end of the first year
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一年後。ロンドンまで、遊びがてらリリーを迎えに行くことになった。ロンドンの街は忙しなく人が動いていて、アイリスは少し気圧される。
ホグワーツ特急とやらが来ている9と3/4番線はもう少し自己主張するべきだ。壁をすり抜けてはしゃぐペチュニア。魔法使いになりたいと言ったらどうするんだ。だから留守番していようと言ったのに。一年前の私の努力が水の泡だ。そう思ってアイリスはため息をつく。
すでにホグワーツ特急は到着していた。プラットフォームは広く、多くの父兄が迎えに来ている。全て魔法使いと魔女なのかと思って、アイリスは肩を竦める。こんなにもイギリスに魔法使いがいるとは。普段どこに暮らしているのだろう。考えるだけで途方もない。人ごみをかき分けて、目印にしていた掲示板が有るところまで行く。何気なく掲示板を見てみると、貼ってあるポスターが動いている。テレビがはめ込まれてるわけじゃないんだろう。これが魔法なのか。
「アイリス!」
そう言って荷物を持ったリリーが汽車からアイリス目掛けて駆けてきた。振り向くと、燃えるような赤い髪が目に入る。
「久しぶりだね、リリー。変わりないみたいでなによりだよ」
「ええ!父さんと母さんとペチュニアは?」
「カートを取りに行ってる。それはそうとリリー、よくも蛙の卵やらトカゲの前足やらコウモリの糞やら送りつけてくれたな」
「あら、ちゃんと届いていたの?返信が無いから、届いてないとばかり思っていたわ」
「返信したくなかったんだよ」
少し背が高くなった姉は、相変わらずだったが、違う世界を知ったからなのか、ひと回りもふた回りもしっかりしているように見えた。
「その後ろのは、セブルスか」
「久しぶりだな、リリーの妹」
「アイリスと呼んでくれていいんだよ?セブルス・スネイプ」
相変わらずいやな奴め。そういえば、今日はこいつも一緒なんだっけ。嫌な帰路になる。
「あー、スネイプがまたリリーといるぜ」
「女としか一緒にいれねぇんだもんな」
セブルスとにらみ合ってると柄の悪いのがやってきた。しかもセブルスよりも質が悪そうな。姉とセブルスがシカトを決め込むので、アイリスも黙って相手を見つめる。
「つれないなぁ、リリー。セブルスなんかといたら陰気が移るぜ?…ん?その後ろの子、リリーそっくりじゃん。妹?マグルなんだっけ?」
「うっわ、本当そっくりだな!」
「ちょっと!妹に絡まないでくれる?馬鹿が移るわ!」
「リリー、これしきのことで移ってしまうなら、僕の気持ちが君に伝わっても良いはずなのにどうして君はそんなにツレないんだい?」
「知らないわよ!あ、父さんと母さんだわ!じゃあねジェームズ、休みの間にあなたのその頭が少しでもましになってることを願って」
リリーはセブルスとアイリスの手を引いて両親のもとまで駆けた。
「なんなんだ、あれ」
「知らないわよ、ただの馬鹿」
「リリーの言うとおりだ」
帰りの車の中で、さっきの輩について尋ねる。二人は同じような態度で、同じように彼らを嫌っているようだった。
「まあいいや。リリー、あんなのをボーイフレンドとして連れてこないでくれよ」
「当然よ!こっちが願い下げだわ!」
「当然だ!あいつなんかにリリーはやらん!」
リリーとセブルスの声が見事に重なって、狭い車内に響く。お気楽な父さんと母さんは、リリーにはもうボーイフレンドになるような子がいるのかぁ、さすが母さんの子ね!と笑いあっていた。はしゃぎすぎて眠っているペチュニアが起きなくてよかった。
「それだと、いいんだけど」
アイリスは黙って窓の外を見つめる。ロンドンの街を闊歩する人々。このうちのどのくらいの人が、魔法使いなんだろう。
[20140910]
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