修学旅行告白計画
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「いいのか」
「あー、はい。良いも悪いもそれしか選択肢ないようなもんですし」

そう言うと担任は残念だな、と言った。はぁ、と言い残して私はその場を去る。残念、か。じゃあ私が行きたいと言えば、アンタは30万もの大金を肩代わりしてくれたのか。そんな気も無い癖に、気安く良い教師ぶるんじゃないよ。イライラしてきて、知らず指先を口元に持ってきていた。爪を噛むのは、イライラしてるときの私の癖らしい。

* * *

秋、ついに修学旅行まで一ヶ月をきった。クラスの雰囲気は明らかに修学旅行へと向かっている。どこそこのブランドのバックで行くだの、何十万小遣いを持っていくだの、周りの女子は明らかに浮わついていて、ウザい。この金持ち集団め。

他校の友達に聞いたら、修学旅行なんて7、8万あれば済むし、小遣いも1万持っていけばいいのだそうだ。行き先は大概が大阪か京都。…ウチの学校もそれでいいじゃないか。なんでフランスに1週間も行かなくちゃいけないのだか。一応補助金みたいなのはあるらしいけど、それでも金はかかる。この学校にいる大多数と違って、私の家は平々凡々な、もしくはそれ以下の一般家庭なのだ。10万越えるとか、かなり痛い出費なわけ。

フランスに行ったところで私のスペックが上がるわけでもないし、そもそも第二外国語にドイツ語を取った私はフランス語とか喋れない。いや、ドイツ語も喋れないけど。

とどのつまり、修学旅行に行くメリットがない。というよりも、生じるデメリットの比重が大きい。そんなわけで、私は中学時代の思い出となろう修学旅行を蹴った。

* * *

「なぁなぁ」
「…」
「自分に話かけてんねんけど」

苗字を呼ばれ、もう無視できないと机に突っ伏していた頭をもたげる。目の前のイケメンは不釣り合いなほどに爽やかな笑顔を見せた。

「なに?忍足くん、」
「うん」

図書館には私と忍足、それから同じように修学旅行を蹴った数人が自習していた。いまクラスでは、修学旅行の班決めが行われてる。そのなかに不参加者がいたらお互いに気まずいだろうってことで、私たちは図書館に追いやられてるわけ。

「これ、修学旅行期間中の課題やて」
「…他の人は遊ぶのに」
「ほんま、その通りやで」

忍足は唇を尖らせた。彼は学内で有名なテニス部に所属していて、これまた有名な跡部の親友で、おまけに親は有名な大学病院の医師だという。つまり、なんら修学旅行を断る理由が無かったはずなんだけど。むしろ、テニス部の人たちに咎められたんじゃないのか。まぁ、そんなのどうでもいい。だって私は忍足とはなんら関係ないし。

端に座った忍足の横顔を盗み見れば、彼はその整った顔をこっくりこっくりさせていた。イケメンはそんな姿も絵になるなぁと、普通に感心した。

* * *

「行っちゃったねー」
「うん」

見送りも済んだ修学旅行初日。サボり組(失礼)の私たちは普通に登校して自習期間。だって日数は稼がなくちゃいけないからね。まぁ、たかだか午前中だけの自習だし、課題も終わらせれるし。4時間というのはあっという間で、初日はなんら問題もなく終わった。

「あ、いかん。傘忘れた」
「まじでー?」
「うん、明日降るだろうし、取ってくるわ」

先行っといて良いよー、と言って、教室に戻った。朝から降った雨はやんでいたが、明日の朝も降るのだというから、持って帰らなくてはならない。わざわざ三階まで登るのがキツい、なんてオバサンのセリフだろうか。無駄にデカいウチの学校が悪いのだ。端から端まで行くのも辛い。

「あー、タルい」

お目当ての青い傘はポツンと傘立てにあった。スマンね、独りにさせて。

「あれ?忍足くん、?」

去ろうとした教室の中に、でかい影があるな、と思ったらそれはオールウェイズハイパーイケメンタイムの忍足くんだった。

「寝てるのかな」

教室に入って、近づけば彼は机に頬杖をついて寝ていた。突っ伏さない辺りが金持ちなのかもしれない。起こすべきか。いや、ここで起こしたところでなんの話題も用もないし。さっさと帰ろう。

「…あれ、ミョウジさん?」

なんで起きるんだ、忍足。

「あ、ゴメン。気持ち良さそうに寝てたから、起こしちゃ悪いと思ったんだけど」

忍足はどこか蕩けたような目をして微笑んだ。うっわ。反則、反則。なにが反則って全部反則。

「ちょっと話せぇへん?」

断る余裕なんてなく、私は曖昧に頷いて彼の前の席に座った。


俺の趣味知っとる?ファンクラブかなんかに聞かれたんやけど、小説読むの好きやねん。それも恋愛小説な。有川?あかん、あれは所詮そのレベルやもん。もっとどろどろしたのが好きやねん。そんで、恋愛に付き物なんが修学旅行イベントやろ。めっちゃドキドキするやん。バスのなかでこっそり手繋いだり、夜中抜け出して会ったり。そないなんしてみたいやろ。せやけど、俺の好きな子は、行かんっちゅうんや。俺が楽しみにしてたことみんなパーやで。

「やから、旅行行かんかってん。」

「…へぇ」

ということは、残ってる女子のなかに忍足の好きな子がいるのか。うーん。なんでその話を私にするのか。協力しろ、ということか?

「俺こう見えても、家は医者やねん。医者っちゅーても大学病院に勤めとるしがない勤務医やねんけど、大学で講義なんかもしとるし、そこそこ稼いでるんや。俺、顏は悪うないし、成績もそれなりに取ってるし、おまけにテニスもヴァイオリンもできる。かなりの優良物件やと思わん?」

「…だねー。」

あ、忍足ってナルシストなんだ。跡部に影響されたのかな。ドンマイ。

「せやったら、俺の彼女になってや、ミョウジさん」

「だねー、…あれ?」

忍足はニヤッと笑った。

「せっかく俺が考えよった修学旅行で告る計画もぶち壊しやし。こんくらい許されてええと思わん?」

忍足の綺麗な顏が近づいてくる。

ええー、そんなんアリ?
しかしこいつ、睫毛長いわ。




20120422 */秤
季節外れ万歳。

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