two letter
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「そう、ハリーにも手紙が来たの…」
「ーええ、それもしつこく大量にね。ダーズリーが怒っちゃって怒っちゃってー」
「それは困ったわね…、私からアルバスに手紙を書いておくわ」
「ーそうしてくれると、助かるわ。何としてでも、あの子を魔法使いにしちゃいけないものー」
「そう、何としてでも…」
アイリスは電話を切った後、急いでペンを取った。
「久しぶりじゃの、アイリス。相変わらず美しい」
「お世辞は言われ慣れてるわ、アルバス」
アイリスは目の前の魔法使いを見た。8年前と変わらず、ただ眼だけが黒々と光っている。本物なのか、魔法なのか、アイリスにはわからなかった。ただ、空路でも半日かかるこの国まで、どうやって手紙を出して三時間で来れるのか。アイリスはほとほと理解に苦しんだ。しかも手土産にレモンキャンディまで買ってきてくれている。アイリスは緑茶と和菓子を出す。嬉しそうな顔をする魔法使いに苦笑しながら、本題に入る。
「アルバス、わかってると思うけど、ハリーと、それからレンのことよ」
「ああ、そうじゃろうと思った」
「ハリーにもホグワーツから手紙が来たって、ペチュニアから連絡が来たの」
アイリスは未開封のホグワーツからの入学通知を、アルバスの目の前に差し出した。宛先は、レン・エヴァンズ。空木とアイリスの子供だ。さすが京終院の血か、それとももとからの資質か、彼らの息子にもまたホグワーツからの手紙が届いていたのだ。
「彼は、ハリーは魔法使いとして生きていかねばならないの…?」
太ももの上で握った拳が、震える。
「アイリス、君の気持ちはよくわかる。マグルであるにも関わらず、多くのことに巻き込んでしまったことを、儂は魔法使いを代表して君に謝罪せねばなるまい。…ハリーには才能がある、そして運命がある。それを我々は歓迎せねばならないのだよ」
そしてもちろん、レンにも。そう言ってのけるダンブルドアに、アイリスは緊張の糸が切れた。次から次に、言葉が感情が、沸き立つ。
「でもっ、それはあなた達の勝手だわ!レンやハリーは魔法使いにならなくたって、優秀な学者になれるかもしれない!サッカー選手にだって!ミュージシャンにだって!可能性を潰してるのはあなた達のほうじゃないの?」
沈黙が続いた。そこに、彼女のもっとも信頼する人がやってきた。
「ただいま、アイリス。それに、アルバス・ダンブルドア、お久しぶりです」
空木は羽織っていた薄手のコートを掛ける。そんなに大きな声を出すと、桃が起きてしまうよ。空木はそう言って、隣の部屋で眠る長女の寝顔を見た。日本に移り住んだ後に生まれた待望の女の子は、2人や周囲の人間にとって、平和の象徴でもあった。ダンブルドアは目を細める。
「もう何歳になるんじゃったかのう」
「六歳です、ダンブルドア」
小学校に通ってるんですよ。そう語りながら、空木はアイリスの隣に腰掛ける。
「ハリーも蓮も死なないよ、アイリス」
もちろん、桃もね。空木はほほえんで、心配そうな妻の頭を撫でる。
「…空木」
「アルバス、禁じ手かもしれませんが、今後の行く末を占ってきました。西洋魔法にある予言とはまた異なりますが、ハリーもレンも僕たちよりずっと後、家族に見守られながら年老いて死ぬ、そういう結果が出ました」
「…なんと、日本の占術は未来を見てきたかのように確かだという」
「ええ、だから、アイリス。僕たちは息子たちを信じよう」
空木はそう言って隣の妻を見つめる。泣きそうな顔をした彼の妻は彼の腕を掴んだ。
「僕たちがずっと彼らのそばに入れる訳じゃないんだ。ハリーが自分で戦い、そして守る方法が必要だ。それは相手が魔法使いである以上、魔法でなければならない。蓮だってその力になれる。2人は親友になれるよ」
「…そう、ね…ハリーが、レンが、幸せになるのなら、魔法使いだって、かまわないわ」
けど、とアイリスは言葉を繋げる。
「約束してくれるかしら、アルバス。近い将来、ハリーは闇の帝王と戦わねばならないのでしょう。それが運命ならそれを受け入れて、息子たちをあなたに任せるわ。けど一つだけ、彼らを護ると約束して。危険な目に遭ったとしても、命を落とすことがないよう、必ず、護ってくれると。」
「ああ」
もちろんだとも。
そう言い残し、ダンブルドアは去った。これが正しい決断だったのか、アイリスは思い悩んだ。
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