who know you
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そんな話をしてから数ヶ月後、リリーはマドレーヌを手土産にアイリスの元にやってきた。二週間に一度の姉妹の逢瀬はもう何年も続いている。ソファに腰掛けるリリーはいつになく疲れている。アイリスがそう言うと、リリーは力無く最近の魔法界を騒がしてる事件を話し始めた。
「闇の帝王?」
「そうなの、名前を言ってはいけないあの人って呼ばれてるんだけど」
険しい顔で語るリリー、アイリスは彼女が気に入っている空木の実家の緑茶を出してやる。長閑な日曜日に相応しくない話題は、おそらくどの魔法使いの家庭でも話されていた。
「宗教戦争みたいなものか」
「そうね、平たく言ったらそうなるかも」
派閥争いともいうのか。闇か光か。まるでおとぎ話のような世界の話だとアイリスは思う。
「ジェームズの家ってそれなりに古くて大きい家でね、闇の魔法使いも目をつけてるみたいで」
「闇の陣営に引き込みたいということ?」
「そう」
難しい顔をしたリリー。よくわかっていないが、大変なことに巻き込まれたものだと嘆息するアイリス。
「もしものことがあったら、よろしくね」
「そんな不吉なこと言わないでくれ。私たちには守るものがあるだろう?」
「…そうね」
母となった姉妹は、すやすやと眠る2人の息子を見つめた。ハリーが生まれた三ヶ月後に生まれたアイリスの息子はレンと名付けられた。日本語でも英語でも通じる名前をリリーが考えてくれたのだ。
「何かあるなら、日本の空木の実家に身を隠したらどうだ?あそこは結界も強力だし、人も良い」
「そうね、ジェームズに話してみるわ」
「ああ、私も空木に掛け合ってみる」
この穏やかな日常がずっと続けばいい。アイリスはそう願ってやまなかった。
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