30cmの君との距離
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×家鴨

視点が交互に入れ替わる初の試み。
正直読みにくい。


* * *

寮から走って三時間、なんとまさかの川崎に近いところまで来ていた。わお。我ながらやるなぁ。最高記録なんちゃう。学校から川崎までとか、もはや地球一周分みたいなもんやないか。ちゅうかポケットに突っ込んできた携帯と小銭入れがやけに重いねんけど。チャラッチャラチャラッチャラ、お前はチャラ男かアホ。…全然上手くないっつの。
あかんわ、水分足りてへんねや。同室の先輩から持たされた水は、くっそ重くて走りにくいわってなったさかい、軽減のためにと序盤で飲みきってしもうたし。そろそろ水分補給せなあかんなぁ。そう思って辺りを見回した先、道路を挟んだ向こう側、目に入ってきたのはテニスコートに隣接したバスケコート二面。いわゆるストリートってやつやな。こないなところにあるなんて。結構新しめの綺麗なコート。ええなぁ、学校の近くのストリートは人があんま来なくて空いてるのはええんやけど、誰かが調子のってダンクでもかましたのか、リングがギッシギッシ言ってんねん。
コートの一面は小学生くらいのちびっこが使っている。きゃいきゃい遊ぶ様子に、自分にもあないな頃があったんやろうかとふと考えた。小学校低学年くらいまでだったろうか、あんなふうに『遊び』でバスケをしてたのは。おそらくそれくらいの頃だったに違いない。別にそれを悪いとは思わないし、今も十分楽しんでいるけれど。コートの隅に古ぼけたバスケットボールが転がっているのを見て、ウチはフェンスを開けてコートに入っていった。

* * *

久しぶりに、わくわくするプレーを見た。レイアップのシュートをわざと大きく外してリバウンドからのスタート。しなやかな体躯は遊ぶようにしてボールを操る。ハーフまでボールを戻してからの流れるような動き。トビくんや、横山大栄の不破くんを思い起こさせるような鮮やかなテクニックと高いキープ力。コートにいるのは一人でありはずなのに、何人でもいるような錯覚。
「ねえ、僕も一緒にいいかな」
気がつけば声を掛けていた。短髪に凛々しいという表現が似合う顔。振り向いた彼は、さぞ女の子たちに騒がれるだろうイケメンだった。くそぅ、バスケも出来て身長も高くてイケメンだなんて、僕の最大の敵じゃないか!!それでも彼の人好きのする顔とバスケの技術につられて、自然と話しかけちゃったけどさっ。
「僕はクズ高の一年、車谷空って言うんだ」
「立海の三年、風早陸いいます。よろしゅう」
言葉のアクセントから思い出すのはニノのこと。関西の人なのか問えば、大阪の出身だという。一見強面にも見えるその顔は、笑うとエクボがくっきり見えて、年上のはずなのに、風早くんがかわいく見えた。
加えて立海大学附属と言えば、各種スポーツで全国上位を総嘗めしてるスポーツの名門。こっちに来て長いわけではない僕が知ってくるからいだから、相当な強豪なんだろう。男バスは地区が違うからか、あまり噂を聞かないけれど。そこの三年なんて、どれくらい出来るんだろう。

* * *

えらい小さいのが来たな、そう思た。フェンス横に並んでた自販機で買ったスポドリを飲みながら、えらい小さい男の子を盗み見た。亜季より小さく見えるその身長はきっと160もないように見える。にしては身体が出来ているから相当鍛えてるな、そうも思う。
「車谷空っていうんだ」
クズコウとかいう聞いたことない名前の中学校らしい。小さいって言うたらあかんのやろうけど、その身長でバスケをしてるとは、なかなかやるなぁ。おまけにここは強豪ひしめく激戦区神奈川やから。やっぱ身長ある選手には敵わない部分が、小さい選手には多々ある。これからが成長期とは言え、身長がないのはだいぶ痛いのに。根性あんねやろうなぁ。
見下げると、くりくりと大きな目に、あちらこちらに跳ねている髪がかわいかった。自己紹介して、はたと気づく。前に、あの場所であった人は車谷とかいう名前じゃなかったか。あの人の柔らかい笑顔を思い出して、懐かしくなる。空くんにワンオンワンでいいかと言えば、勢い良く頷かれた。そう言えば空くんはあの人に良く似てる。

* * *

身長を聞けば、184だそうだ。184って…僕と30cmも違うのか。僕に184あったら、…女の子にもモテモテなのかな。なんて。
大きいね、と言えば、それしか武器あらへんねん、と豪快に笑う風早くん。そんなことないくせに。ニノしかり風早くんしかり、上手い人ほど謙遜するのも上手い、…トビくんは例外か。細身のうえに彼は小顔なのもあってか、実際の身長よりも小さく見えて、いつも大きい茂吉くんや千秋くんと話してるからか、あまり威圧感は感じない。それよりもニノが本気を出すときに見せるような、人を喰らうような、喉元を掴まれるような妙な気迫をさっきの風早くんも持っていて、僕はそのことにぞくぞくした。

* * *

とりあえずウチの先攻で空くんがディフェンス。空くんの目は真剣そのもので、舐めてかかったら痛い目見るで、とウチのセンサーのような本能のような、経験からくる勘のようなものが警告する。わかってんねん、そんなこと最初見たときから。中1とは思えない筋肉の付き方、相当鍛えてるんだろう。クズコウ中学なんて聞いたことないけど、こないな子がいんねやったら、そこそこ強いんちゃうかな。うちの男子部の腑抜けた一年どもに見せてやりたいわ。
150と180。身長差は歴然としているものの、空くんのステップは日頃の努力が窺えるもので、相当やり込んでんねやな、と感じる。せやけど、やり込んどるのは此方も同じや。いくら年下やろうと、立海が掲げるのは常勝やねん。ウチは負けへんで。

* * *

フェイクからの鋭いドライブ。スニーカーが地面に擦れる音。僕は必死に食らいつくけれど、普通狙いやすいはずの位置にあるボールがやけに遠い。表情を読ませないポーカーフェイス。その奥には好奇と興奮の色が見えた。右から抜けようとしたため、コースを塞ごうと一歩踏み出した隙にロールで左にかわされる。
そのままレイアップ、と思いきや、手を伸ばしていた僕に勘づいたのか、フロントでなくバックでシュート。ネットを揺らす音。コートにボールが転がった。
僕は鮮やかなプレーにその場から足を動かすこともできず、呆然とした。

* * *

乱れた髪をくしゃりと撫でた。正直なところを言ってしまえば、相手としては物足りなかった。圧倒的と言えるほどの身長差、ミスマッチだったとしかいいようがない。まぁウチがディフェンスにまわっても同じように空くんに抜かれてまうやろうけど。
空くんはまだ中学一年だし、身長もこれから伸びてくる。負けちゃった、そう言う空くんは転がっていたボールを拾い、スリーポイントラインで構えた。綺麗なフォームからノータッチでネットをくぐる音。それはコートにやけに響いた。これが僕の武器だよ。不敵に笑う。こらええプレイヤーになるわ、そんな予感がしてぞくぞくした。

* * *

負けっぱなしもなんだか悔しくて、見せつけるようにスリーを打てば綺麗なフォームやなぁ、と感心された。攻守入れ替わってもう一度ワンオンワンしよう、そう言う風早くんの提案に乗った。
カット、もしくはミスによりコートから出た場合ディフェンスの勝ち。ゴールを決めたらオフェンスの勝ち。至極簡単なルール。始めようか、とハーフラインに二人並んだところでコートを囲うフェンスのドアが開いた音がした。

* * *

「車谷くん、どこいってたの?!」
「な、七尾さんっ。探しに来てくれたの?」
空くんよりも小さな女の子が入ってきて、いきなり空くんに食って掛かる。空くんの格好を改めてよく見てみれば、暖かそうなジャージの下には淡色のユニフォームを着ていた。おそらく、試合後にそのままここに来てしまったか、試合を抜け出してきたかのどちらかだろう。
「なんや空君、彼女?」
「ち、違いますよっ。」
「へ、車谷くんこの人は?」
からかうように言えば、真っ赤になって否定する。ナナオさん?のこと好きなんかな、めっちゃかわええ反応。
しかしナナオさん、中1にしては大人びてる。たぶんうっすら化粧してはるし。本当に中学生やろか。空くんとはタメ口だから中1やと思ったけど、実はナナオさんはOBさんなんかな。まぁ、いいや。ちっこくてかわええ。
「風早です。よろしゅう、」
「え、あ、七尾奈緒っていいますっ」
マネージャーさんらしい七尾さん、しつこいく言うけどめっちゃかわええわ。ハキハキしとるとこも好感持てるし。空くんにええなー、と言えばへへっと笑われる。そんな空くんもかわええんやけど。
ちゅうか、空気的にウチは帰らなあかんわな。部活仲間さんが来るみたいやし。せやったらとりあえず連絡せなあかんな、と一先ず寮の先輩に電話を掛けることにした。

* * *

連れ戻しに来たらしい七尾さん。試合終わって飛び出してしまったから心配していたらしい。ごめん、と言えば、どこ行くかぐらい言ってよと言われた。頬を膨らませる動作が女の子っぽくてかわいい。
七尾さんが百春くんに連絡すると、俺もストリートしたいと言うらしいので、ここで待つことにした。百春くんは極度の方向音痴だよね、大丈夫かな、と言えば茂吉くんが一緒なのだそうだ。千秋くんとトビくんはさっさと帰ってしまっている。…薄情だ。
「おー、いま?川崎のはずれやな」
後ろで風早くんが携帯で誰かと話していた。どこまで行っとんのーという大声が、携帯から聞こえてくる。苦笑いしながら、とりあえず今から帰るわ〜、と言って風早くんは電話を切った。
「怒られてもたわ」
おんなじやな〜、と笑う風早くん。頬を伝う汗すらかっこいい。イケメンで背も高くてバスケも上手くて笑顔は可愛いなんて。ずるすぎるよっ。その癖、名前まで爽やかだしさっ。
「あと一回くらいしたかったねんけど、」
また今度会ったときやな、そう言って笑った。七尾さんとはちゃっかりメアドを交換してる。後で僕にも送ってもらおうっと。
「ほな、また」
「うんっ」
手を降って別れを告げる。ばさ、コートから出る際、風早くんはジャージを羽織った。
「あれ?」
黒地に白抜きのかっこいいデザイン。そこに見えたのは立海大学附属"中"の文字。
「ちゅ、中学生だったの…?」
「え?車谷くん、」
「うん…、高校生だとばかり…」
「あはは、それじゃ向こうは私たちを中学生って思ってそうだね…」
2人してため息をついた。確かに小さいけどっ。小さいけどっ。ショックだね、そう言う七尾さんに大きくうなずいた。

そのあと来た茂吉くんに、立海大附属は「女子」バスの強豪で、しかもこの夏は全国優勝したと聞かされた。イケメンだとばかり思っていた風早くんは実は女の子だったなんて。世の中何がなんだかわからない。

しかも、その風早さんが立海を全国優勝に導いたキャプテンだと僕が知るのは、また別の話。

* * *

「ただいま〜」
「なにしてんだ、試合の次の日くらい休めよ…」

先輩から話を聞いたのか、出迎えてくれた柏田に、すまんすまんと謝って、そういやあんた、クズコウって知ってる?と聞いてみた。

「ああ、九頭龍な。川崎の高校だろ?地区予選で騒がれてた、」

まぁ負けたけどな。そう言って柏田は背を向ける。身体冷やすなよ、なんて言ってタオルをくれる柏田はやっぱり優しいが。
気になったセリフが一つ。九頭龍…高校?ということは、空くんは中学一年ではなくて、高校一年?
…あかん、めちゃくちゃ勘違いしとったわ。タメ口使ったりしてめっちゃ失礼やったやん。せやけど今さら確認できひんし。めったに会うことはないやろうけど、謝罪メールを送ったがええやろか。
小一時間悩んだあげくウチは、なにも知らなかったことにしようと携帯を閉じるのであった。


30cmの君との距離


20111206 秤
ずっと携帯で眠ってたネタ(笑)空視点が難産でした。それから関西のノリがいまいちわからん。関西圏の方ごめんなさい。

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