次代を継ぐもの達
::







「気持ちはわかるわ。せやけど、ここでええんか?7年間の終わりがここでええんか?」




どうやら俺は非常に緊迫した場面に遭遇しているらしい。



角の向こうにいるのは、我らがテニス部の顧問である荒川監督の姪にあたり、男子テニス部と並んで立海でも有名な女子バスケットボール部の2年エースであり次期部長の風早陸だ。どうやら、辞めたい部員の説得にあたってるようだ。


二言三言話した後、説得されていたほうのバスケ部員は堪え切れなくなったのか、風早に背中を向けて走り出す。俺には目もくれないで走り去っていった。風早は、走り去ったほうを見ながらなにやら難しい顔をしていた。そのまま彼女のほうを見ていると俺に気づいたらしい。




「部長は大変だな。」



会釈をされたので、そう返す。彼女の身長は俺よりか少し小さいくらいで、目線はあまり変わらない。クラスにもバスケ部の女子がいたが、彼女は細身な体型もあってさらに背が高く見える。




「いやいや、天下のテニス部さんよか楽ですわ。切原部長はうまくやってますか?」



そういえば彼女は、赤也と一年の時に同級だったな。そう頭の中で思い返す。大阪の地域性がそうさせたのか、彼女は誰とでも気兼ねなく話すことが出来る。以前、そう彼女を褒めると、内心はめっちゃ緊張してるんですよ、と、はにかみながら返されたが、信じられない。それに加えバスケで有名なこともあり、俺のデータには彼女の情報もたくさんある。




「そうだな、全く問題が無いというわけではないが、あいつなりに一生懸命やっているようだ。」


後輩のくせっ毛の酷い頭を思い出す。朝、登校途中に見たテニスコートでは副部長となった部員にからかわれながらも、人一倍声を張り上げていた。なんで俺は、そこにいないんだ。なんで、こんな盗み見るような真似をしている?あの後輩たちと、一緒に優勝できなかった罪悪感か、後悔か。どうも俺の胸には、小さな棘のようなものが、あの日から刺さったままになってる。


まだ、俺もあのコートに居たかった。


知らず、そう口から出ていた。風早はきょとんとした顏で俺を見た。俺は、忘れてくれと呟いて風早に背を向けようとした。



「先輩らは、コートにいます」


振り替えると、視線がかち合う。にっ、と効果音が付きそうな笑みで風早は言った。


「先輩らが積み上げてきたものとか、先輩らが流した汗とか涙とか、全部コートにあります」


風早はくさいこといいますけど、と照れたように前置きして続けた。


「先輩らの声とかずっと残ってますもん。コート去ったって、先輩らの存在が大きかっただけに、その存在感は消えるに消えてくれません。たぶん、切原もウチとおんなじように思って、ウチとおんなじように焦ってるんやと思います。せやけど、」


目指すべきものは、わかってます。


彼女は混じりけの無い澄んだ目をしていた。前を、確かに見据えた目だった。俺たちも、そんな目をしていたんだろうな。いや、今も、それに変わりはない。


「そうだな。もう残すべきものを、残せた、そう思ってもいいのかもしれない。」


風早は、足は大丈夫なのか?



彼女は困った表情を浮かべた。ギプスで固定されている足と抱えている松葉杖からはとてもバスケが出来る状態には見えない。それどころか、日常生活にも負担がかかるだろう。


「正直言うと、調子はあんま良くないです。たまにぶつけたりすると涙出るくらい痛いです。」


でも、と風早は得意げな表情を浮かべて言う。



「ウチが立海のキャプテンですから。来年は旗取っててきますよ。」



俺は、そんな彼女を見て種目こそ違うが、うらやましいと感じた。俺たちが敗したあの舞台にまたいける。俺たちは過ぎ去りし過去となり、新たな歴史が創造される。それがたまらなく悔しく感じるが、刻々と過ぎる時間に抗うことは出来ない。どうしたって俺たちは前を向かざるをえない。もう、そこに俺たちのいる場所など用意されてはいないのだ。俺は風早の話を聞きながら、新たな立海大附属の歴史が始まると感じていた。





20110410


prev / next
[ back to top ]
top
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -