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目が覚めると、私は猫だった。え、なにこれ。私は隊舎の自室で寝てたんじゃなかったっけ。え、どういうこと?
周りを見ると小さな洞窟に猫が沢山いた。どうやら群で生活しているようだ。洞窟を出てみると視界一面に砂漠が広がる。ここはどこ、私はだれ?今まさにその状態。また私は死んだのだろうか。それとも、ここは噂に聞く虚無圏だろうか。
「目が覚めたかい、ここは砂の里の近くの猫の村。私たちは忍術が使える猫」
そう言って、一匹の雌猫が近づいてきた。あなたは砂漠の中を倒れていたのよ。きっと、むかし群れからはぐれたのね。
そういうことにしておこうと、私は頷いた。
夜になると、忍猫たちは活動を始めた。どうやら人を襲うらしい。近くのオアシスに立ち寄る時を狙うのだとか。見に行ってみると彼らは不思議な力が使えた。印を組んで、力を使う。金品を手に入れた彼らは、人の姿に化けて買い物に出かけた。
彼らの術は鬼道とはまた違うらしい。私は鬼道や縛道、回道が使えたことで、彼らの中で重宝された。
死神の姿に戻れることも発見した。ただ、どこを探しても百代は見つからなかった。また拗ねてるだろうな、と思ってうんざりする。でもアイツがないと、困る。
ある日、人間がやってきた。猫曰く、近くの里の人間だと。彼等は最近活動が激しくなっていた、我々忍猫を捕縛に来たらしい。
「猫が調子に乗るなよ!」
沢山の仲間が連れて行かれそうになった。私は此方にきて覚えた幻術で彼らを追い払う。しかし、人間の数は多く、私たちは追い込まれてしまった。やっぱり本気を出せば良かっただろうか。
「よくやったお前たち、攻撃やめ!」
先生!と人間たちは言う。どうやら、こいつらは学校の生徒で、この忍猫捕縛は授業の一環だったらしい。
「忍猫の諸君!我々の言いたいことはわかるだろう!」
そう言って彼は昨今の忍猫の所業を淡々と語った。それに対し、若い衆がそれは人間が勝手なことをしたせいだのなんだの言っていた。それは本当のことなんだろうけど、図星を突かれたらしい人間は若い衆を蹴ろうとした。
「鈍!柳!勝手な行動は慎め!」
先生とやらから怒られた人間はすごすごと下がっていった。先生とやらは赤い髪に長いマントを羽織っていて、雰囲気からしてどうやら凄腕であるとわかる。
「幻術を使っていた猫は誰かね?話がしたい」
「「………」」
仲間は沈黙した。
「もし交渉に応じてくれるんであれば、砂の里は金輪際忍猫の邪魔をしないと誓いを立てよう」
「………」
ちらちらと、人間の言葉がわかる仲間が私を見た。赤い髪の忍者はそれに気づいているらしい。私を見る。
「……幻術を使っていたのは私だ」
私は彼の方へ向かい、死神の姿になった。黒い着物が風にはためく。
「ほう、人の姿になれるのか、面白い」
そう言って彼は私に交渉を持ちかけた。
20141001
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