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ー悪い、寝ぼけちまった

 そう言ったのは、私の斬魄刀、百代である。彼の能力は斬魄刀のなかでも特殊で、四次元の操作をすることができる。即ち、時間と空間を操ることができる能力である。

 その彼が寝ぼけたのだ、どうなったのだと思う?

 答えは簡単だ。

「ここはどこ?私は誰?」

 まさしくこの状態。街中を行き交う人々、道を走る自動車。かつての現世にしては、突飛すぎる服装の人が多い。それとも、時を超えて文化が変わってしまったとか。それもおおいに有り得る。


「どうするべきか」

 とりあえず当面の資金を手に入れなければと、この世界の通貨を確認する。しかしどうやら、全く違うらしい。所持してるいくらかの金は無駄になってしまった。

 裏通りを歩いていると、骨董品店を見つける。どうやら質屋もやってるらしい。私は腰に下げている百代を見た。

「御免ください」

「おや、お嬢さん。なにかお探しかな」

店主は少し胡散臭そうな爺さんだった。

「これ、いくらで買います?」

私はカウンターに百代を置いた。百代は喚くが、当面の資金繰りが出来れば迎えに来ると説得する。

「ジャポンの品物で?」

「ええ、珍しい紅二重の柄に鞘。見る目のある御仁は相当な値を付けるでしょうね」

「ふぅむ、まぁこれくらいが妥当なとこでしょうか」

どうやら店主の趣味じゃなかったらしい。店主は悪趣味な装飾がされた電卓で買値を表示するが、私は納得いかない。

「そんなんじゃ売れません」

「じゃあ、これでどうだ?」

後ろから手が伸びた。その値は店主が示した額の数倍だった。誰かと振り返れば、まだ若そうなお兄さんだった。

「どちら様ですか?」

「突然失礼した、俺は小さな会社を経営しててね」

 この値ぐらいだったら、出してあげることが出来るんだけどどうかな?

「とても魅力的です」

 しかし実はこの刀は大切なものでして、いづれは再度買い取りたいのですが、可能ですか。普通、言ってはいけないことを言えば、彼はそうとうな事情があるんだなと言った。もちろんだとも、協力しよう。彼はそう言って口端をあげた。彼、よくみたら結構な美形である。額の十字が少し残念だが、多少の不気味さもまた美形たる所以だろう。

「じゃあ、お金が用意できたら連絡をくれ」

「ええ、もちろん」

 彼は店を出るとすぐキャッシュで支払った。私は口座開設のために銀行へ急ぐ。身分証は適当に幻術でどうにかしよう。

 百代はすでに彼の手の中にある。ばーか、お前なんか路頭に迷ってしまえ!という声が聞こえるが、誰のせいでこうなったと思っているのだ。

「では、また」

 振り向くと、もう彼はいなかった。少し、百代の行方が心配になったが、まぁ大丈夫だろう。一応、一切術が発動しないように縛道で封じたから、ただの切れ味がいい日本刀だ。

20141003

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