キャプテンは男前
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さて、ウチは非常に困っている。今現在、場所は第二アリーナ。日時は文化祭すなわち海原祭まで残すところ三日となったところである。もうお分かりだろう、文化祭一週間前の危機といえばどこの学校も変わらない。



「なんでこないに作業遅れてんねん・・・!!」




そう、そうなのだ。実行委員会の仕事も終わり、自分のクラスの作業も滞りなく進んでいるから、部活のほうに今日は行こうかと思い顔を出したらこの有様。まともなのはフリースローに使用するゴールが二つ、きちんとちびっ子用の小さいものも揃えられていることだけ。見ればルールの展示もないようだし、景品などの準備も出来ていない。ポスターも貼ってなければ、客寄せの看板などの準備もしていない。バスケ部は海原祭は男女混合で出店をするから50人近くいるのに、なにやってんねん。



ちなみにバスケ部はテニス部と違って、海原祭の前に三年は引退となる。早々に新部長に引継ぎ、新チームの一体感を高めるために、海原祭は1年、2年のみで準備するのが通例となっているのである。つまりは海原祭は新チームのキャプテンの最初の仕事。その器量が試されるといっても過言ではない。ちょくちょく見に行っていたつもりだったが、状況を全然把握出来てなかった。






「男子部長はなにしてんねん、ちゅうか誰や男子の部長。」





そう言って1年の男子に聞けば、おびえた顔をして柏田瞬だと答えた。そないにおびえた顔せんでもええやん。




ウチはとりあえず女子の副部長の宮野亜季の下へ向う。亜季は温厚そうに見えるが忍耐強く芯の強い子で、ぐいぐい引っ張るウチと丸くチームをまとめていく亜季で、なかなか良いコンビを組んでいる。ちなみに亜季のポジションはガード。頭の回転が速くて指示も正確、それと小技が上手い器用な選手だ。





「どないなってんの?コレ。」




正直自分にも非がある。実行委員にばかり走り回って、全然部活の出店には顔出してなかった。申し訳なく思いながら亜季に尋ねる。





「あ、陸。大丈夫なの、実行委員の仕事。開会式今年は盛大だから実行委員かなり大変って聞いたけど。」




そう言って疲れた様子だったが笑顔で答えてくれた。




「ほんま任しっきりで堪忍な。もう開会式の作業は終わったさかい。」




手のひらを合わせて拝むと、





「いやいや、ってか結構遅れてるんだけど大丈夫かな。」




といった。本題はそれだ。とりあえず今の進行状況教えて、っと言って教えてもらう。



「ルールは決まってるけど書き出してない、それから看板は男子が製作中、ポスターは女子が製作中。ボールは学校のを使用許可取った。景品に関してはまだ検討中、か・・・。」




まぁあと三日あれば終わる範囲だ。





「まぁ、どうにかなるやろ。」





「だね。ただちょっと問題があってさ」





そう言って眉をひそめるので、なんやどした、って言うとここじゃ言いづらいから、終わったら言うね、と言われた。それに一抹の不安を覚えながらも、わかったと言ってその場を離れて指示に向う。





「瞬ー、どこやアホー。」



「だれがアホだ、バカ。」



「なんやとお前、関西人に向ってバカってなんやコラ、いてまうぞ。」




柏田は看板製作をしていたらしい。手はマジックで汚れてるわ、ジャージにガムテがくっついてるわで、キャプテンの威厳はなかった。


柏田は190近い長身で、ポジションは主にセンター。今はどこか頼りなさげだが、コートの上では圧倒的な存在感を放ち、ゴール下に君臨する。一年からスタメンになるほどに技量も確かである上に、協調性もあることからキャプテンに選ばれたのは納得できる。しかしどちらかと言うと天才肌で頭で考えるよりも先に身体が動くからか、こう言うと悪いが少々頭の回転がニブい、気がする。いや、別に嫌味やないで、ほんま。




「自分、今の状況わかっとる?」



「わかっとる、わかっとる。」



かなり遅れてるってことだろ、と言うとニカっと笑う。この笑顔でチームはまとまるんやなぁと感心したのも束の間。人畜無害そうな襟首を掴み揺する。





「わかっとるじゃないわ、ドアホっ!主将ならちゃんと指示ださんかい!」



「え〜、だって女子怖いし。」





わかる、女子が怖いのは重々承知している。万年県大会どまりの男子と、全国大会上位常連の女子じゃあ肩身が狭いってのもわかる。





「自分がしっかりせな、そんなんじゃ全国いけるもんもいけへんでっ!」



それから10分ほどくどくどと説教をかます。とりあえず、説教と一緒にここ最近溜まっていたストレスをぶちまけた気がする。もともとキツイ口調がさらにキツくなる。ごめん柏田、八割がた八つ当たりやわ。





「ごめんな、陸。俺がいろいろしなくても大丈夫だと思ってたけど、お前実行委員だったもんな。松葉杖で頑張って動き回ってんのに、サボっててゴメン。」



黙ったウチに柏田が優しげな声をかける。柏田だって別にサボってたわけじゃないだろう。気を使ってくれる柏田の優しさに思わず涙が出そうになる。最近、自分はどこか不安定で、自分でも自分を頼りなく思うけど、そんな泣き言言ってられなくて、だから必死で頑張ることでそれを覆い隠して。そんな状況を柏田は感じていてくれたのかもしれない。別に特別仲が良いわけでもないけれど、彼は人の心を読むのに長けている。





「ごめん。言い過ぎたわ、八つ当たりしてしもた・・・」



そう言って俯くと、ウチの頭に手を乗せた。



「気にすんな。俺がしっかりしてないのは事実だし。陸は仕事あったんだし。それに膝のことでかなりストレスたまってるだろ、俺にあたってそれが少しでも減るんだったらあたっていいから。」



そう言ってニカっと笑う柏田は今まで見たことないくらい男前やった。



「あかん、瞬がめっちゃ男前なことに今初めて気づいた。惚れそう。」




と冗談めかして言って誤魔化せば、柏田も「ほんならあと10センチは伸びなあかんな〜。」とへったくそな関西弁で応じてきたので思わず吹いた。とりあえず話しをする前に第二アリーナの外に移動してよかったと思う。いつも彼は重みを減らしてくれる人だった。柏田と今日中にポスターと看板は終わらせると決めて別れた後、女子部員を見て、一人足りないことに気づく。




「真由美来てへんのか・・・」



「そうなんですよ、陸さん。」



そう言って後ろに立ったのは亜季。






「うわ、後ろからいきなり出てくんなや。」





「あら、なにかしらその言葉遣い。柏田君の前と随分違うじゃない。」





「って、見とったんかいっ!」





亜季の女王様スイッチが入ってるらしい。他の部員は遠巻きにしつつコチラを気にしながら各自ポスターを書いたり、賞品のミサンガを作ったりしている。おいおい誰か助けろよ。





「それより真由美はどないしたん?もう完全に辞めてもうたんか。」





「違うわよ、中途半端な状態だからみんな苛立ってるの。」





なんてこった。また一つ問題が増えたわけか。









20110718

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