色づく心とその痛み
::
七番隊がそこに到着したとき、そこで息をしている者はいなかった。
「随分とひどい有り様だな」
狛村は血だまりになった村の入り口を見た。この村の男たちは村を守るために戦ったんだとわかる。
「どうやら第70地区の若者による襲撃らしいですわ。女子供は先に第68地区に逃がしたんだそうで」
射場の報告を、狛村は黙って聞いていた。
「ん?」
「虚の霊圧ですのぉ。しかも2体」
「鉄左衛門、」
「了解しやした、おいてめぇら!行くぞ!」
おう!と言う若い衆を連れて射場は虚の討伐に向かった。狛村はそれを見送ると、村を見て回る。手入れがされた畑に、整然と並ぶ家屋。何軒かの店は洒落ていて、とても治安の悪い芦原の村だとは思えなかった。
「ここの遊郭が大きな力を持っていたみたいですね、」
部下の一人が村で一番大きな建物を指差して言う。確かに権力が有りそうだと、狛村は納得する。
「消えたな」
「虚ですか、確かに。けど、」
「ああ、七番隊以外の誰かの霊圧があるな」
そのとき、伝令に若い席官が戻ってきた。
「射場副隊長より、狛村隊長へ!至急来られたしとのこと!」
「わかった、」
洞窟を背にエイリアンを相手にする。こいつは切っても切っても再生する腕を持っていて、非常にやっかいだ。
「紫乃姐さん!」
後ろで紫乃さんのお付きの女の子が、泣いてるのがわかった。紫乃さんは彼女を庇ったときにできた傷で、もう、虫の息だ。仕方ない、
私は百代を地面に刺す。
「百代、頼むよ」
ーしゃあねぇなぁ。
紫乃さんが光に包まれる。百代はすごく気分屋だ。それにとても気難しい。だから後で団子でもおごってやらなきゃいけないだろう。
いま、紫乃さんの時間は止まってる。百代が時間を止めているのだ。その間は刀は使えない。ので、私は拙い鬼道でエイリアンの仮面を狙う。
「蒼火墜!」
仮面の端が欠けるも、虚の致命傷には至らない。私は、自分の能力の拙さにイライラする。
「ーーー鬼道の三十一、赤火砲!」
気づくと虚の仮面は割れていて、その姿を消していた。もう一匹も、何人かの死神に囲まれている。どうやら、やっと死神の到着らしい。
「お前さん、大丈夫か」
サングラスをしたゴツい死神が、私の目の前に立った。私はなんでもっと早く来ないのかと憤慨したくなった。死神の問いには答えず、洞窟に向かう。そこでは、女の子が泣きながら紫乃さんにしがみついていた。
「ナマエ、紫乃さん、息してない…!」
「…大丈夫、多分」
「怪我人がおるんか、見せてみい」
サングラスの死神が、割って入ってきた。洞窟から出た紫乃さんと女の子は、想像以上に困憊している。
「治せますか」
「おおよ。おい!そこの!お前さん、元四番隊じゃったなぁ!」
は、はいっ!と言って若い死神がやってきた。こいつが紫乃さんを治療するらしい。患部をみて、どうやら治療出来ると判断したらしい。時間を進めなければ。
「百代、ありがとう」
ーおお、団子どころじゃ誤魔化されねぇぞ
「ああ、わかったよ」
地面から刀を抜くと、紫乃さんは息を吹き返した。
若い死神が治療を進めるのを見て、刀を仕舞う。その姿をサングラスの死神が訝しげに見ていた。
「なんじゃ、お前さん、斬魄刀持ってるんか」
「ザンパクトウ?刀のことですか、?」
「そうじゃ。死神しか持ってないはずなんじゃがのう」
死神の言葉に少しトゲがあるのを感じて、私は不機嫌になる。大事なときに来ないわ、来ても遅いわ、偉そうだわで最悪だな死神。
「…一年ほど前に、森で拾ったんですよ」
「ほんまなんじゃな?」
「ええ、ここらは戦えないと生きていけませんから」
皮肉じみてそう言えば、死神は少し図星に思ったらしい。そう、もっと死神が働いてれば、戦わなくても生きていけるのだ。
私は、台車を確認する。どうやら、二人の他に三人ほど住人がいたらしい。その住人は虚に食われてしまったのだろうか。私は、顔をゆがめる。力があっても、助けることが出来なかった。優しかった住人の顔を思い出す。死がこんなにも悲しいのだと、私はこの世界に来て初めて知った。
「お前さん、死神にならんか?」
「は?」
「その力、もっと極めたいと思わんのか」
「肝心なときにいないようなやつになんて、なりたくありませんね」
そう言うと、死神は嫌みに気づいたらしい。苦い顔をした。
「これから、うちの隊長もくるけぇ、ちょっと話してみちゃくれねぇか」
嫌です、そう言おうとした後ろで、女の子が、紫乃姉さんと叫ぶ声が聞こえた。私は走る。
「紫乃さん、」
「手は尽くしたのですが、傷が深くて…」
「…あんたらがもっと早く来てれば、紫乃さんはこんな傷負わなかったんだ」
「まあまあ、落ちつきんしゃい。お前さんの頭の傷は大丈夫なんか、」
「触るな!」
取り乱していた。そう思う。紫乃さんは自分の中で相当大切な人になっていたのだと、そのときになってやっと気づいた。
「鉄左衛門、」
低い声が響く。
「隊長」
彼らの隊長は大男の虚無僧だった。
20140928
prev /
next