Holly night
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その年の冬、リリーにクリスマスパーティーに誘われた。ちょうど道場はオフシーズンだったし、学校の友達とのパーティーは顔だけ出すことにした。
「あんたモテモテなのねぇ」
「かえって荷物になってしまった…」
挨拶だけと思い立ちよった友達の家で、主に後輩たちから大量のプレゼントを贈られた。ファンクラブとか言ったっけ。アイリスは手に抱えきれないほどのプレゼントを、一旦家に置きに行かねばならなかった。
「すまないリリー」
「いいのよ、どうせすぐ着くわ」
リリーに連れられて、冷たい風が吹く街を早足で駆ける。日が落ち、暗くなった裏路地は何かあってもおかしくない。アイリスは警戒しながら進む。
「そんなに怖がらなくたって大丈夫よー」
「怖がってない!リリーはもう少し自覚を持って行動してくれ!」
この姉は、どういう風にして学校で男どもをかわしているのか。おてんばだった昔の面影はなく、立派な女性となった姉。
「あのね、今日、紹介したい人がいるの」
アイリスは目を丸くした。そんな歳なのか。姉はそんなに先を行っているのか。ぼんやりと歩いていると、人影が見えた。
「やぁリリー!迎えに来たんだ!」
「ジェームズ?!ごめんなさい、支度に手間取っちゃって」
「いいんだ、いつもにも増して綺麗だよリリー」
まさか。その人影はすらっとした長身に丸いめがねをかけていた。幼い頃の思い出が蘇る。
「アイリス、こんなところでなんだけど、紹介するわ。ジェームズよ。付き合ってるの」
「ハーイ!君はアイリスだね!一回だけ駅で会ったことがあるけど、覚えてるかな?」
「ええ。セブルスをいじめてたジェームズですね。よく話は聞いていました」
ジェームズは少し面食らったようにで、そんなこともあったなぁと笑った。リリーは妹がいきなり自分の恋人に毒を吐いたことにどこか狼狽えながらも、
楽しそうにこちらを見ていた。
「まさか姉の恋人があなただとは。執念深いんですね」
「ああ!入学したときからの思いだったからね!これからもずっと大事にするさ!」
さあ!みんな待ってるぞ!そう言ってリリーの肩を抱き、歩き始めるジェームズ。リリーが振り払ったせいで、彼はその手を仕方なくポケットに入れていたが、2人はお似合いと言っていい、幸せそうな、恋人同士だった。
「姉ちゃん取られて悔しいのか」
アイリスが壁際でシャンメリーを飲んでいると、黒髪の青年が話しかけてきた。コイツもどうやらジェームズの友人らしい。何回か駅のホームで見覚えがある。一緒にいたアジア系の女の人はいいのだろうか。
「あなたこそ、親友を取られて悔しいんじゃないです?」
そう言うと、青年はむっとしてアイリスの隣にもたれ掛かる。リリーとジェームズは輪の中心にいて、たくさんの人と話している。最初はアイリスを気にかけていたリリーも、ジェームズのペースに呑まれたのだろう、ほったらかしだ。
「おまえ、マグルなんだっけ?」
「ええ。魔法使えません」
「不便じゃねえの?」
「ちっとも。魔法使いになりたいとさえ思いません」
「そんなもん?」
「もちろん。身の丈以上の能力は求めません」
そう言うと、青年は肩を竦める。
「おまえ、リリーの妹で俺らの一つ下だろ?達観してんな」
「………姉があれですからね。そりゃあ達観してしまいますよ」
あなたのような純魔法族にはわからないでしょうが、我々に取って魔法とは、奇跡であり、幻であり、おとぎ話の中の世界であり、同時に忌むべきものなんです。そんなものが目の前に現れたら、そりゃ驚きを通り越して悟りを開いてしまいそうですよ。
だいたいなんなんですか魔法って。そんなのアリですか。魔法界が存在することすら疑って掛かっているアイリス。シリウスは興味深そうにその話を聞いていた。話が一段落して、アイリスは飲み終わったグラスを置こうと一歩踏み出す。
「おい、リリーの妹」
「…なんですか、ジェームズの友人」
「………お前、名前なんてーの?」
「……アイリスです」
「…俺はシリウスだ。シリウス・ブラック」
「そうですか、」
「ああ。姉ちゃん取られて悔しいんならよ、俺を兄貴だと思ってくれていいぜ」
「はぁ、」
「俺もお前のこと妹と思うからよ!」
「…えー」
なんだよ、えーって!そう言ってシリウスさんとやらは髪をぐちゃぐちゃと撫でた。せっかくセットした髪が台無しだ。アイリスはどつきたいと思いながらも、ドレスを来ているせいで肩を思い切り動かすことが出来ない。
「わかったか!アイリス!」
「あーもう!わかったよ、シリウス」
シリウスはその返事に満足すると、アイリスの髪を綺麗に整えてやった。嘆息するアイリスを誘い輪の中心に向かう。たくさんの魔法使いと魔女に囲まれて、アイリスはどきどきしながらパーティーを楽しんだ。
20141001
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