言うなればそれは本能
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パスされたボールを、適当にドリブルしてゴールに持っていく。正直、素人で、しかも同級生と試合するのは好きじゃない。決して悪い意味ではなく。中途半端なディフェンスをドリブルで抜こうとすれば、相手を怪我させるし、同級生ともあらば今後の人間関係も悪化する。けど、負けん気の強いあたしは内心で対抗心をメラメラ燃やし、他のチームのバスケ部やらをチェックしていた。けれど生憎、あたしのチームは、美術部やら文芸部やらのオタクっぽいと言ったら悪いけど、全然動けない子ばかりで、最初は負ける気しかしなかった。しかし試合が始まってみると、根暗に見えた写真部の各務さんが意外にも動けている。聞いてみれば、小学時代にミニバスをしていたらしい。ポジションを聞けば、センターだと言う。話をしながら、こりゃイケるかもな、と感じていた。所詮は学校の球技大会レベル。動けるのが二人もいれば勝てる。この学校のバスケ部のレベルはそこそこ、最近新しい監督になったみたいで実力を伸ばしているらしい。地区が違う立海と対戦したことはないが、県一位に君臨する立海には及ばないだろう。
「ありがとーございましたー」
考えてるうちに、試合が終わっていた。スリーポイントを3本と、ゴール下から5本。各務さんがポストから2本決めて、計20。ディフェンスは適当にカバーするくらいだったが、経験者がいないらしい敵チームのシュートは入らない。リバウンドを取って、速攻を決める。楽勝だ。
「島原さん、ナイスプレー」
各務さんが側にきてポツリと言った。目線が同じくらいだから、写真部というのに背が高い。164はあるだろう。各務さんこそ、久しぶりなのに凄いじゃん。そう言えば彼女は照れたように笑った。そんな私たちを、ギャラリーから三年の派手な先輩たちが見ていた。
「…バスケ部の人だわ、あの化粧加減は」
「そうなの?」
「…間違いないね、バレー部はもっとケバいから」
各務さん、と若干たしなめるように言えば、各務でいいと言われる。じゃあ島原で、と言うと嬉しそうな顔をした。島原、目つけられたかも。と言って含み笑う各務。化粧加減でどの部かわかるなんて、意外に毒舌家なのかもしれない。そんな彼女はどこか中性的な顔立ちをしている。あくびをする仕草がどこか風早と重なって見えて、胸が痛くなった。痛くなった理由は自分でも見ない振りをした。
2、3試合に勝って、ついに決勝トーナメント。適当なところで負けてしまおうと思っていたのに、負けず嫌いの性格が災いして体が動いてしまう。各務もそうなのか、積極的に動いてくれていて、これが案外上手い。体力もあるのか、ほとんど二人でボール回ししてるのに、余裕の表情。なんかしてるの?と聞けば、ちょっと、と言われた。それが気になるのだけど。
次の相手は二年。バスケ部が一人と、経験者が一人。これはキツいかもなー、と呟く各務。他のチームメイトは慣れない運動にバテてるし。たかだか、4分×2でバテるとか大丈夫か。
「…まぁ勝てるっしょ」
センターラインに並んで、各務が呟いた。
「…とりあえず点稼げば、どうにかなるべ」
陰気な見た目によらず、面白い性格をしている。
「…外回すから、スリー打ったら」
リバウンドは頑張るよ。そう各務が呟いて、試合はスタート。結果。勝ちました。え、描写が無いじゃんって!?仕方がないんだよ!!いちいちそんな暇ないんだ!!
「島原さん、かっこいい〜」
同じクラスの女子が集まってくる。髪長くしたり、軽く化粧したり。やっぱ高校は中学とは全然違うな、と思いつつ、タオルを受けとる。各務も同様に騒がれており、照れた顔で可愛いと騒がれていた。中性的だもんな。
「次決勝だね〜」
「え、もう!?」
「…早くね」
決勝の相手は、三年だった。可愛い顔したバスケ部の副部長さんと、170越えの大柄のセンターさん。副部長さんには、さっきの試合を見られていた気がする。他のメンバーもなんだかんだ運動神経が良さげで、あたしと各務の他は戦力外なうちのチームは、端から結果が見えてるようなもんだった。
「どう思う?」
「…聞くまでもなくね?」
挨拶を交わす前に各務と二人で苦笑いする。こちとら運動部いないのに。
「…ただ、」
島原が本気出したら勝てるよ
「、え?」
「…島原が中学ん時の試合、見たことある」
意味深に笑みを作る各務。なんだ、知ってたのかよ。拗ねたように言えば、肩をすくめて誤魔化された。
「…俺も本気出すし?イケるイケる」
一人称がおかしいです。それともそれが素なのか。突っ込む暇もなく、試合開始。決勝だからか、4分×4の4クォーター。替えのメンバーも使って、うまくしていけば、残りの三人も大丈夫だろう。
「…ディフェンス、副部長さん頼む。でっかいのは任せろ」
各務の言うように、副部長さんにつく。ガードだろうか、ドリブルをつきつつ回りを見ていた。しかし所詮は球技大会と気を抜いていたのだろう、簡単にカットが取れた。副部長さんを抜いて、速攻を決める。最後まで追ってこなかったし、本気じゃないみたいだ。黄色い歓声があがって、まるで中学の時だと思う。
「…ナイッシュ」
ハイタッチを各務と交わす。その時、声が響いた。
「マルー、一年相手になにやってんだー!!マルとハナっ、負けたら今日のメニューは倍だからな!!」
観戦していたギャラリーから一際大きな声で叫ぶのは、一つ上を受け持つ国語教師。あの人が噂の監督か。立海時代の監督の、大学の同級生らしい。何回も話に出てきたが、彼は監督の初恋の人を奥さんにしたんだそうな。まぁそんな話はどうでもいい。1クォーターが終わって、2分の休憩時間。
「…あれが監督?」
「ぽいね」
ふーんと呟いた各務は、一瞥すると興味を失ったように目線をそらした。
「…島原のコートネームは?」
「、へ?」
「…立海って付けてなかったっけ?」
「付けてたけど、教えないし」
各務はケチと、呟くと水筒を置いてコートに向かう。潔いんだか、気分屋なんだかわからない。
「…マルだかハナだか知らんけど、ここまで来たら勝ったろかー」
妙に力の抜ける各務の呟きに、頷く。
「あんなに嫌がってるの見ると、逆に勝ちたくなる」
「…それはわかる」
監督の言葉で、気合いを入れ直したらしいバスケ部の二人を見た。明らかに違う雰囲気。
「…余計なことしたな、あの監督」
「確かに」
しかしその後の展開は、あたしと各務以外のメンバーが完全にバテ始めたこともあって、ほぼ二人対五人だった。ディフェンス捨てるか、と各務が呟く。展開を早くするより、時間使って攻めたほうが、確かに時間の少ないこの試合では有利だ。残り1クォーターで、4ゴール差で勝ってる。あたしもスリーを打ちまくって、各務もゴール下から何本か入れた。ディフェンスをしないぶん、時間を使って攻める。先輩たちもそれに気づいたようで、副部長さんのディフェンスがタイトになった。しかし、彼女もそこまで本気じゃないようす。球技大会って、適度に力抜かなきゃだから、面倒だ。
「上手いね、どこ中?」
声を掛けられたようだ。微笑む副部長さんはなかなかの美人さんだ。
「あざっす。ここらへんじゃないんで、わかんないと思いますよ」
そう言って副部長さんのディフェンスを抜いた。半分は嘘だ。ここらへんじゃないのは確かだが、神奈川でバスケをしてる人間で、立海を知らない人はいない。そのままゴールまで、と思いきや、外に出ていた各務にパスする。その方が時間使えるし。各務はロングシュートは苦手だと言っていたが、雑なフォームから放たれたボールは綺麗な弧を描き、リングに触れずにネットを潜る。そこで4クォーター終了のブザー。
「…あらま」
「勝っちゃったね」
勝つと、嫌でも目立ってしまう。同じように各務も勧誘来るわなぁ、とポツリと呟いていた。まぁ、今さら遅いかもしれないけど。
「ありがとーございましたー」
横の各務は、眠そうに目を擦っている。正面をむくと副部長さんと目があう。睨まれてる気がして嫌になった。教室にかえると女子バスケ優勝!!と黒板に書かれていて恥ずかしくなった。
放課後、担任からのお祝いだというジュースを各務と飲んでいると、同じクラスの吉田くんに声を掛けられた。
「あ、あの」
「ん?」
「女バスの先輩が二人を呼んでて、」
げ。そういや吉田くんは小柄だけどバスケ部だったか。各務を見ると、彼女は悪戯に微笑んでいる。
「…勧誘?」
「た、たぶん」
「…悪いけど、私は写真部だから。島原、行ってきなよ」
こ・の・や・ろ・う・!意地の悪い笑みを浮かべて、各務は立ち上がる。
「…じゃ、私部活あるから」
ヒラヒラと手を振る彼女。写真部とか年中暇してるくせに…!!
「ちょっと行くだけだからね」
「うん!!」
不安げに見ていた吉田くんが笑ってくれただけでも良しとするか。吉田くんに連れられて足を踏み入れた体育館は、どちらのコートもバスケ部が使用していた。
「失礼します、」
振り向く部員たち、球技大会の、という声が聞こえる。やっぱやらなきゃよかった、と心の中で思い切り舌打ちした。ステージの上から見学させてもらうことになった。さっさと断ろうと思ったのに、女バスの部長さん、なかなかしつこい。
全体的な雰囲気も悪くないし、力もあるチームだ。
「どう思う?」
いきなり、監督さんから問われる。
「チームですか」
「うん」
「いいと思います」
「立海より?」
「…それは、まぁ」
苦笑を返せば、彼は爽やかな笑顔で立海の監督とは旧友でね、と言い放った。
「ええ、何度か、監督から大学時代の話は聞いてます」
「そうかい」
君の辞めた理由も聞いたよ。そう言って口角をあげる彼。あんのおしゃべりの監督め。
「最初は、勧誘する気なんてさらさらなかった。一回辞めると決めた人間の覚悟を、簡単に覆してまで欲しいとも思わなかった」
「…」
「でもプレイ見て、気が変わった。君は、もっと伸びる。俺がここで、伸ばしたい」
ナイスミドルな監督。そんな監督から口説くようにして勧誘されたら、女の子は腰砕けになるんじゃなかろうか。
「…お言葉は嬉しいですし、そこまで評価を頂いたのも、嬉しく思います」
「うん」
「けど、監督が仰ったように、私は一度バスケから逃げた人間です」
「うん」
何度も自分に言い聞かせてきた言葉を、口に出す。
「一度裏切ったくせに、またバスケに戻るのは、自分で自分を許せません」
なので、バスケ部には入れません。そう言って頭を下げた。
「うん、立海の監督と話したときもね、同じことを言ってたよ」
本人がそう思ってるんなら、仕方ないか。呟いた監督に、用事があるので失礼します、と声をかけて体育館を出た。
これでいい、
これがいい。
溢れてきそうな嗚咽を、息を止めることで防いだ。
島原が去った体育館で、部長が監督に食って掛かっていた。
「どうして返しちゃうんですかっ」
「本人がもうしない、って言ってるんだから、無理にさせることはないだろう」
部長は納得がいかないようであったが、しぶしぶ練習に戻った。
「…良かったんですか」
背の高い男子部員が聞いた。
「立海大附属中の、レギュラーだった子でしょう」
「ああ、俺も喉から手が出るくらい欲しいプレイヤーさ。けど、」
無理やり入れたって、伸びるものも伸びない。
「まだバスケをしたい、という思いはあるようだからね。時間をかけてバスケに戻ってくればいい」
遠い目をした監督は、歌うようにしてそう言った。
「マルー、ハナー。お前らズルすんなー」
20120103
バスケシーンは楽しいけど、長くなるなぁ。島原はシューティングガードとかスモールフォワードなポジション。
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