気象庁に喧嘩売る
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あっつい。どこが9月や気象庁。暦変更したほうがええんとちゃうか。心の中でボロクソ言いつつ、やっと慣れ始めた松葉杖で目的地へと向う。野球部、は、ちゃうちゃう。それはさっき行ったからテニス部か。頭まで回らへんようになっとるわ。あ、誰や今、元からやろ、って言うたんは。後で体育館裏来いよ。
ウチは片手に松葉杖を持って資料の入ったショルダーバッグを下げて、テニス部がいるであろうアリーナへ向う。今ウチは、海原祭に参加する部活動(と言っても参加しない部は少ないんだけど)のところへ、予算の報告書を受け取りに行っている。なんでこんな面倒なことしてるかって言うと、理由は簡単、実行委員やから。祭りは好きやし、計画するんも好きやけど、仕事が多いのが面倒だ。これから行くテニス部に、生徒会の会計さんがおったはず、その先輩にまとめた報告書を渡すのが今やってる仕事っちゅうわけ。
それにしてもお祭り好きなうちの学校の校風もあるんやろうけど、なんやみんな浮き足立っとんなぁ。事故とか起こらんとええけど。ウチは松葉杖にプラスしてこの長身なもんだから、その浮き足立ってる中でも相当目立ってる。さっさとアリーナ行こう。
「あ、陸じゃねーか。」
今急ごうとしたとこやってんけど。声を掛けられたほうを見れば、男バスの先輩。男バスも女バスほどではないが県でベスト8に残るくらいは実績を上げている。ここらじゃ強豪だろう。まぁ、女子には遠く及ばんけどな。
「誰かと思えば、ダンクしようとして踏み台からジャンプしたはいいけど勢い余ってリングに顎を強打して全治2週間の重傷を負った秋野翔先輩やないですか、お疲れさんです。」
「いや前ふり長いからっ。しかもそれ言うなよっ。それと顎じゃねぇ鼻だっ!!」
なんともまぁ、律儀に突っ込みを返してくれるこの優しい先輩は、秋野翔さんと言って身長190を超える巨体なのだが、足も速く俊敏で、さらには跳躍力もあるというオールマイティなお方だ。立海男子バスケ部のキャプテンを務めていた。それもあって、横浜の強豪からスカウトを受けているらしい。個人的にはその横浜の強豪とやらに行って自分の実力を高めるのが最善だと思うのだが、キャプテン、エースとして引っ張ってきたこの立海をなかなか見捨てることが出来ないで居るのだろう、答えを出してないらしい。彼は優しいのだ。
「先輩らのクラスなにしはるんですー?」
「ああ、俺たちは「陸―っ!!!」
「ん?はい?」
声を上げたのは、バスケ部の先輩。ペンキを塗ってたハケを投げ捨てたかと思うとコチラに突進してくる。あかん、170超えの女の子が奇声をあげながら向ってきてるなんてホラー以外のなにもんでもない。ちゅうか放り投げたハケが隣にいた地味系男子の真っ白い体操服に当たってアートになってんねんけど、ええんか先輩。
「陸!!」
ウチの目の前まで来た先輩。
どうしたのかと思って先輩の言葉を待っていると、いきなり抱きつかれた。
「せ、先輩っ?どうされはったんですか。翔先輩にいじめられでもしましたか?」
先輩を挟んだ向こうから翔先輩が「おい!」と言ってたのは軽くスルーする。
「あいたかったぁぁああ。」
ええええええ、怖いでぇ先輩、とは言ってないけど。なんなんですか先輩。
「なんかあるんやったら聞きますけど。」
「いや、なんもない」
即答かよ。
「抱きつきたかった。」
それだけ、そう言って先輩はウチから離れる。
「うちのクラス、喫茶店とダーツだから、絶対来てね。」
そう言って先輩は笑って、ウチの松葉杖をちょっと見た。
「足大変だろうけど、がんばって。」
そう言って先輩はウチに背中を向ける。ちょっと笑顔が寂しそうだった、なんて。気のせいだったらいいのに。ウチは翔先輩に別れを告げると、さっさとアリーナへ向うことにした。抱きつきたかった、それだけやったんか、先輩。なんだか、先輩の眼はウチになにかを伝えようとしていた。でも先輩は、言ってくれへんかった。たぶん同じ部活の中でも、学年や立場が違えば、おのずとその間に壁ができてしまうのだと思う。前までそんなこと感じなかったのに、夏が終わってから、違和感を感じる。
「まだまだ、っちゅうことかいな。」
ウチはため息を一つ吐いて、歩くスピードを出来るだけ速くする。さっさと生徒会の先輩にまとめた報告書渡して帰ろう。
そうこうしているうちに、アリーナに着いた。ったく、うちの学校はただえさえ多いのに高校と中学が一緒にあるもんだからたまったもんじゃない。ウチはアリーナの引き戸を静かに開ける。「たのもー。」そう言ってアリーナを見回すと、3年と一部の2年の姿が見えない。そこに居た顔見知りに問うと、もう一つのほうじゃないかと言った。
「テニス部はアリーナでのストラックアウト・・・と海林館での甘味屋か。」
甘味屋て、爺くさっ。誰の趣味やろ、真田先輩とか柳先輩あたりだろうか、言うまでもなく似合う。丸井先輩はどちらかと言うと洋菓子のイメージやしなぁ。
「おい風早、」
「ん?なんや。」
先輩たちのとこ行くんだったらこれ持って行ってくれよ、そう言って差し出されたのは
「アンコ・・・?」
「おう、俺の家和菓子屋だからな、ちょっと試作品作るのに欲しいんだと。」
「へぇ・・・。お前は行かんでもええんか?」
「ん〜俺はこっちのほうが好きだしなぁ。それに文化祭とかのイベントで作るんだったら、3年の好きにさせといたほうがいいだろ。」
ほうほう。なかなかコイツは策士というか、処世術に長けているのかもしれない。ウチはショルダーバックにちゃんとタッパーに入れられたアンコを入れて、アリーナを後にした。しっかしなんや、アンコ持っていくって。
20110627
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