two magicians
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一時間が経ち、式が帰ってくることはなかった。ついに、空木がここから三時間ほどのリリーとジェームズの家に行くことになった。アイリスは祈るような気持ちで、空木の帰りを待つ。
朝が近いのだろう空が白んできた。なお降り続く雨に、アイリスは不安しか感じることが出来ない。レンの様子を見ようと立ったそのとき、窓の外から、雨の音じゃない物音が聞こえた。
「…空木?」
「………アイリス、ただいま」
庭に、ずぶ濡れの空木が、立っていた。アイリスは濡れるのもかまわず駆け寄る。彼のコートの下には、ぐずるハリーがいた。額には、見慣れぬ傷を付けている。
「……リリーはっ!ジェームズ、はっ!?」
取り乱すアイリス。屋根の下に入ると、空木は腕に抱いていたハリーをアイリスに引き渡し、コートを脱ぐ。
「……いいかい、アイリス。落ち着いて聞いてくれ」
「なっ、2人は、」
「ああ、すでに………」
「そんなっ、」
雨の音だけがアイリスの耳に響いた。空木は彼女の肩を抱いて家に入る。自失とは、このことか。
ホグワーツの校長と、壮年の魔女が2人の家にやってきたのはそれからすぐ後だった。ひどい雨の中を来たというのに、濡れていない。ただ目だけが黒々と2人を見つめた。
「久しぶりじゃのう、アイリス」
「…ええ、ジェームズとリリーの結婚式以来です」
空木とアイリスの家に数人の魔法使いがいた。彼らは、この魔法戦争でハリーが巻き込まれるのを知っていたのだ。闇の帝王を倒す予言があったこと。その予言は闇の帝王を倒すのはハリーだという内容だったこと。その予言を知った闇の帝王が、ハリーを殺そうとしたこと…。そして、ハリーと両親を守ろうとした友人たちのこと、ピーターが裏切ったこと。アイリスは初めて聞く話だった。震える彼女の肩を空木が、優しく抱いた。
「リリーは何も、何も言わなかった…」
「これはリリーの希望だったのだよ、君たち夫婦をこの戦争に巻き込みたくないと。それは、ジェームズやシリウスも同じじゃった。マグルである君たちを、魔法使いの争いごとに巻き込んではいけないと、彼らは考えたのじゃ」
アイリスは嗚咽した。巻き込んで欲しかった。守りたかった。そのために戦いたかった。
「して、空木殿。君は京終院のお人かな?」
「ええ、ダンブルドア。私は京終院の分家、枢の者です」
「なんと。綾女の親類かな?」
「ええ、綾女は叔母にあたります」
なんとまぁ因果なことか。そうダンブルドアは呟き、それ以来沈黙が続いた。アイリスの嗚咽だけが、部屋に響く。
「ハリーのことじゃが、いづれ、彼は再びヴォルデモートと合間見えるじゃろう」
彼はヴォルデモートを、倒す運命を背負っている、そうダンブルドアは淡々と告げた。
背負わせてるのはあなた達だわ、アイリスの震える声が響いた。
「あなた達は、ハリーを英雄に仕立て上げようとしてるだけ」
アイリスはダンブルドアと、その横の壮年の魔女を睨みつけた。
「あなた達が闇の帝王を倒せばいいじゃない!ハリーが致命傷を与えたんでしょう?!再び来る前に、今弱ってる闇の帝王を倒せばいいのよ!」
アイリスはまくし立てる。魔法を知らないアイリスは、ただ自分の見たものしか信じることが出来ない。
「どうして!?どうしてそう予言なんてものを信じるの?!頼るの?!あなた達は、予言通りハリーがそのヴォルデモートを倒すのをただ待ってるだけなの?!」
「アイリス、落ち着いて」
「落ち着いてられないわ!なんで、なんであなた達が戦わなかったの…、凄い魔法使いなんでしょう、なんで、なんで…、リリーとジェームズが死ななきゃならなかったの……」
崩れ落ちるアイリス。ダンブルドアと壮年の魔女、マクゴナガルは、痛々しいほどに泣き、取り乱すリリーの妹をただ、見つめることしか、できなかった。
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