nervous summer
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せっかく話し合う場を設けたというのに、セブルスは来なかった。これはまぁ不可抗力というやつで、セブルスの両親が離婚してセブルスは越すことになったのだ。
「仲直りしなくてよかったのか?」
「………もういいの」
ふーん。良いって顔じゃないけど。とは口に出さず、アイリスは頬を膨らます姉の顔を見やる。15になり、大人びた表情を見せるようになったリリーは、ジェームズがしつこく言い寄るのも確かにわかるくらい綺麗になった。
「リリー、」
「なに?」
「……いや、いい」
「そう」
セブルスのことどう思ってるんだ?その問いは重く、喉から簡単に出ることはなかった。
「ーどう思う?ー」
「ーまぁ本人同士の問題だし、君が介入して心を痛めることはないんじゃないかな。もし、気になるようであれば、その男の子のところに行って、一発ぶん殴ってやればいいー」
もちろん、加減は忘れずにね。そう言って電話を切った彼。向こうは早朝にもかかわらずすぐに出てくれたことに感謝した。そして同時に、リリーのように鈍くはないアイリスは、自分の中に芽生え始めた感情に気づいていた。
「ようセブルス・スネイプ」
振り向いた奴の腹に、軽く拳を入れてやった。相変わらず貧弱な身体はいとも簡単に崩れる。魔女や魔法使いで込み合ってる9と3/4番線のホームで、アイリスはリリーの見送りと称したお礼参りに来ていた。リリーはまだ両親と話し込んでいるし、こちらには気づいてない様子だ。
「そんなんで大丈夫かよセブルス、成長期まだ?もう16になるんだろ?いつまでちびなの?そんなんだからあのメガネにやられるんだよ?」
「…それが殴ってきたやつのセリフか」
「いやだってこれはリリーの替わりだし?てか、せっかく私が場所を作ったのに、あんたもツイてないね」
「よけいなお世話だ」
「手紙で助けを求めてきたくせに何を言うか」
「………結果なにも役に立って無いじゃないか」
「チャンスをふいにしたのはお前だ」
アイリスは黙り込んだセブルスを見てにんまりと笑う。
「私だって大切な姉と幼なじみが喧嘩してるのは、よく思わないし、出来れば穏和にことを済ませたい。どっかのバカメガネなんぞに姉を取られるのも不愉快だ。かといって、陰気な幼なじみもいけ好かないがね。」
背後で慌ただしく魔法使いが汽車に乗り込んでいく。発車の時刻が近いらしい。
「まぁそれを決めるのは姉であって、私ではない。助言はしたが、どうなるか。後はおまえ次第だ」
あの頑固な姉が自分の言葉で動くとも思えなかったが、どうにかなることを祈るだけだとアイリスは肩を竦める。
「セブルス、いつまで突っ立ってる」
アイリスは汽車を指差す。
「健闘を祈る」
こうして慌ただしい夏はあっと言う間に過ぎていった。
[20140914]
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