思ひ出はなし
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 以上が、私がこの世界の死神になる前の話である。私は一年足らずで真央霊術院を卒業し七番隊に席官として配属された。今は八席である。耳を隠すためのニット帽。それから、光の加減で虹彩が変わる猫のような眼を隠すための、サングラス。この目のことは村にいたときは、みんな気にしてなかったのだがやはり都会だからか蔑視する人も多かろうと、射場さんに選んで貰ったのだ。それらのせいか、真央霊術院の卒業最短記録だからか、はたまた狛村隊長に気に入られているからか、私は護廷隊内で少しばかし有名だった。

 私の村のその後が気になるだろうか。あのあとは、二週間ほどして回復した紫乃さんは犬飼に向かった。バンダナを渡すと、紫乃さんは静かに泣いた。紫乃さんも兄さんが好きだったのだ。

 村の住人たちは、今も犬飼で上手くやっているようだ。女将は私を抱きしめて、いつでも帰ってこいといった。彼女は犬飼で甘味屋を始めていて、もう評判になっていた。侮れぬ商才だと思った。


「七番隊八席、阿修羅ナマエ。十一番隊に異動を命じる。また、四席への昇進とする」

狛村隊長はいつだって優しく、大きかった。彼はたぶん、私の耳のことも知っていた。そして私は、彼も同じであることをなんとなく気づいていた。

「は、謹んでお請けいたします」

一週間ほど前に内示が出た時はびっくりした。狛村隊長は私を手元にずっと置いておくと思ったから。しかし、それでは変化がないと思ったのだろう。まさか十一番隊とは思わなかったが、私は異動することになった。

「二年足らずで四席とはのぉ、」

あの生意気なガキがよう成長したわい、そう横で射場さんが言うので私は得意げになる。

「まぁ、お前になにか言うやつがいたらわしがシメに行っちゃるけぇの」

射場さんの古巣らしい十一番隊は、ゴロツキの集まりで有名だ。血生臭い思い出がよみがえるが、きっと大丈夫だろうと考える。三席の斑目さんも、五席の綾瀬さんも知り合いだし、副隊長に至っては一緒に甘味を食べにいく仲だ。どうやら気に入られているらしいから、安心している。

「精一杯、精進して参ります」



20141001

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