現実と理想の狭間にて
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「…二年は風早、宮野、梶、島原、…以上だ」

きょうつけ、礼。ありがとうございました。そう言ってあたしは監督に頭を下げるが、隣にいた三年の先輩の声が震えているのがわかった。今日の練習終わり、地区大会の、スタメンとベンチメンバーの発表があった。男テニほどじゃないが、人数の多いバスケ部はベンチにさえ入れずに、ギャラリーで観戦せねばならない部員が少なくない。加えて実力主義なものだから、学年関係なくレギュラーを奪い合う。隣の先輩は、名前を呼ばれなかったのだ。盗み見れば、彼女は堪えるように下唇を噛みしめ、けれど瞳はしっかと監督を見つめていた。

「努力の人だったんです、」
「ああ」
「朝一番に学校来て、準備して練習して、放課後も練習終わったあと体育科の先生に許可とって八時までシュートの練習して、」
「…並大抵のことじゃねぇよな」
「そうなんです。それほどまでに必死だった先輩たちが、ベンチにも入られないなんて、なんか虚しくて」

隣の先輩に向かって呟いた。委員会繋がりで親しくなった先輩は、個性の強いテニス部とは思えないほど普通の中学生だ。昨年の冬に入院したのは切原にボコされたからだという噂がたったが、本人がそれを否定していたから、誰かが脚色したんだろう。切原がラフプレイが多いというのは、本当らしいけど。

「なんか声をかけたくても、自分はベンチ入れてるし、余計に傷つけないかと思ったら、目も合わせられなくて」
「…その気持ちはわかる。テニス部も団体のメンバーはほぼ固定で、出れねぇやつが大半だからな」
「…え、?」
「いつも同じメンバーなんだよ。幸村真田柳に、柳生仁王丸井ジャッカル、と切原。まじやってらんねぇ、」

使える選手はどんどん入れていき、レギュラーもコロコロ変わる実力主義のバスケ部とは違って、安定感があるからなのか、より勝率をあげるためなのか、テニス部は固定されたメンバー、幸村先輩率いる現レギュラーはほとんど入れ換えがないらしい。けどそれは団体戦の話で、個人戦は代表を校内戦によって決めるんだとか。この先輩は個人戦のシングルスにギリギリで滑り込み、最後の大会の出場権を得たそうだ。

「一度も公式戦出ないまま卒業するやつもいるんだ」

絶句、とまではいかなかったが、現実を突きつけられた気がした。一度も公式戦出ないまま、卒業した先輩が、そう言えばバスケ部にも去年いた。どんな思いで、最後の試合を応援したんだろう。どんな思いで、卒業していったんだろう。

「いろんなもん背負ってんだよなぁ」

遠い目をする先輩は、かつて陸にテニス部を辞めようかと相談していたという。けれど、こうして天才ひしめくテニス部のなかで、個人戦出場の切符を手に入れるまでになったのだから、彼もまた相当の努力を重ねたのだろう。努力が実ったぶん彼も、あたしも幸福だ。けれど、実らなかったら?バスケを好きで入られるだろうか。




20120103
続きます。テニス部の先輩は努力家シリーズの主人公くん。

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