優秀な執事の頂上決戦。
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執事が頂上決戦に参戦するIF設定




 紳士淑女の皆々様、ご機嫌麗しゅう御座います。

 私はマリンフォード上空三千メートルにて海軍を監視しているところであります。何故かって?もちろん海賊王の息子の処刑を食い止めるためであります。実のところを申しますと、昨晩まで私は手を出す気はさらさら無く、もうこの時が来たのかと内心ため息を吐いておりました。しかし、お近くで新聞を読んでらした坊ちゃまが、その肩を震えていらっしゃったのです。

「エース死んじゃうのかぁ…好きだったのになぁ…」

 そうお優しい坊ちゃまが涙ながらにお嘆きになるものですから、私としては何としてでも叶えて差し上げなければなりません。





「遠い記憶なので明確ではないですが、彼の弟が現れるまで彼は無事。確か大将の一人がトドメをさしたはずですから、その前にケリをつけてしまいましょう」


 頼みましたよ、そう私が話しかけたのは、戦艦一隻はあろうかというでかい蛙で御座います。おや、失礼いたしました。淑女の皆様には少々視覚的に刺激が強かったでしょうか。このように巨大な蛙をご覧になるのは、おそらく初めてでいらっしゃいましょう。見た目は少々突飛ですが、いい友人なのでご容赦を。名をトノサマと言います。




 坊ちゃまには話していなかったのですが、私は坊ちゃまと違ってもう1つ世界を渡ってこの世界にやってまいりました。



 その世界というのが、おっと、麦藁が現れたようです。ついに始まってしまいましたね。まぁ、ご覧頂ければおわかりになられるでしょう。







「忍法、多重影分身の術」



目の前にざっと百人はいるだろう私の分身が現れます。


「変化!」



 そして、手配書で確認したとおりの、海賊王の息子に変化いたしました。実物にお会いしたのは遠い昔ですので、似ていなくてもご容赦戴きますよう。これで少しは混乱を招けると良いんですが。そして私達はトノサマに乗って、雲をかいくぐりマリンフォードへと落ちていきます。


 そう、皆様もうお分かりかと存じますが、私は忍者の世界を経由し、この世界にやってまいりました。









 さて、死刑台の前に着地した私たち。期待通り海軍、海賊共に混乱しておいでです。確かに目の前に百人近くの同じ顔を持つ集団が現れ、しかもその顔が今まさに処刑しようとしている男の顔であれば、錯乱せざるをえないでしょう。



 騒ぎの中心、トノサマの頭の上にいる私は死刑台にいる二人を連れ出すタイミングを図ります。



「なんだあいつー?!」

 私は海賊王の息子とその弟である麦藁の方に向き直りました。ちなみに私は、忍者時代を再現した装束に、坊ちゃまのコレクションから拝借した赤い般若の面を付けております。坊ちゃまが七武海である手前、私の顔は既に海軍に割れておりますから。


「トノサマ、頼めますか」

 あいよ、と言ってトノサマが口を開きます。次の瞬間、舌が伸びて海賊王の息子とその弟を巻きとり、その大きな口の中にお二人を収納いたしました。


「保護完了ですね」

 な、なんだあいつはー!!と海軍の方が叫ぶ声がいたしました。なんだと言われましても、お答はできません。さてと、中心から離れましょう。トノサマの足下では海兵達が刀やピストルを奮って攻撃をしかけてきていますが、トノサマの肌はそんじゃそこらの武器では痛くもかゆくもありません。



「名乗りもせずにとっていくんは、道理がなってないんじゃないかのぅ」


後ろから聞こえたのは渋い良い声でした。かの有名な海軍大将の赤犬で御座います。


「おや、名乗ったら素直に渡してくれるのですか?」

 意図的に声色を変えて、赤い大将に向き直りました。会議の際、何度か拝見したことがある硬派で渋いお顔立ち。若い頃はさぞおモテになられたんだろうと勝手に前から推測しております。あと三十年若ければ、私もと思うのですが。いかんせん私も歳をとってしまいましたから。


「彼らを生かすのは天命、それ以外に理由はありません」

 本当は坊ちゃまが悲しむ姿を見たくないだけなのですが。ってことでさっさとずらかります。

 赤犬をはじめとする大将格には、残ってる分身達を向かわせました。黒ひげはまだ現れておりませんし、白ひげの親父さんも無事のようです。あの気のいい親父さんを亡くすことにならなくて、本当に良かったと私は心底安心いたしました。


「風遁、波龍神の術」

 空から出てくる龍。まぁ足止めくらいにはなるでしょうか。騒ぎの中心からひとっ飛び。参戦しているはずの見知った顔を探します。お、いました。



「ローくん」

「あぁ?!なんなんだお前!」

小さい頃からお世話していたのに、そんな口をきくようになったとは。実家の可愛がっていた犬が久しぶりに帰ったら吠えてきたくらいに悲しいものがございます。




「あとはあなたに託しますね」


そう言うと、さっきとは逆の要領でトノサマの口から2人をローくんの船の甲板に吐き出しました。トノサマの口の中はチャクラで満たされているため、お二人は幾分か回復しているはず。


「では、皆様ご機嫌よう」

海軍も海賊も周りで叫んでおりましたが、トノサマは雲の上までジャンプいたしました。景気づけに雷を一つ、処刑台に堕としたことはお許しください。






 翌日、坊ちゃまお気に入りのアールグレイを用意しておりましたところ、坊ちゃまが慌ただしい様子で現れました。いつもは悪役らしい歩き方を意識してふんぞり返ってらっしゃるのですが、珍しいこともあるものです。

「ナマエ!これ見た!?」

「はて、なんでございましょう」

「頂上決戦だよ!」

そう言って目の前に広げられた新聞。そこには、頂上決戦が完全に海軍の負けに終わったことが書いてあります。

「エースもルフィも、白ひげも無事!!」

踊り出しそうな坊ちゃまに、私は口端が上がります。こんな嬉しそうなお姿を拝見するのは久しぶりでございます。

「この人誰なんだろうな!」

「………さぁ」

新聞の一面に掲載されてるのは、蛙に乗った赤い般若の写真でした。よくあの戦況の中で写真を撮れたなぁと、感心してしまいます。

「能力者かな!」

「確かにその可能性は高いですねぇ」

 人事のように言う私。

「賞金三億だってよ!」

「はい?」

「だから、このお面の人と蛙!正体不明だから、情報だけも高く買ってくれるらしい!」

 すげえなぁ!と興奮する坊ちゃま。その後ろで私は思わず苦笑してしまいます。その人物なら坊ちゃまのすぐ後ろに。そう言えるはずもなく、私は紅茶にミルクを注ぎました。

 皆が恐れる悪のカリスマは、砂糖たっぷりのミルクティーがお好きなのです。今朝焼いたクッキーも一緒に差し出せば、坊ちゃまはニコリと笑う。

「ありがとう、ナマエ」

 その言葉に私は微笑みで応えます。例え誰かが死のうとも、この人が笑っていられる未来があれば、私はそれでいいのです。






20141217
あまり大筋を変えることはしない優秀な執事が、頂上決戦に参戦したら。普段は小さいことであれば原作とは違う方向に持って行くこともある執事。自分がやってることが独善的だとわかりつつも、自分の中で一番優先すべきドンキホーテ家の幸せのためなら大筋を変えるようなことになっても動いてしまう。人間離れしてるくせに、人間くさい。そんな優秀な執事。

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