10:56 Hogwarts/Classroom
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「あなたレイブンクローだったの」

 顔を合わせた女の子は僕を見るなりそう言った。薬草学の授業が終わった教室は息苦しく、早く出ようと片づけてるところだった。ハリーがやたらスネイプ教授にいじめられていたことも、教授が何度も自分を見てくることも、全てが僕を脱力させていた。そして今度はなんなんだ。思わずため息をつく。

「よかったわ、あなたと一緒の寮じゃなくて」

 そういう彼女はハリーと同じ真紅のネクタイ。どうやらグリフィンドールらしい。この子が誰なのか、すぐに思い出せなかった。何とか言ったらどう?という彼女の少しむっとした顔でやっと、ホグワーツに来る特急で会った子だと思い出した。そして自分が寝起きの勢いで彼女を言い負かしたことも。
 ことを荒立てないために、あれは勢いだったのだと謝ろうか。けど僕はべつにあのことを悪いとは思っていない。彼女の向こうでハリーとロンがこちらを伺ってるのが見えたが、上手いこと助けてくれそうにない。使えない。

「せやなぁ。君と一緒やったら学校生活楽しそうやわ」
「…どういう意味?」
「僕、売られた喧嘩は買う主義なんよ」

 彼女はまたむっとし教室を出て行ってしまった。美人相手に惜しいことをしたなぁ。


 次の魔法史が始まる前のざわめく教室。さっきの美人とは友達かい?、と、となりのレイブンクロー生が言う。彼の名前は、マリウス。アイルランドの古い魔法使いの一族の出身で、代々レイブンクローらしい。何を隠そう彼こそが、僕の隣のベッドの住人である。テオドルスが開いた歓迎会で蛙チョコカードをあげた以来、マリウスとは話す仲になっていた。

「知り合いってか、喧嘩売られたんよ」
「それでも良いじゃない、かなりの上玉だと思うなぁ」

 彼はレイブンクローにしては珍しく軟派な男だ。パーマがかった亜麻色の髪と垂れ目がセクシーだと女子生徒の間では評判のようで、僕は他寮生に彼の情報を聞かれることがままある。
 まだまだ少年といった顔つきにもかかわらず、醸し出す色気は男のそれだと僕は苦笑する。

「君すごいなぁ」
「よく言われるよ」

 マリウスは、僕はジェントルマンなだけさ、と適当に笑った。テオドルスしかり、このマリウスしかり、自分の周りにはレイブンクロー生らしくないレイブンクロー生ばかり集まると僕はげんなりした。

 それからマリウスが、あの子も可愛いよね、とレイブンクローの女子生徒を指して言うものだから、僕は彼が入学1週間にして同級生の女子生徒全てをランキング化したという噂は本当に違いないと思った。

「にしても、この学校の制服はどうにかならなかったのかな。ボンパートンみたいに、とまで言わないけれど、もう少し色味があるだけで違うと思うんだよね」
「確かに地味やけど、こんなもんとちゃう?」
「いやいや、君、日本のマグルの学校の制服なんて特に可愛いじゃない。なんて言ったかな、水平みたいな服、」
「ああ、あれか」
「君たち少し静かにしたらどうだい」

 僕の声に被さってぴしゃりと言い放ったのは、前の席の男子生徒。わざわざ振り向いて僕らをギロリと睨みつけるその目はとても小さくて迫力がない。確か名前は、えっと、あ、

「アイク」

 悪いね。隣のマリウスが、少し肩を竦めて言った。そうだ、アイクだアイク。分厚い眼鏡に、小さい目。そばかすの散った顔。肩口で切りそろえられた髪の毛。彼の出自は不明だが、時折出る訛りに、北部の人だろうかと勝手に予測していた。
 彼はいかにもレイブンクロー生といった風のレイブンクロー生で、休み時間はずっと教科書になにか書き込んでいた。

「フンッ、予習でもしたらどうだい」
「ああ、そうするよ」

 僕とマリウスは素直に謝ると、アイクはまた机に向かって何かを書き始めた。筆圧が強いのか、ゴリゴリという音が後ろの席まで聴こえてくる。



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