18:42 U.K/???
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 レン・エヴァンズ。またの名を皇蓮。イギリス人の母と日本人の父を持つミックスというやつで、1979年9月26日生まれの11歳である。何の変哲も無い、強いていうなら生まれのおかげでバイリンガルということしか特記事項のない小学生のはずが、なんと今イギリスは多分スコットランドあたりで魔法魔術学校の入学式に出席している。



 ………なにを言ってるかわからないと思うが、僕もよくわかっていない。今から約1年も前のこと、あの手紙が来るまではただの小学生だったのだから。

 またねー、と近所の同級生と別れ、ただいまー、と家の扉を開ける。すると、何処からともなく手紙が落ちてきた。足元のそれを拾うと、クリーム色の上質そうな紙に、なにやら紋章を象った封蝋と気品のある筆致、只事ではない雰囲気をひしひしと感じる。僕はその手紙を片手に、ランドセルを肩から下ろしながら居間へ向った。

「母さん、なんか外国から僕宛に手紙なんやけど、なんかなこれ。ホグ、」

 送り主を読み上げる前に、いつの間にそこにいたのか、後ろから伸びてきた母の手が手紙を取り上げた。
 エプロン姿の母は、手紙を手に眉を顰めている。

「え?」
「…これはダメ。母さんが読むから、あなたは読む必要ないわ」

 手紙を見つめる母の声は厳しく、圧倒されてしまった僕はなにも言わずその場を後にして、自室で漢字の書き取りの宿題をすることにした。一体なんなのだろうと思いを馳せたが、夕食時にはすっかりどうでも良くなっていた。何故ならばその日は僕の11歳の誕生日で、何事もなかったようにご馳走が振る舞われたからだ。

 それから家に客人が訪ねてきたのは2ヶ月ほどたった少し肌寒いある日のことで、小学校から帰る途中の家の塀に燃えるような赤の大きな鳥がいたことを覚えている。
 帰宅すると、両親はリビングで髭を蓄えた好々爺風の男性と話していた。僕はその不穏な雰囲気を察し、部屋に直行し鉢合わせを回避したが、両親と話し込んでいたあの眼鏡の老人は校長先生だったのだ、と今やっと知ることになった。


 ここホグワーツの大広間は体育館が二つは入るだろうかと思うほどに広く、天井は魔法がかけられているのだろう、風で棚引く雲と青空が見える。その一番奥、教員と思われる魔法使いと魔女たちがずらりと並ぶその中心に彼はいた。
 彼、アルバス・ダンブルドアは今現在ホグワーツ魔法魔術学校の大広間で執り行われている入学式で祝辞を述べている。二言、三言と断言した通りのその適当な言葉の羅列は多少なりともその奇人ぶりが伺える。

「なあ」
「はい?」
「スネイプのヤローと知り合いか?」

 話しかけてきたのは先程から頬杖をついて眠たげにしていた右隣に座る上級生で、たくさんのピアスと痛んだブロンドの髪はどうもこの寮らしくない。けれどその首元にあるネクタイは確かにこの寮、レイブンクローのブルーだった。そんなことを片隅で思いながら、はてそんな名前の知り合いがいたものか、と首を捻る。
いないはずである。

「スネイプ?誰のことです?」
「あそこに座ってる奴、スリザリンの寮監」

 やたらお前のこと見てんぞ、と彼が親指でそう前方を指す先を見れば、そこには見るからに陰気そうな男が無表情に食事をしていた。

「いや、知らん人ですね」

 そう言った一瞬、本人と視線がぶつかる。げっ、と思ったのは自分だけじゃないようで、スネイプ本人も一瞬固まった。けど僕は何事もなかったように広間内を適当に見回し、スネイプから目線を逸らす。
 と、違う寮に行ってしまった我が従兄弟が視界に入ってきた。楽しそうに肉を頬張っている。汽車で一緒になったロンも同じグリフィンドールに無事決まったようだし、僕は少し物寂しい気もするがハリーがうまくやっていけそうでホッと胸を撫で下ろす。
 視線に気づいたのか、ハリーが微笑んで小さく手を振ってきたので、僕も小さく手を振って返した。さて食事に戻ろう、シェパーズパイでも食べようとテーブルに向き直ると、横から感じる視線。

「なんだお前、あの英雄様とは知り合いなのか」

 先ほどの上級生である。気怠げに聞く彼の真意が読めない。僕は目当てのシェパーズパイを自分の皿に取り分けながら、

「彼は僕の従兄弟です」
「…へぇ、従兄弟ねぇ」

 身内に英雄がいると大変だな。そう言って彼は眠そうに欠伸をした。
 改めて彼を見ると、制服をきちんと着こなす優等生然とした風の生徒が多いレイブンクローの中ではやはり少し異端に思えた。3番目まで開けられたシャツ、首にはお情け程度に結ばれたネクタイが引っ掛かっている。そして目立つ大量のピアスは耳だけでなく口許にも光っていて、食べる時に邪魔じゃないのかと甚だ疑問に思う。
 手入れをすれば綺麗だろうブロンドの髪は傷んで艶のかけらもない。血管が浮き出るほどに青白い肌、そこらの女性よりも長いブロンドの睫毛に縁取られた大きなシーグラスの瞳が眠たげにこちらを見つめている。

「正直なところ、彼の嫌いな食べ物まで知ってる僕にはあまり偉大さがわからんのです」
「…それは素敵なことだ、実に、素敵なことだ」
「はぁ、」

 突然語気を強めた彼に、思わず間の抜けた声が出た。そんなに素敵なことを言ったつもりではないのだが。彼はニヤッと笑い姿勢を正す。僕に向き直ると、右手を差し出した。

「俺はテオドルス。4年だが、堅苦しいのは苦手でね。気軽に話してくれ」
「僕はレン。よろしくお願いします」

それが僕と、変な上級生テオドルスとの出会いだった。




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