180cmのマネージャー
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ありがとうございましたっ。コートに声が響く。真上に位置する太陽が焦がすように肌を焼いていく。もう真夏を越えたからか、全国の時のような暑さはないけれど。

コートに一礼して、選手達が出てきた。…なんちゅうカラフルなユニフォーム。そこへマネージャーと大学生トレーナーがドリンクを配布する。ウチは真っ白いタオルを、どっか知らん学校の人たちに渡していく。一瞬ビックリした顔をされたけど、まぁいい。

「でかっ」

…悪かったな。


「とりあえず初日はこんなとこだ。あとは各自で好きに練習してかまわんぞ」


そう叫ぶのは、我らが立海大附属中テニス部顧問の慶次兄ちゃん。


「陸っ、随分暇そうだな」


手持ちぶさたになったウチにそう話しかけて来たのは、いくぶんか下にある黒のモジャモジャ。汗だっくだっくやな。ひじきみたいになってら。てかウチの学校のユニフォームの色、ダサない?…趣味悪いわ。バスケ部もポイントくらいには、そのしぶめの黄色を使ったりするけど。全身その色は…、ないわ。


「暇、っちゅうか、なんでウチこないなところに居るんやろう、思てな」


そう、なにを隠そう私、風早陸は立海中の女子バスケ部主将である。なのになんで、


「テニス部の合宿おんねん」






さかのぼること一週間。ウチは膝のリハビリのために、大学附属の病院に来ていた。立海大はスポーツの名門というだけあって、スポーツドクターも競技ごとの専門が居たり、専用のリハビリ施設があったりという他に類を見ないほどに充実した環境が揃ってる。

ウチはその一室、氷室先生のいる診察室にいた。氷室先生は、ウチの父さんの後輩で、慶次兄ちゃんの後輩にあたる、柔和で穏やかなスポーツドクター。専門はバスケットボールで、もちろんウチの主治医。


「順調に回復してます、と言いたいところだけど、」

「だけど、?」

「陸ちゃんの場合、靭帯はうまいこと治ってきてる。けど身長に伴った腰痛が、ちょっとヤバイかな」


先生曰く、最近妙に伸びすぎてるウチの骨の成長に背中の筋肉がついていけず、腰痛を引き起こしてるのだとか。このままじゃ膝の治りにも影響してくる。それは困った。


「さっさと治療に入っちゃいたいんだけどね、」

「…ウチ的には今からでも良いんですけど」



10月頭には、県の選抜、さらに関東選抜、U-17日本代表と、重要な試合がいくつも続く。んなちんたらちんたら治療したって、他に遅れをとることは目に見えてる。今すぐにでも、身体をベストの状態に持っていきたいと思うのは、至極当然のことだった。


「いや、うん。陸ちゃんの気持ちは十分わかるんだけど、俺来週からいないんだよね」

「へ?そうなんですか?」

「ちょっと合宿に付き添わなくちゃいけなくて、頼まれたら断れなくてさ」


氷室先生は苦笑する。なんちゅうかこの先生に苦笑されたら、あ、すみません、って気持ちしかわかないから困る。


「なんの合宿なんですのん?」

「んー、なんでか、テニスの日本代表選抜の合宿に来てくれって言われたんだ。多分ウチの学校も参加するんじゃないかな?」


ちょっと待ってて。そう言って、診察室を出ていく先生。確認してきはるんやろか、別に構わんのに。
てか、膝まだ随分かかるんかなぁ。選抜、大丈夫やろうかなぁ。氷帝の桐生さんとか北海さんとか聖ルドの井阪さんとか、めっちゃすごい人たちとプレイできる機会なんてそないあらへんのに。
ため息をついたところに、診察室のドアが開かれた。振り向いたところにはでっかい図体。


「うーっす」

「なんで慶次兄ちゃん?」
「よぉ」

「あ、早かったね、慶次」

奥から氷室先生が現れて、慶次兄ちゃんを見ると先生特有の苦笑にも見える笑みをこぼす。


「ちょうど、あのオッサンに呼ばれてまして」

「ああ、慶次は教授のお気に入りだったもんね」

「気に入られても困るんすけどね」


高校、大学と先輩後輩だったという二人は親しげに大学の話をする。ウチ置いてきぼりやん、ちょいとお二人さんやい。なんて言えるはずもなく、二人のやりとりを見つめる。慶次兄ちゃんもでっかいけど、氷室先生もウチと変わらんくらいやから、180あるかないかぐらいなんちゃうかな。

親戚の贔屓目から見ても男前な慶次兄ちゃんと、優男にも見えるけど、知的イケメンドクターの氷室先生っていう良い男が二人もいる状況に、実習にきてるらしい女子大学生たちがそわそわし始めてる。しかも二人ともいい年して独身なもんやから、狙ってる人も多いらしいんやなぁ、コレが。隣のクラスの担任の独身オバチャン先生も、なんや狙ってるっちゅう噂やで。なんや身内としては、複雑やわ。


「んじゃ、決まりっすね」

「ああ、頼むね風早ちゃん」

「え、あ、何の話ですか?」


お前聞いてなかったのか、と慶次兄ちゃんに頭を叩かれた。いたい。


「風早ちゃんも参加することになったから」

「はい?」

「だーかーらぁ、お前もU-17の代表選抜合宿に連れていく、っつってんだよ」

「はぁ!?…テニスの?バスケやなくて?」

「そういうことだね」


治療も出来るし、一石二鳥でしょ。氷室先生が微笑む。いやいや一石二鳥て。だからって貴重な休みを潰したないわ、。なんて、凄めばヤーさんも道を開けるようなこの叔父と優しい先生に言えるはずもなく。ウチは何故かテニス部の合宿に参加することになったのだ。




「ほんま笑い話にもなりゃせん」

「あはは、でもまぁよかったんちゃうか?バスケからちぃとばかし離れて、ゆっくりすればええ」



日差しから逃げるために木陰に避難したウチの横で笑うのは、大阪は四天宝寺の監督、渡邊オサムちゃん。実はこの監督も慶次兄ちゃんの後輩だったりして、なかなかどうして世間は狭い。

「オサムちゃん暇そうっすね」

「あ、わかる?」

「そりゃなにもしてませんやん」

「せやかて俺、別に役割あらへんねんもん」


そう言って笑う。この合宿は、U-17だか15だかの代表選抜も兼ねているらしく、全国上位校と各地区予選で上位には及ばなかったが、選考員のお眼鏡に敵った選手が集まっていて、100名を越す大合宿となっている。そんで指導者の違う何グループかに分かれて、それぞれ最終日に設定してある試合にむけて力を蓄えていくらしい。指導は青学の監督、氷帝の監督、立海の監督の慶次兄ちゃん、それから外部のコーチが何人かいて、合計8グループぐらいになってるわけ。

しかし、改めて見ても結構な強豪校ばっか。立海はもちろん、氷帝なんかはバスケも良い感じやったし、聖ルドルフも最近めちゃめちゃ選手集めしよる学校やん。この、一見ちゃらんぽらんに見えるオサムちゃんも、実は若くして四天宝寺を準優勝まで導いた腕前の監督らしいし。

そう言えば地元でも変わった奴が多いと言われてた四天宝寺だけど、スポーツだけはバスケもテニスもええとこまで行ったんやったなぁ、なんて思い出した。


「自分、うちの学校からスカウト受けてへんかった?」

「あぁー、四天の監督さん結構熱心に誘ってくださってましたね」


二年前、全国大会で準優勝したことに加えて、府の選抜なんかでも良いとこまでいかせてもらったウチは、いろんなとこからスカウトを受けていた。まぁ、昔から立海に行くって決めとったから、全部断ったんやけど。


「せやったら一緒の学校やったかもしれんのやなぁ」

そう言ってオサムちゃんとの会話に入ってきたのは、男にしては髪の長い(ていったらテニス部はみんな髪長いけど)、柔和な顔立ちをした爽やかイケメン。四天宝寺の部長の、白石さんやった。さっきまで赤い髪のちびっこと試合していたせいか滴る汗、…妙に色っぽいわ。


「まぁ、そーですね」

「うちに来る気は無かったん?」

「…んー。立海に昔から憧れとったんです。中高は立海で、っては昔から決めてて」


四天宝寺も近年力をつけてきてるなかなか良いチームやとは思うし、地元やから通いやすいこともあったけど、それを差し引いても立海への憧れの気持ちが勝った。ちょうど兄貴の嵐が横浜のバスケの強豪大学に行くところやったし、慶次兄ちゃんも立海で働いてたこともあって、親にはすんなり話が通った。てかむしろ行け、みたいな雰囲気。そこはさすがバスケ一家ってとこやな。


「話飛ぶけど、自分ユウジと知り合い?」


なんやさっきから機嫌悪いねんけど。そう言う白石さんの視線の先には坊主の人に怒鳴られてる緑のヘアバンドをしたあんちゃん。気合い入れろやボケ!!なんて怒声がこちらまで聴こえてくる。そうとう怒らせてんな。


「あー…、なんちゅうか」


実は幼なじみ、なんすわ。





20130514

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