こみ上げる感情の名
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 ここにきて一年。私はとある街に住み着いた。第69地区芦原にある、小さいが栄えた集落。用心棒として雇われた先の遊郭の女将が、いたく私を気に入ったのだ。遊郭の小間使いとしての仕事も得た。

「ナマエ、こっち来てん」

「あら紫乃さん、最近ひなたがお気に入りなんですねぇ」

 ナマエという名前は女将にもらった名前だ。明るいブロンドの髪に似合うと、そう言ってくれた。

「はい、紫乃さん何でしょう」

「今日はうち、お客さん来いひんの。せやから、一緒にお団子でも食べに行かへん?」

「行きたいです、けど仕事あって」

「女将はんにはうちが言うたるから」

ね、と紫乃さんに言われれば断ることは出来ない。私はナイフを懐に入れて紫乃さんと甘味屋にいく。紫乃さんはうちの稼ぎ頭だというのに、気さくで気取ったところがない。少し霊力も持っていて、私に鬼道とやらの使い方を教えてくれた。女将の性格もあるのだろうけれど、うちの遊郭とうちの集落はとても良いところだった。




 穏やかな日々が何ヶ月も続いた もう人を殺すことはないかもしれないと、そう思いさえした。しかし、とある晩、女将が青い顔をして帰ってきた。どうしたんですか、他の男衆と私で女将を部屋に運ぶ。

「隣の街のゴロツキが集団でこの街に向かってるらしい?」

「ああ。それも何百人って数だそうだ!この街をぶっ潰して、女や金品全部奪っていく気だよ!」

他の店の店主や、街の住民たちみんなこの遊郭にやってきて、どうしようかと話し合う。

「犬飼の連中が、受け入れてくれるそうだぞ!」

 第68地区まで走っていた男が戻ってきた。そしたら、犬飼まで行こう。慌ただしく、準備を始める。

「紫乃さん、」

「うちこの街気に入っててんけどなぁ」

しゃあないなぁ、と紫乃さんはため息をつく。その姿さえ美しい。

 

 女子供と年寄りは金品と一緒に先に犬飼に向かった。元から小さな村だ、人もそんなに多くはない。私と男衆でゴロツキを迎え撃つ。男衆も元はゴロツキのような連中だ。刀や鍬など、持ってる武器は様々だ。女将はナマエも来るようにと言ったが、私は断った。

「よう、ナマエ!鬼子の本領見せてやれや!」

そう言ったのは、遊郭の男衆で用心棒の仕事を紹介してくれた男だった。遊女たちは兄さんと呼んでいた。鬼子と聞いて、男衆はざわめく。そして同時に希望を持った。

「おうてめぇら!覚悟はいいか!俺らがここで輩潰さねぇと、犬飼もあぶねぇ!男見せろや!」

おぉっ!と盛り上がる男衆。その先頭で私も拳を振り上げた。


 数十分後、ゴロツキが姿を見せた。集落の入り口で、百人もいない男衆と私が迎え撃つ。男衆の姿が見えたのだろう、ゴロツキは叫びながら走ってきた。

「鬼道組、用意!発射!」

「鬼道の 、赤火砲!」

兄さんと私、それから数人の男が鬼道を放つ。先制攻撃に不意を食らったらしいゴロツキは一瞬動きが止まる。

「よし!行け!」

後ろで太鼓の音が聞こえる。戦いが始まった。





 静まり返った村。所々家屋は壊れていて、戦いの悲惨さを思い起こさせる。

 池のような血だまり。積み重なった遺体。そのなかで一人、私は佇んでいた。久しぶりに嗅ぐ血の臭いは皮肉にも私を興奮させた。

村の男衆は健闘した。一人のゴロツキも犬飼に向かわせなかったし、村の入り口で戦いの全てを終わらせた。何百人を相手にたった百人足らずで本当によくやった。

「ナマエ、」

「兄さん、生きてたんですか、」

横たわる兄さんに近づく。兄さんの腹にはぽっかりと穴が開いていて鬼道でやられたとわかる。向こうにも使い手がいたらしい。

「お、前、本当つえ、よ。まじ、頼りに、なっ、た」

紫乃のこと、頼む。そう言って、兄さんは息絶えた。兄さんは紫乃さんが好きだった。みんな知っていた。私は初めて、人が死ぬことを悲しいと思った。





夜更けが近づいている。私は兄さんがいつも巻いていたバンダナを手に犬飼へと向かった。見よう見まねで覚えた死神の歩行術は便利で、忍者のようだと思う。

 犬飼へと向かう峠で大きなエイリアンを二匹見つけた、このときはもう虚という名前を知っていたのだけどなんだかそう呼ぶのも存在を認めたようで嫌で、エイリアンと未だに呼んでいる。私は、刀を構えて彼らを見る。いままで見たどのエイリアンよりも大きい。ニヒルに笑う仮面が実に不気味だ。

 そのとき、奴らの下敷きになっている台車を見つけた。着物が散らばっているのが見える。どうやら、先に向かった住人が遭遇してしまったらしい。無事かと確認すると、エイリアンが洞窟を見ているのに気づいた。どうやら、そこに逃げ込んだらしい。赤い軌道がエイリアンの肩を掠めた。

「紫乃さん!?」

どうやら逃げ込んでいるのは、紫乃さんとお付きの女の子だとわかる。私はとりあえずエイリアンを倒そうと、百代の名を呼んだ。





20141001

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