21:05 Hogwarts/The High Castle
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「ほらルクス、ここが僕らの場所やよ」

 与えられたベッドと机は思ったより大きかった。ホグワーツで一番高いところにあるというこのレイブンクロー寮は、ホグワーツ城全てを見渡せる。

 全てを高みから見下ろす、というような創始者のおばさんの思いが込められてると行きすがらに監督生の上級生が言っていたけれど、今の僕にはそんなことどうだっていい。なぜ、なぜエレベーターを付けてくれなかったのだろう。
 創始者ロウェナ・レイブンクローは多くの教科書も執筆したというが、彼女がまず生徒に教えるべきはあのクソ長い階段を一瞬で登る方法だ。慣れてるのか、一緒に来たテオドルスは

「レイブンクロー生はどうしても勉強ばかりで運動不足のやつが多いからな」

と息一つ乱さずそう言っていたけれど、多くの新入生はこれからあの階段を毎日登らねばならないことに絶望しただろう。なかにはこの階段を登ることが夢だったと泣き出す子もいたらしいが。
 僕は早々にベッドで丸くなったルクスを恨めしげに見やる。この黒猫ときたら、汽車の中でも思ったのだがかなり神経が図太い。僕だけじゃない、新入生の多くが家を離れた全寮生活に少なからず興奮しているというのに。
 僕は荷解きもそこそこにルクスの横に寝転がる。ギシっと音を立てて深く沈むベッドは、実家のペシャンコお布団とはまるで感触が違う。匂いもいかにも海外といったような、甘い匂いが漂ってる気がする。すぐ馴染めるやろ、と思っていたが、僕は案外日本贔屓らしい。ペシャンコお布団と畳のい草の匂い、それからそば殻の枕が急に恋しくなった。

「なぁルクス、どっかに基地でもこさえたいなぁ」
「あるぜぇ」
「わっ、テオドルス!いきなり吃驚したわ!」
「悪い悪い」

 ちっとも悪いと思ってない顔でやって来たのはテオドルスで、両手に沢山のお菓子を持って来ている。どうやら遊びにきたようだ。周囲を見ると、突然の上級生の登場に驚いている。しかもピアスをギラギラさせた明らかにヤバいやつ、近寄らないでおこう。そう心の声が聞こえた気がした。僕は周囲の反応に苦笑しつつ、何ですか、とため息混じりにテオドルスを見上げる。

「歓迎会ってやつだ」
 あくまでこっそりな、そう言うとテオドルスはとても迷惑なことに、僕のベッドに隣人たちを呼ぶとお菓子を広げ始めた。それでも真面目な生徒たちはこちらを見向きもせず、荷解きをするなり、教科書を読むなりしている。テオドルスはそれを気にした風でもなく、入学おめでとう!とシャンメリーの瓶を開けた。

「ホグワーツに掛かってる魔法はわかっているだけでも千種類以上、階段を動かしたり、部屋を勝手に移動させたり隠したり。昔の生徒が勝手に作った部屋なんかも時々発見されては、また誰か別の誰かが自分のものにして隠してるんだぜ。お前らも見つけた暁にゃあ、自分のものにして書斎にでもすりゃあいい、大広間の天井なんかも長い歴史の中でどんどん改良されちゃいるが、大昔から魔法が掛かっている。ここらへんは図書室で『ホグワーツの歴史』を借りるといい。因みに著者はレイブンクローの出身だ」

 とまぁ意外にも、テオドルスの話は真面目で、今後の授業のことや先生たちの個性や癖、城にかけられた魔法のことなどをわかりやすく解説してくれている。見た目に似合わず意外と後輩思いで気さくな男なのかもしれない。僕はポテトチップスを摘みながら、そういえばと声を上げる。

「校長先生が言ってた立ち入り禁止の部屋ってやつはなんなん」
「んー、あれは俺にも正しい情報はねぇが、城の老朽化、もしくは魔法の暴発、はたまたダンブルドアがヤベェもん隠してんじゃねぇかって話もあるな」

 テオドルスは蛙チョコを頬張りながら言う。

「ヤベェもん?」
「そりゃ、ホグワーツはグリンゴッツ銀行より安全って言う奴もいるくらいだからな。校長がかの有名なアルバス・ダンブルドア大先生。そりゃあ、何か価値のあるモン、狙われてるモンがあるとすりゃあ、ホグワーツに隠したがるだろうよ」

 サラッと凄いことを言いながら、蛙チョコをもう一つ手にかけた。どうやら甘党らしい。

「お、ほら丁度大先生のお出ましだ」

 ほらよ、とテオドルスは僕の手にカードを乗せた。そこには先程大広間で見た校長先生の姿。僕はそのカードを汽車の中でハリーにも見せてもらっていた。どうやらレアなカードではないらしい。肖像画の好々爺が、ニッコリと僕を見て笑う。僕はその不可思議な魔法に少しばかし気持ちが悪くなって、いいなあ、と呟いていた隣のベッドの住人にそのカードをあげることにした。

「ま、真偽のほどは定かじゃねぇが。この城にゃあ、おもしれぇ仕掛けがたくさんあるからよ」
卒業までにいろいろ見つけて見るのも面白いぜ、そうテオドルスは締めくくった。



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