどうだ?」
後ろから手が伸びた。その値は店主が示した額の数倍だった。誰かと振り返れば、まだ若そうなお兄さんだった。
「どちら様ですか?」
「突然失礼した、俺は小さな会社を経営しててね」
この値ぐらいだったら、出してあげることが出来るんだけどどうかな?
「とても魅力的です」
しかし実はこの刀は大切なものでして、いづれは再度買い取りたいのですが、可能ですか。普通、言ってはいけないことを言えば、彼はそうとうな事情があるんだなと言った。もちろんだとも、協力しよう。彼はそう言って口端をあげた。彼、よくみたら結構な美形である。額の十字が少し残念だが、多少の不気味さもまた美形たる所以だろう。
「じゃあ、お金が用意できたら連絡をくれ」
「ええ、もちろん」
彼は店を出るとすぐキャッシュで支払った。私は口座開設のために銀行へ急ぐ。身分証は適当に幻術でどうにかしよう。
百代はすでに彼の手の中にある。ばーか、お前なんか路頭に迷ってしまえ!という声が聞こえるが、誰のせいでこうなったと思っているのだ。
「では、また」
振り向くと、もう彼はいなかった。少し、百代の行方が心配になったが、まぁ大丈夫だろう。一応、一切術が発動しないように縛道で封じたから、ただの切れ味がいい日本刀だ。
20141003
prev /
next