王道ルートを攻めてみたけど
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 十一番隊隊舎にきて一週間。私はそこで主に、書類の作成と整理をしていた。と、いうかそれをしなければいけない人、更木隊長が机に座らない人だから、十一番隊の事務作業は全て斑目三席と綾瀬五席を中心とした席官で担っていた。

「まぁでもナマエちゃんが来てくれて、随分楽になったんだよ」

「そうですか」

「ナマエ。これもう上には提出してあるからよ、各隊に配ってこい。こないだの虚討伐報告書だ」

「え、嫌です」

そう文句は言っても、新入りなので逆らわないことにする。他の下っ端に頼めよ、と思うのだが、今は虚の討伐だったり流魂街の見回りだったりで人が少ない。

「全部ですか?一人で?」

「おう、異動の挨拶がてら行ってこい」

「…はーい」

山のような書類を綾瀬五席が風呂敷に詰めてくれた。どうやら背負って行かねばならないらしい。…絶対途中で誰かに押しつけてやろ。

「いいトレーニングになるよ」

笑顔で言う綾瀬五席は、どSだ。



とりあえず近い順に行くかと、十二番隊の隊舎、化学技術局を覗いた。十二番隊は私がどこの部隊に所属しようとどうでもいいだろう、と、隊長以外の安全そうな職員を探す。

「あ、阿近さん」

「ナマエか。久しぶりだな」

 真央霊術院時代に世話になった阿近さんがいた。彼は一見無愛想だが、とても頼りになるのを私は知っていた。

「これ、先日の報告書です。各隊に配ってこいとの斑目三席の指示で持って参りました。隊長さんにお願いします」

ご苦労さん、と言って阿近さんは受け取る。また変なの出てんだなぁ、とぼそりと呟く。

「ではこれで失礼」

「おう、」

彼は私が涅隊長に目を付けられてるのを知っているので、さっさと追い出してくれた。




 次に向かった十三番隊の隊舎は少し離れていて、穏やかな森のなかにどっしりと構えていた。

「十一番隊四席、阿修羅です」

十三番隊は慌ただしく部屋の整理をしていた。どうやら誰か来るらしい。誰も私から書類を受け取ろうとしない。常に綺麗にしておけよ、と思っていると、誰かが奥からやってきた。


「あれ、君はお客さんかい?」

「…浮竹十三番隊隊長、お休みのところ失礼しております。十一番隊四席、阿修羅です」

そう言って膝を付く。どうやら目の前のこの寝間着の男が、十三番隊の隊長らしい。起きて大丈夫ですか隊長、ご加減はいかがですか隊長と隊員に慕われてるのを見るに、かなり人望はあるらしい。入隊して一年以上が絶つが、滅多に会うことがないから顔さえ知らなかった。

「ああ、阿修羅さん!狛村のお気に入りで、この間十一番隊に異動になった子だね!」

「ご存知とは、恐縮です」

事実、彼が私なんぞ知ってることに驚いた。とりあえず仕事をすまそうと、書類を取り出した。

「本日はご挨拶と、報告書の提出に参りました。以後、どうぞよしなに」

ああ、もちろん!と言って浮竹隊長は笑った。菓子でも持って行くかい、たくさんあるんだ、と言って懐から菓子を出してくれたので、有り難く頂戴した。




 道を戻って十番隊。そろそろ十一番隊の誰かが通らないかと見知った顔を探すが、どこに行っているのか、人相の悪い顔は見あたらない。十番隊の門の前でため息を吐く。ここの隊長も私はあまり得意ではないのだが仕方ない。浮竹隊長から貰った飴をもったいないと思いながらも、噛み砕いて、扉を開く。


「御免。十一番隊四席、阿修羅です」


近寄ってきた隊員に渡してしまおうと、書類を取り出す。そのとき、奥の扉が開いて豊満な体の女性が現れた。



「あらナマエじゃない!なにやってんのよ!」

「見ての通り、書類の提出に」

「じゃあ隊長ね、こっち来なさいよ」



腕を引っ張られる。書類片手にぐいぐいと奥に連れて行く女の人は、松本さんと言って、この隊の副隊長だ。草鹿副隊長繋がりで知り合ったのだ。彼女は誰にでも優しく社交的で、あまり関わりたくなかったのだが、見知った仲になってしまった。引きずられながら後悔する。ああ、さっさと入り口で渡してしまえば良かったのに。


「隊長、書類でーす」

「松本、お前いい加減に自分も仕事しろよ?」


奥の部屋の隊長室。うちのとこと違ってちゃんと機能している。はーい、と言って松本さんはソファに寝転がった。大きな隊長机に座る小さな少年はため息をついた。小さな少年と言っても、私より身長はあるのだけど。


「あ、ナマエ!そこの棚にお煎餅あるから取って」

「…はぁ」

「阿修羅か。そう言えば昇進したんだってな」


おめでとう。小さな少年、もとい日番谷十番隊隊長は書類から目を上げた。疲れた様子がなんともかわいそうである。彼とは七番隊での仕事で何回か顔を合わせたことがある。若いのに隊長とは大変だと思う。

「あ、そうだった!十一番隊の四席ですって?すごいじゃない!まだ入隊して二年も経ってないでしょ?!」

「ありがとうございます、」

「仕事さぼってばかりだと引きずり落とされるんじゃねぇか、松本」

「やだなぁ、隊長ったら私がいなくなったら寂しいくせに」


 二人は言い争いを始めたので、私はしれっと去ることにした。わざと小さい声で言った失礼します、と声は二人の耳にはいることは無かったらしい。



 かったるいと思いながら、歩いていると、人相の悪い隊員たちを見つけた。
人相が悪いのは、大概十一番隊だ。


「すみません、そこの十一番隊」

「あ?あ!失礼しやした!うちの四席さんじゃないですかぃ」


 入隊初日にプチ乱闘をしたせいか、私に刃向かう隊員はいない。まぁ、射場さんの後ろ盾もあってのことだと思うけど。彼らは急に態度を変える。


「いま手は空いてますか」

「へぇ、ちょうど流魂街の見回りから戻るところでさぁ」

「それはよかった。この書類を一番隊から九番隊までに頼みます。私は急用が出来まして」

「へぇ、了解しやした」


 私は背負っていた書類を男の手に掛けてやると、その場を瞬歩で離れた。






「ただいま帰りました、って、あれ?」

隊長室を開けると、そこには斑目三席に肩車されて、壁に装飾する草鹿副隊長の姿があった。そこには“ようこそ、にゃんにゃん”の文字。テーブルには酒やら肉やら菓子やらが並び、どうやら祝おうとしてくれていたことがわかる。

「あれれれー!にゃんにゃん早くない?」

「本当、ナマエ君ちゃんと各隊回った?」

「副隊長っ、上で暴れないでください」


席官始め、多くの隊員が広くはない隊長室にいて準備をしていたらしい。どうやら先ほどの書類も私を隊舎から遠ざけるための罠だったようだ。


「まぁなんつーか、若いくせに頑張ってるしよぉ。初日はあれだったし、ちょっと祝ってやんねーとなって、思ってな」

「つるりんが言い出したんだよー!」

「十一番隊にようこそ、ナマエちゃん」

「「阿修羅四席、ようこそ十一番隊へ!」」


がははっ、と笑う隊員たち。奥に陣取っていた隊長が思い立ったように、起き上がった。隊員たちは少し静かになる。いつの世だって、ボスは怖いらしい。


「阿修羅、」

「は、」

「お前は実は好戦的だと狛村から聞いていた」


見れる日を楽しみにしてるぜ?そういう隊長の言葉に、私はゾクリと寒気がした。そのあと隊長は小便と言って窓から出て行って帰らなかった。




20140930

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