恋愛半透膜
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「例えば俺が水だったとしてさー、頑張れば彼女のとこいけたかなぁ」

え、なにそれ軽くひくんだけど。バリバリ。いや、マジで例えばの話だから。幸村くんは嘲るように笑った。バリバリ。

「半透膜ってあるじゃんか、」
「あー、あれだろぃ。細胞壁とか膜とかのやつ」
「馬鹿、細胞壁は全透膜だっつの」

そうだっけ。そうだよ馬鹿、俺にもポテチ寄越せ。グシャグシャ。音をたてて潰れていく赤いパッケージ。結局半分以上幸村くんに盗られてしまった。幸村くんの意外に大きい手のひらには、山のようにポテチが積み上がっている。可哀想な俺はシリアルのようなカスしか食べれない。シャリシャリだ。金寄越せと言えば頭を叩かれる。おーぼーだー。しつこく叫べば後でジュースを奢ってくれる約束を取り付けた。よっしゃラッキー。

「話戻すとさー、俺に対して彼女は半透膜だったの」
「は?」
「ったくお前は頭が堅いなー。だから簡単に試合にも負けるんだよ馬鹿」

幸村くんはすごく不機嫌だったけど、どこか疲れていて、神の子も失恋したら傷つくんだなー、とか馬鹿なことを思った。

「友情としての好意は通すけど、恋愛としてのは絶対通さない、みたいな?なんかズルくない?」
「あーね」

幸村くんが想いを寄せていた彼女は俺も知っている。やつならそんな返事をしそうだと思った。理科で習った半透膜とやらはよくできていて、生物もようやるなー、と思ったのを覚えてる。

「そんなふうに言われたらさ、諦めるしかないじゃん」
「そーなの?」

うん、と呟く幸村くんの口の端にポテチのカスがついてて思わず吹いた。幸村くんはそんなことなんか気にも止めなかったようで、遠くを見ながら語る。

「ようはあっちは俺を友達としか見れないんだろ」
「そうことだな」
「俺カッコ悪いの嫌いじゃん」
「あー」

結局幸村くんは告白を断られた時点で彼女へ抱いていた好意が風船みたいに萎んでったんだ。こう見えて幸村くんは結構ドライ。断られても再度アタックするなんてカッコ悪いことも嫌い。うん、知ってる。

「好きだったけどさー、」
「うん」
「なんか萎えた」

一方的に好意を抱くのは嫌いなんだ。女の子を振り回して振り回して、それでも好きって言ってもらいたいタイプ。簡単に言えば自己チュー。幸村くんはそういう人。うん、知ってる。幸村くん風に言うなら幸村くんは全透膜。基本的に誰の好意も通すし、基本的に誰にでも優しい。

「幸村くんに合う人ってそうそういないんじゃない?」
「やっぱり?」
「うん」

ドライで自己チューで、それでいて他は文句の付け所がないもんだから女の子のほうが引いてしまう。今回告白を断った半透膜のあいつはなかなか賢い。

「もう俺染色液になろうかな、」
「え、」
「俺色に染めてやるぜ的な」
「アホだろぃ」



恋愛半透膜



20111018
「理系愛。」様に提出
*/秤

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