西条へ
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西条がくれた小説に触発されて書いた別視点。反省はしていない。



先輩が見えなくなるまで走った後、茜に染まる帰路をゆっくりと歩く。何処かで物悲しそうに鳴いてるカラスが夕方を告げていた。風が髪を撫でて、それが思いの外寒くて、思わず身震いをした。ポケットに手を突っ込んで、今日はジャージじゃなかったと気づく。少しは先輩の前で女の子っぽくできたかな、なんて思うけれど、自分の言動を思い出して恥ずかしくなった。

「アリス・フィスナー?」
「そ。知らない?バスケかなり上手いんだけどな、」

そう話すアキ先輩の顔は女の子以上に秀麗で、思わず息を飲んでしまうほどに整っている。美しいっていう表現が彼以上に似合う人もそうそういない。張り合えるなら、一人いるか。優等生然とした雰囲気で女子が騒いでるデイビス先輩。ウチはあの貼り付けたような笑みがどうも気色悪くて、あまりいけ好かないのだけれど。そのとき図書室のドアが空いた。

「アキ、」
「アクア、」

おっとアキ先輩の彼女登場。こうしちゃおれん、さっさ片付けな。ほらウチって空気読める子やから。げ、いまリュックの底でグシャった音がした。

「可愛い彼女のお迎えですか〜。さすがアキ先輩、やりますね〜。ほんならお邪魔虫は退散しますさかい。勉強教えてくれてありがとうございました」

テスト頑張って、という先輩の声を背に、リュックを背負って出口に向かう。佇むベルフェゴール先輩に軽く会釈して、放課後の図書室から出た。アキ先輩とアクアマリン・ベルフェゴール先輩。アキ先輩の長年の片想いだったらしい。今では校内一有名なカップルだろう。その付き合った経緯にしても、その人目をひく容姿にしても。アキ先輩はイギリスの出身だというのに、艶やかな黒髪に漆黒の大きな瞳。ベルフェゴール先輩にしても人形と見間違うほどの端麗さ。ベルフェゴール家は極道の家柄で、同じ極道のマルフォイ家の子息との婚約を破棄してまでの大恋愛、しかも相手はかの有名なハリー・ポッターの弟。誰が噂してまわったのか知らないが、校内の誰もが知る話となっている。

それにしてもベルフェゴール先輩とすれ違ったとき、花のような良い香りがしたのが忘れられない。女の子ってああいう香りがするもんなんだろうか。ウチはいくら嗅いでも洗剤の匂いしかせぇへんのやけど。顔も小さくて、手足なんか折れそうに細くて、抱き締めたら壊れそうなくらい華奢。いかにも女の子って感じの、男子が好きそうなタイプだ。いや、ウチも好きやけど。

ちょうど階段にある全身鏡に自分の姿を映して思う。スカートから伸びる足も、短く揃えたベリーショートの髪型も女の子らしいとは言いがたい。それどころか女の子にモテてしまう始末。思わずため息をついた。

「陸先輩、」
「ん、どないしたん?」

見れば困った顔のバスケ部の後輩。ウチは下駄箱にかけていた手を下ろした。

「なんか、よくわかんない人が体育館いて…」
「へ?」
「最初は外に出てるボールを閉まってくれてたみたいなんですけど、そこからバスケし始めて、ピアスしてたし金髪だしでちょっと怖くて…」
「さよか、ちょっと行ってみるさかい、ちょっと待っときぃ」

せやけど赤点とったら試合出さへんで。そう後輩に告げて体育館に向かう。努力家ばかりのバスケ部はテスト期間の合間も自主練をする子が多いのだが、今回のテストで赤点を一つでも取ったら練習試合に出場出来ないというペナルティが課せられた。それでも練習しようてしてたさっきの後輩はどうしても試合に出たいのか、それとも勉強しなくても余裕なのか。

「ちゅうか、どこの不良やっちゅう話やねん」

ウチはかったるいと思いながらも足を進める。金髪ピアスは何人かしか浮かばない。その数少ない中に、アキ先輩が言っていたあの人もいるわけだけど。

「あっちゃー」

まさかのまさかやな。噂をすればなんとやら、なのか。一心不乱にバスケをしてるのはアキ先輩の親友だというアリス・フィスナーその人で。一心不乱というよりも半ば意地になっているのか、ミドルばかり狙っているがなかなか入らない。

「どないしようかなー」

そのうち止めるやろうけど。アキ先輩が面白い人、と彼を称していたことに興味を引かれ、半ば好奇心で話しかけた。

睨み付けるように此方を伺う色素の薄い碧眼。左耳で揺れるシルバーのピアス。アキ先輩やデイビス先輩に負けず劣らず女子から黄色い声を浴びせかけられる理由がわからなくもない、整った容姿。本人はその歓声に自分は関係ないと思っているようだけど。不良に憧れる女子はなかなか多いのだ。

バスケの腕もなかなかのものだったから1on1に誘ってみたけれど、どうやらそこまでする気は起きないらしい。風早、とウチの名前を知ってるとは。驚いて心臓が跳ねた。

ボールを床に打ち付けて背を向けるアリス先輩に、片付けろと言えば頼むと言われる。別にこれから後輩が使うんやろし、ゴールもボールも出しっぱなしで構わへんかったけど、もうちょっと話してみたくて、無理やり襟首を掴んで引き戻した。バスケ愛しとる、とか変なこと口走ったな、なんて今さら反省。襟首を掴んだアリス先輩は思っていたより小さくて、ああ、いつもはアキ先輩の隣にいるからでかく見えるだけなのか、と思った。この人の隣やったらウチでも小さい女の子みたいになれるかな、とか思ってたけど、どうやらこの人の隣でもまだウチはでかすぎるらしい。案外小さいな、と言おうとして、それは自分が虚しくなるだけだと気付き、言う直前で飲み込んだ。

「あいつが好きってか?」

アリス先輩は多分アキ先輩のことでいろいろ女子に絡まれてんのやろなー、と内心思いつつ返事を返す。あない可愛い人の隣なんウチがおれるわけあらへんやん。二人でボールを片していれば後輩がやってきて、あとは自分が練習するから、と言ってバトンタッチしてくれた。

校門までの道のりを先輩を半ばからかいながら歩く。案外おもろいんやな、この人。こんどアキ先輩に会ったら報告せなあかんわ。覗き見すんならアキ先輩にしろっちゅうて来たから、アキ先輩なら覗き見なんせんでも堂々と見てるわ、と思いつつ、アキ先輩に若干コンプレックスを抱いてるらしいこの可愛らしい不良に新情報を与えてあげる。やはり自分じゃ気づいてなかったようだ。

好きでもないやつから好意を向けられるのは先輩は鬱陶しく感じるらしい。なんて贅沢な考え方や。ウチかて好意を向けられんねんぞ、ただし女子限定で。寂しいったりゃあらへんわ。アキ先輩とベルフェゴール先輩を思い出して、少し自嘲気味になる。女の子と見間違える、なんて羨ましいこった。そんなことを呟けば先輩はウチの頭にでかい手をのせてくる。自分より身長の低い人から頭を撫でられるなんてびっくりして身を退こうとしたが、緊張からか体が動かない。らしくないで、ウチ。先輩はそのまま髪をかき混ぜた。汗かいてなかったかなとか、変な匂いせんかな、とかそんなことばっかり考えて、何故かバクバクとうるさい心臓を必死で抑え込む。

「お前みたいに活動的な奴のほうが好きだけどな」

反則やわ、先輩。体温が上がったのがわかる。多分いま顔が真っ赤になってる。まだ巡り合ってないだけだ、なんて運命信者のような言葉は見た目不良のアリス先輩に似つかわしくないけれど。暖かい言葉も優しげな笑顔もぜんっぜん似合ってへんけど。なんでウチの心臓はこないにドキドキしてんねん。なんやウチ、女の子みたいやん。こんなキャラちゃうやん。見られたくなくて、俯きがちになる。短い髪はこんなとき顔を隠してくれないから不便だ。手を離した先輩はニヤっと笑う。照れ隠しに髪を整えて、反撃を考える。

「…せやったら」
「あ?」
「誰ももらってくれへんで売れ残ったら、先輩貰ってくれます?」

少し下にある碧眼を覗き込めば、ブッと吹き出された。結構本気やってんけど、と拗ねたように言えば、悪い悪い、と悪びれた様子もなく言う。

「俺なんかで良ければ、貰ってやるよ。」

うわ、反則やわ。本日二度目。もう退場やで先輩。さっきから地味に漂うピンクオーラが辛い。「実は全部ドッキリでした〜チャンチャン♪」ってならんやろか。オチはどこやっちゅうねん。恥ずかしすぎんねんこの展開。アリス先輩タラシやんけ。誰や人気ないとか言うたやつ!

「物好きやなぁ」

バカにしたように言う、これくらいしか反撃できないなんて大阪人としてのプライドがズタズタである。オトン、オカンすまん。

「お前が言ったんじゃねえか」

余裕のある態度がムカつく。でも体も口も、いつもだったらすんなり出てくる文句が出てこない。

「本気にしてまうやん」
「暇な奴だな」

好きな奴いねぇのか?と聞かれて、浮かんだのは。


「ほな、ウチこっちやさかい。おおきにな、アリス先輩。」

さいなら、と言って背を向ける。背中に視線を感じて恥ずかしくなって走り出した。なんで心臓がこないにもドキドキしてんのか、その時にはもう気づいていた。


「テストなん、集中出来んわドアホ」





テスト終了まで、あと二日。


やらかした\(^o^)/
西条がくれたのの陸視点。陸さんがこんなに乙女になるなんて\(^o^)/

20111002

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