残りものパーティ
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「やっと終わったな〜」


ウチは撤去作業を進めながら亜季に呟いた。



「そうだねぇ、陸は後夜祭参加する?」


「あ〜、そういやそんなんあったな」



中学生徒会と騒ぐのが好きな3年が中心となって後夜祭の準備を進めていたはずだ。確か今年は中庭が会場になっている。


「食物系が安くで飯だすのを狙って行ってもええな」


そんな話をしながら、壁に貼り付けていたポスターやらなんやらを外していく。台座要らずなので楽だ。



「やっほ〜、陸いるか〜」


「ん?なんや赤也か、お疲れさん」


どないしたん、と言えば赤也は手に抱えた箱を、そこにあった受付の机に乗せた。赤也はまだ浴衣を着替えてない。祭りではしゃぎすぎたガキみたいによれよれになっている。



「おつかれ〜、撤収捗ってんな」


「まぁ人数もおるから」


「そんなバスケ部の皆さんに差し入れです!」


「はい?」



差し入れという言葉にみんな反応した。ジャッジャーン、という効果音とともに赤也が箱を開ける。箱の中には昼間食べたときより盛り付けがちょっと貧相になったあんみつ、白玉、ところてんなどが、紙コップに入って所狭しと並んでいる。周りから歓声が上がる。切原ナイスッという男子の声とか。



「おおぉ!どないしてんこれ!貰ってええんか?」


「おう!だいぶ余っちまってな。柳先輩が配ってこいって」


昼間見た柳先輩の浴衣を思い出した。うん、かっこええ。



「余ったんか?盛況やったやないか」


思い出してもテニス部は女子のファンやら他校のファンやらでごった返していたように見えたのだが。


「それが後夜祭で出そうって言って作ってたんだけどよ、後夜祭は店出すなって新川に言われっちまってな」


「ああ、慶次兄ちゃんか」


「ファンが騒がしいことになるからやめろってよ」


「ああな、なんか想像できてまうわ」


テニス部の屋台に群がる女子生徒、そして寂しい中庭。



「出さんで正解やと思うわ」


「だろ。で、その分余ったからおすそ分け」


「おん。おおきに」


バスケ部のフリースローは余っていた景品を最後の人たちにどっさりあげたので、すっかりなくなっている。あげれるもんないわ〜、と思ったら後輩が風船を持ってきた。チビッコの景品だったやつだ。


「先輩、これ」

「おお。切原、コレやるって」

「…風船?」

「その格好やったら超似合うわ」


甚平にお面にちょんまげに風船。


「ほんま縁日のガキンチョみたいやな」

「うるせっ」

そう言って笑いあう。


「切原美味かったぜ、サンキュな」「ごちそうさまです〜」「美味かった」

そう言って部員たちは次々と平らげていった。

「ん、みんな食い終わったんかいな」

そう言って箱を見れば入ってるのは空ばかり。

「みんな食べたか〜?」叫べば、食べました〜という声が返ってきた。アリーナは綺麗になって文化祭の影は見当たらないが、笑い声があふれるこの空間がとても好きだと思う。


「なにしんみりしてんだ?」

そう言って赤也が顔を覗きこんできた。


「いやいや、来年はこの行事に参加できんのやと思うとなぁ、寂しなるわ」


その声が聞こえたのか、近くにいた柏田がなに言ってんだ、と呟いた。

「いやぁ、ウチも気が早いとは思うんやけどな」

そう言って肩を竦めた。


「そんじゃ俺は片付けもあるし、帰るかな」


「ウチもついていくわ、お礼いわなアカンやろ」

「あ、じゃあ俺も行くぜ」


結局3人でテニス部のブースに戻ることになった。亜季に今後のことは頼み、夜に寮で打ち上げしようや、と言うと、「明後日は練習試合ってこと忘れないでね」と、笑顔で釘を刺された。

3人でアリーナから海林館までの道のりを行く。赤也を間にしているから、どうしても谷になる。そのことを赤也は恨めしそうにしていた。周りは撤収作業をしたり、同じように余り物やOBからの差し入れなどを配っていたりと、文化祭は終わったのに目まぐるしく動いている。

ちなみにバスケ部はOBOGから差し入れとして練習の際の大量のスポドリと、すぐ食べれるようなアイスや飴を頂いた。赤也ももうちょっと早く着ていればありつけたのに。


「俺はちょっとわかるぜ、さっきの」


赤也が言った。なにかと思えば、さっき言った「来年はこの行事に参加できない」の件らしい。


「俺たちは3年が最後だから」


「ああ、テニス部は最後に持ってきとるんやったっけ」

そういやそうだったな、と柏田が言った。実は海原祭は部活ごとに出店の意図やメンバーが異なるのだ。例えば、バスケ部は1,2年の新チームで一致団結を図るために、テニス部は3年の最後の仕事として、というふうに。それは部活ごとに決められており、ある意味での伝統になっている。

柏田が突然今のテニス部の先輩の名前を列挙し始めた。

「部長の幸村先輩とフクブの真田先輩と、生徒会の柳先輩。その3人が3強って呼ばれてんだっけ。それから銀髪の仁王?先輩に、ちっさい丸井先輩に、ハーフのジャッカル先輩に、えっと」

「柳生先輩」

「そうそう、眼鏡の人。」

想像してみると、ずいぶんと灰汁の強い面子だ。


「よぅ、そない濃い奴らが集まったもんやなぁ、」


「まぁバスケ部の先輩も十分濃かったとは思うけどな」


赤也は肩をすくめる。


「俺が入部したときからアレだったぜ?そういう運命だったんだろ」


ウチと柏田も同じように肩をすくめた。




「俺ら、立海背負うんだな」


人気がなくなったところで赤也がポツリと言う。


「そういうことになるな」

「せやね」


ここにいる3人だけでなく、立海にいるすべての2年が次代を受け継ぐ。運動部は特に、前年の悔しさと立海の誇りを持って、この1年で練習に励み、また来年戦いに行く。


「正直、最後って感じしねぇんだよ」


赤也はちょっと苦々しそうに言った。



「明日もさ、3年全員いてみんなでバカやって、試合して、ってやってそうなんだよ」


ウチも柏田もなにも言わなかったが同じように感じていたと思う。全国の前から、これが終わったら先輩たちは引退だと自分に言い聞かせてきたけれど、いまだに未練を感じている。


「全国も中途半端に終わっちまったし」


優勝確実と言われていた幸村先輩率いる黄金世代が、東京の無名校にまさかの敗北。まさかの展開だっただろう。



「このまま引き継いでいいのか、不安なんだよ」


「確かに未練ねぇわけねぇな」


先輩が未練を残さず引退なんて、どこの運動部もほとんどありえないことじゃないだろうか。必ずどこかしらに悔いを残し、その悔いをバネに次の舞台で必死になるのだ。


「ウチらが先輩にできることなんでもう分かりきっとることやろ」


「…そうだな」


ウチらが勝てばいい。先輩らの雪辱を晴らせばいい。旗を取ってきて、先輩らのおかげです、って言えばいい。



「前進あるのみや」


「だな」


「おう」



そう言って三人で誓った。


「全国優勝!」

「同じく、てっぺん取ってくる!」

「関東大会出場!」

「「いやいやいやいやいや」」

「え、いいじゃん」

「空気読めよ…」

「せやから県大会止まりなんや…」

「わぁったよ!男バス全国優勝!これで文句ねぇだろ!」

「言ったからにはせなアカンでー」

「してやるよ!」


暮れかけた空に、笑い声が響いた。




*オマケ*


風「っちゅうか切原、帰るん遅うなって叱られるんちゃう?」
切「げ、ま、まぁ大丈夫だろ」
柏「俺たちいるしな」
 「あ・か・や?」
切「ゆ、幸村部長!」
風「(げっ、なんや黒いオーラでてはるやん!)どーも、幸村先輩。バスケ部の風早です。あんみつごちそうさまでした〜。まさか貰えると思ってなかったんでウチの子達みんな大喜びでしたわ〜」
幸「ああ、風早さん。喜んでもらえたなら嬉しいよ」
風「切原と柏田とウチで3人話しこんでしまいまして〜、ほんま遅うなってスイマセン」
柏「(風早つえー)」
幸「そうだったんだ、まぁ仕方がないね」
柏「あ、幸村先輩。男バス部長になりました。柏田っす。俺らの分までありがとうございました。」
幸「いえいえ」

風柏切「「「(ほっ、免れた)」」」

幸「ふふふ、赤也は話がある…」

切「は、はいっっ!!」

風柏「「(ああ、ご愁傷様…合掌)」」



20110815

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