秘密は墓まで持っていく
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「ナマエ!」
「ん?」
あれから数ヶ月がたった。尸魂界は、まぁまぁ落ち着きを取り戻した。朽木隊員の処刑はパーになったし、藍染の計画もぶっ潰れたし。旅架も無事に現世に帰って行った。日がな一日、隊舎の屋根の上で欠伸をしていれば、頭が眩しい我らが斑目三席が呼びにきた。
「施設に行くぞ」
そう言って斑目三席は私の頭をぐりぐりと撫でた。旅架襲来以来、狛村隊長が虚無僧を止めたので、私も習って帽子とサングラスを止めたのだ。周囲は驚いていたが、十一番隊に細かいことを気にする奴は少なかったし、他の人もなにも言わなかった。
「はーい、」
斑目三席に連れられてやってきた、精霊廷内にある矯正施設。このふさがれた感じといい、排他的な感じといい、どこか懐かしい。
「ナマエさんっ!」
「はいはい、藍染くんはいつも元気ですね」
目の前にいるちびっ子。彼はかの藍染隊長である。私の斬魄刀、百代の能力は四次元の操作。すなわち、時間を操ることだ。久しぶりに使ったその能力は、彼から時と記憶を奪った。
「お疲れさまです、雛森さん」
「うふふ、2人とも元気で」
施設で彼と、同じく幼児化した東仙隊長の世話をするのは、雛森副隊長。いや、彼女はもう副隊長ではない。休隊して、ここの職員になったそうだ。まぁあれだけ藍染隊長に傾倒していたんだ、無理もない。けど、結構似合ってると私は思う。彼女は聡いが、戦いに向いている人ではない。
「どこか具合の悪いとこはありませんか」
「はい、変わりありません」
藍染少年はきらきらした目でこちらを見る。なんでこんなに純粋そうな少年がああなったのか。猜疑的になる。もしかして彼はすでに、あの藍染の資質を持ってるのではないかと。
「あの、これナマエさんにあげようと思って!」
昨日のおやつだったんですけど、今日ひなたさん来るって思ったので残しておいたんです!…なにこの子、いじらしい。
「どら焼きですか、いただきます」
変わりと言っては何ですが、大福をあげましょう。私は藍染少年の小さな手に乗せる。どら焼きは普通に美味しかった。
「キミ噂になっとるよ」
ここは犬飼の甘味屋。かつての女将が切り盛りしている店だ。隣に座ったのは市丸三番隊隊長だった。私は団子を頬張りながら、そうでしょうねぇ、と返事をする。
「いつから気づいてたん」
「結構ギリギリでしたよ?」
元から胡散臭いやつだとは思ってたけど、特に害はないと判断していた藍染隊長。殺されたと騒がれてから、彼が死を偽りなにか企てているのだと気づいた。好奇心から、その蓋を開けてやろうと調べてみると、彼の研究資料やかつての事件の詳細を見つけた。そして崩玉の存在を知ったのだ。
「そこから朽木隊員のところにいって、崩玉取り出して、壊して。…それからは知っての通りですかね。事の顛末を確認に行きました」
もし、もっと行動が早ければ、日番谷十番隊隊長と雛森さんは致命傷を負わなくて済んだかもしれない。別に私が心を痛めることではないが、そんな疑念が周囲から漏れてるのも事実だ。
「お団子もっと食べる?」
「…わらび餅がいいです」
懐柔されてるなぁ、と思いながら、ついでにお汁粉もリクエストする。持ってきてくれた紫乃さんに、ふふふと笑われる。尻尾が揺れているから、感情がバレるのだ。
「ほんまに猫みたいやね」
「…市丸隊長は気づいてたでしょう」
それから草鹿副隊長も気づいていたみたいだし。案外隠せてなかったらしい。
全ての甘味を食べ終わると、紫乃さんがやってきた。
頭には見覚えのあるバンダナをしている。
「ナマエ、元気そうでよかったわぁ」
「はい、相変わらずです。紫乃さんもお元気そうでよかった」
二号店も出店しただとかで大忙しのお店は、顔見知りばかりだ。私はさっさとお暇しようと、お勘定をしようとする。紫乃さんはナマエからは貰えへんわ、と言って断った。いやいや、売上に貢献しないといけないですから。そんな押し問答が続く。
「そんならボクが払うわ」
そう言って市丸隊長が懐から巾着を取りだした。あら、ええのにと言いながらも紫乃さんはお金を受け取った。商売上手は女将から受け継いでるらしい。
隊舎までの帰り道、市丸隊長は不意に尋ねる。
「本当に壊せたん?」
「…さぁ」
企業秘密です。
そう言って笑えば、市丸隊長は不服そうな顔をした。
隊舎に帰ると、十一番隊の面々はどういうわけか喧嘩をしていた。彼らが喧嘩をするのに対した理由はなく、強いて言えば体を動かしたかったのだろう。
「ナマエ、お前も来い!」
斑目三席がそう言うので、私は苦笑しながらも喧嘩に混ざることにする。
これが、この世界での私の平和的日常だ。
20141001
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