10:32 Hogwarts/Quidittch Court
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「ハリー!」
 ちょっと、関係者以外は入らないで!とキャプテンらしい人が言ってるが、僕だって必死なのである。
 
ここはホグワーツ敷地内、クディッチ競技場、選手控え室。

 僕は赤い試合用ローブを着込んだ人たちに押し出されそうになったが、ハリーがキャプテンをたしなめてくれたのか、しぶしぶと言った感じで通してくれた。

「試合前にえらいすみません」

 僕はとりあえずキャプテンに挨拶する。ハリーが横で僕の従兄弟です、と紹介してくれたので、少し警戒心が薄れたようだ。

 そう、今日は何を隠そうクディッチの試合。
 しかも長年いがみ合ってるというグリフィンドールとスリザリンの大一番ときた。そりゃあ各々のチームは諜報活動にも熱が入るだろう。だからキャプテンが僕を警戒するのもわかる話なのだが、そんな彼の思惑とは裏腹にハリーのクディッチデビューは全校生徒がとうに知っている事実である。

 しかしまぁ、駄々を捏ねるテオドルスを連れてこなくて正解だった。他寮生でもこんなに警戒されてるのに、レイブンクローのシーカーもしてるテオドルスが来たら入れてもくれなかっただろう。彼は今頃、控室の前で不貞腐れているに違いない。

「かっこいいやんハリー。緊張してる?」
「ありがとう、そりゃするさ」

 ハリーの細い身体には薄っすら筋肉が付いていて、なるほどそれらしくなったもんだと感心する。

「まぁそれもそうやな。今日は激励と、あとおかんからいろいろ頼まれてな」

 これ、日本から送られてきたお守りやから、と勝利と守護の護符が入ってるらしいお守りをハリーに手渡す。多分父に作らせたんだろう。首から下げられるよう紐がついているそれを、ハリーは早速下げてユニフォームの中にしまった。

「ありがとう、おばさんにもありがとうって言っておいて」
「どういたしまして。手紙が少ないって嘆いてたから、お礼は手紙でも書いてやってや」
「ああ、もちろん」
「それから、写真も撮ってこいって言われてるんやけど、試合後がええかな?それとも落っこちてボロボロになる前にいま撮っておくか?」

 そう茶化して言えば、ハリーよりもキャプテンにギロリと睨まれる。
 僕は思わず肩をすくめた。

「冗談ですってキャプテンさん。試合気張りやハリー。終わった後に写真撮らせてな。記念写真がベッドの上は堪忍しやで」

 おいっ!というキャプテンさんの声を背に僕は失礼しました、と控室をそそくさ後にした。


***


「いいねぇ、今シーズンは。ウッドも気合いが入ってるし、うちの寮も良いシーカーが入った」
「キミのポジションが奪われるのも時間の問題なんちゃう」
 言うねぇ、とテオドルスが僕を小突いた。そんなことを言いながら応援席に上がると、赤いマフラーを巻いた多くの生徒のなかに見知った顔を見つけた。

「君のその美しい瞳に吸い込まれてしまいそうだ」

スパァンッ。
僕の張り手が綺麗に決まる。

「キミは本当に見境が無いな!」

痛いなぁ、と頭を摩るのは我がレイブンクローのマリウスである。

「悪いな、お嬢ちゃん。こいつには後でよく言って聞かせておくからよ」

 僕はグレンジャーとロン、それからハグリッドに向き直る。

「友達がごめんよ、久し振りやねみんな」

「おお、オメェさんはアイリスんとこのレンじゃねぇか!オメェさんは呼んでもお茶会に来やしねぇ!」

「ごめんよ、ハグリッド。グリフィンドールとは時間割が違うから一緒に行けなくてね」

 僕はハグリッドと久しぶりの握手を交わす。
相変わらず大きくて硬い、働いてる男の手だ。

「テオドルス、お前さんもちっとも顔を見せんくなって!」
「悪りぃ悪りぃ、ちぃとばかし忙しくてな」

ハグリッドとテオドルスは知り合いだったらしい。

「なんや、仲良かったんか」
「大親友ってやつだ」

 テオドルスが自信満々に言う後ろでハグリッドは笑ってる。まぁ、仲はいいらしい。

「ロンも久しぶりやな、ハロウィン以来かいな」
「そうだね、君、走っていなくなっちゃうんだもの」
「誰かさんのせいで、ずっと男子トイレにこもる羽目になってもうてなぁ。腹痛かってん」

僕はわざとらしくテオドルスの方を見ながら言うと、ロンは察してくれたらしい。

「あの後どうなったんや? 噂話じゃ、君たちが追い掛けられたことになってるやないの」
「あ、実は君には言いにくいんだけど…」


「なんやて!グリフィンドールに50点加算!僕は!僕の大外刈りは!」
「いや、僕とロンは加点されたけど、ハーマイオニーは減点されたし、、、ハリーが君の名前を出したら迷惑かけるだろうと言って先生には言わなかったんだ」

 ごめんよ、と眉を八の字にするロン。一歩間違ったら超減点もののこの不祥事に関わっていたとなれば嫌が応にも目立つだろう。少し悔しいが、ハリーの判断は正しい。

「いや、ええねん。ハリーもロンもあの女の子、グレンジャーも無事ならそれで。」
「それで、そのハーマイオニーが君にも謝りたいって言ってるんだけど」
「え、別に気にせんでもええよ」
「ごめんなさい、あなたに沢山嫌な思いさせちゃったわ」
「かまへんよ。無事でなによりやわ」

「あ、君、思ってたより重かったわ」
「やっぱりあなたの事嫌いだわ」


「あら、貴方カメラを持ってるの?」
「おかんがハリーの勇姿を取ってこいって送って来たんよ」

「え、なにしてるんハリー」
「箒が不機嫌なんと違う?」
「ばかっ!誰かが呪いを掛けてるに決まってるじゃない」

「スネイプ?」
「堂々とし過ぎちゃう?」
「燃す?ライターあるで」
僕はその時のハーマイオニーの複雑そうな顔を忘れないだろう。



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