20:03 Japan/Kyoto
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人が泣き崩れるのを初めて見た。しかも、それは自分の母だった。

「あなたは魔法が使えるの」

 蓮が母にそう言われたのは、20時を回ったぐらいの頃で、いつもならすでに夕飯も風呂もすませてテレビでも見てるぐらいの時間だった。

 実の所、蓮は学校から帰ってすぐに母が思いつめたような顔をしてるのに気づいていたが、どうせまた自由人の父のことだろうと素知らぬふりをしていたのだ。

魔法が使えるの、そう言われて真っ先に思ったのは、


ーーーーーーーーーーありえへん。


 なんの冗談かと蓮はあたりを見回した。カメラを持ってるだろう、ふざけた顔をした自分の父を探したのだ。しかし、その父はどこにもおらず、ただ静寂だけが夜中のリビングを支配している。

自分の首筋で静かに泣く母。

こういった状況で多くの人が取るであろう行動を、蓮は知っていた。
いつの日か怒る母を宥めすかすために父がしていたように背中に手を回す。大きくも、かといって囁くでもなく、ひたすら優しさだけを濾過した声で、母の耳元に口を寄せる。

母さん、泣かないで。

それに応じてか、母はもうすぐ12歳になる息子の細い体躯を確かめるように抱き締めた。

「あなたはその力をコントロールするために、学校に通わなくちゃならない」

 現実的で、強くて、気丈なこの人が何を言っているのだろう。母の声はいつも通り強かったが、どこか寂しげで、辛そうで、思わずその頬に触れる。顔を上げて、息子の顔を見つめると、明るい鳶色の瞳を覗き込んだ。

「母さん、辛いなら言わんでええねんで。僕、母さん辛い思いしてまで言う必要無いと思うで」

同じ鳶色の目をした美しい母を、蓮は見つめる。この国では異国の人である母は、息子の贔屓目に見ても美しいと蓮は思っていた。母は息子の手を取り、彼を抱きしめた。

「ありがとう、優しい息子。でも、これは母さんが言わなきゃいけないことなの」

そう言って、母は彼を抱きしめたまま、自分の妹とその友人たちの話をした。


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