掴みたいものがある
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紫乃さんのお付きの女の子は、迎えに来た疲れた様子の女将に連れて行かれた。村の男衆が全滅したことなど、私の口から言えるはずもなかった。
ここは精霊廷にある、護廷十三隊七番隊隊舎。紫乃さんは救命担当である四番隊隊舎とやらで治療を受けている。私は風呂に入れられて、血みどろだった服を着替えさせられた。風呂に入れてくれた女の隊員が獣耳を見て悲鳴をあげていたがまぁいい。新しい包帯を巻き、私はサングラスと虚無僧の二人の死神の前に座っていた。
「して、ナマエ殿。今回は到着が遅れて本当にすまなかった」
虚無僧は深々と頭を下げた。それを見てサングラスが慌てている。そっか、この人はそう軽々と頭を下げて良い身分じゃ無いんだな。瞬間的に理解する。
「はい、死神はいつもそうです」
「なに言っとんじゃわれぇ!」
「鉄左衛門、」
すみません、しかし、とサングラスが言う。私もこんなことを言われたら怒ると思う。どうやら虚無僧隊長は器がでかい。
「そうか、死神はいつもか」
「ええ、いつもです」
「それは本当に申し訳ない」
上にも報告しておこうと彼は言った。
私は彼は信用するに足ると少し安心した。
「君のその能力だが、私たちは死神となることを強く薦める」
君のその能力は君の大切な人を傷つける可能性だってある。
君は、もっと統制する力を身につけねばならない。
「地方地区の警戒を強化することを進言すると約束しよう。そして治安が保たれることも、約束しよう」
護る力を、手に入れないか。
その言葉は、とても甘美な響きを伴った。誰のためでもなく、自分のためにその力を使おうと思った。私は、平和と安寧しか望まない。
20140930
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