所謂ハゲ電球オチ
::






「もう一本ダッシュー、一年顔上げろー」



はいっ。





体育館に響くスティール音と掛け声。まだ朝だというのに、そこは蒸し暑い。





「もっと走れるー、」





部員に激を飛ばしながら、ウチはコートの外にいる。この位置が歯痒くて仕方がない。新チームになったのに、主将は怪我で見学だなんて意気消沈するのもイイトコだ。皆そんな雰囲気は微塵も感じさせないけど、奥底ではどう思ってるか知れない。そんなの気にしたってしょうがないから、半ば焦るようにリハビリに打ち込んでいる。




バスケの激戦区であるこの神奈川で、長年の間頂点を独占してきたその伝統をウチの代で壊すわけにはいかない。全国にしても、梅花や大阪第一と肩を並べる強豪として有名なこの学校の名に、泥を塗るわけにはいかない。





「よーし、集合。」






部員を集めて、明日の文化祭のことを確認する。大丈夫そうだ、穴はない。






「それから、今週末は名古女と星徳と練習試合やから。」





そう言うと部員からは、どこか消沈したような、興奮したような、よくわからないざわめきが起こった。ウチもこの二年間で思ったけど、この部は異常な練習試合の数をこなす。それは経験の無さを補ったりスキルの向上を図っているものだけど、それ以上に自信や勝負の勘をつけさせることを監督やコーチは目的にしてるのだと思う。いくらセンスがあっても、いくら練習してもつかないもの、それが自信と勝負勘。ほんの一、二年前までランドセルを背負っていたやつらなのに、この学校に入学してからスキルだけでなく精神的なタフさも爆発的に延びたのではないかと思う。それは自分自身も含めて。




片づけをしていると、横で一年の部員がやって来て言う。




「先輩は、」




「うん?」




「先輩は足は、大丈夫なんですか?」




どうやら心配してくれたらしい。




「大丈夫やでー。まだ、医者には止められとるけど。次の次の練習試合くらいには復帰できそうやわ。」



そう言うと彼女は安心したように微笑んでウチの持っていたボールケースを持っていってくれた。そういえば彼女も小学生の時に靭帯をやったことがあると、以前本人だったかほかの部員だったかから聞いたことがある気がする。彼女は身長はもうすこしほしいが、今までいなかった、がっちりとした体格のパワータイプのセンターなのでこれからどんどん活躍してもらわなければならない。ああ、ウチのポジション?気になる?なんてな。ウチは基本センターやけど、ボール運びもするし外も打てるから、ある種では万能型やと思う。自分で言うなって?だってホントのことやもんー。




着替えて、教室に向かう。途中、テニス部の朝練に行っていたらしい赤也とすれ違ったので、軽く言葉を交わす。どうやら部長になって一度も遅刻して無いらしい。こりゃ空から雪だるま降ってくるな、と言ったら、バカだろ、と言われた。関西人に向かってバカとはなんや、と言おうとしてデジャビュを感じてやめた。




相変わらず頭上が天晴れな担任の声をBGMに、ウチはあくびをしながら窓の外を見つめた。



昨日の夜のランニングの最中、呼び止められたウチはテニス部旧部長の幸村先輩と少し話した。聞くところによると、彼は昨年度の末から重い病気で入院し、関東大会決勝の日に手術だったらしい。よく全国までに体を元に戻したものだ。筋力、体力、そして何よりも精神が弱っていただろうに。この話を切原から聞いたときは、この人は本当に“神の子”なんじゃないかと疑わしくなった。彼の努力と執念、全国優勝に掛ける思いは生半可じゃなかったのだろう。だからこそ、軋む体に鞭を打ち、身体の裂けるようなリハビリをこなせたのだ。




「風早さんだよね?」



やさしいアルトが火照った身体に染込んでいくような感覚に囚われる。



「どーも。テニス部の幸村先輩。」

 

そう言って何気ない風に応対したが、内心心臓が跳ねて跳ねて仕方がなかった。彼は柳先輩づてにウチのことを知っていたらしい。主将はどう?という話から始まって、切原の話や、お互いの全国大会での話、膝の話なんかをして、半時間足らず。幸村先輩は、急に真剣な顔になって、ウチを凝視した。




「え、どうされはったんですか?なんかついてます?」




先輩は真剣な顔を崩して、なんでもないよ、と言った。



「君と少し話がしてみたかったんだ。」



微笑む先輩は、そんじゃそこらの女の人よりも綺麗だ。最近のことを思い返してみると、柳先輩だったり丸井先輩だったり、仁王先輩だったりと、よくテニス部の先輩と絡んでることに気づいた。



「俺も二年間主将だったからさ、」



そう、15年間もの長い間関東の頂点に君臨した立海の主将。しかも率いるのは歴代最高といわれる黄金世代。一年からそのユニフォームを手にし、立海を優勝へ導いた。皆がテニス部に期待した。主将となり、さらにそのプレッシャーは大きくなっただろう。彼は二年間、主将という重みをどうやって背負っていたんだろう。病気もしたというのに、堂々とコートに立っている姿がうらやましい。




彼のように、強くあらねば。




幸村先輩は私の肩に手をのせると、頼んだよ、とつぶやくように言った。それからすぐに先輩は帰ってしまったけれど、多分何か重要なものを彼から受け取った気がした。彼の誇りとか、プライドとか、立海に対する思いとか熱とか。言葉で簡単に言い表せるようなものじゃない、何かを。





ウチは、来年その思いを背負って、また全国に行く。OGの先輩たちや親や、何よりも仲間のために。ウチは強くありたい。





強くないといけない。


ウチが、立海のキャプテンや。






風早どこ見てんだー、という担任の声で、どこか浮いていた思考が元に戻された。良いところやったんに、何してくれてんねんこのハゲ電球。




2010805

prev / next
[ back to top ]
top
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -