いつだって気まぐれな幸村
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※死ネタ注意



例えば私が、一緒に、といったら彼は共に私も連れていってくれたでしょうか。彼が決して帰らぬ人となったことで、その問いは問いのまま、永久に回答など現れぬと思い至りました。私は彼の座っていた彼の席に座っています。多分、幾人の女の子達がしたことだと思います。だって彼は異性からの人気が非常に高かったのです。彼の容姿、性格を持ってすれば簡単なことなのでしょうが。私は彼の席で、彼の見ていた風景を見ようと思いました。私は、この席に座った多くの女の子達と同じように、彼の何だったというわけではありません。ほんの数回たわいもないことを話したことがある程度の、同級生です。

「君は死んだんですか」

誰ともなく呟く言葉は、声に出したことでどこか現実味を帯びてしまいました。彼の席に座っていると、そこは私の席で本当に彼の席が無くなってしまったように、彼を示すものがなくなった気がして、私は柄にもなく寂しいと感じてしまいます。

「ねぇ、幸村」

私は窓際に佇む彼に向かって話しかけました。この席の主である幸村は、私からは生憎と表情は見えませんが、どこか楽しそうな雰囲気で窓からテニスコートを見ているようです。彼はその場所がいたくお気に入りのようで、四六時中そこにいるのかのようにも思えます。詳しくは私も存じ上げないのですが、テニス部の主将を努めていたという彼は、全国大会を目の前にしてその14年の短すぎる生涯を終えました。神の子、とテニスをする彼は言われていたようです。神は我が子が愛しくて堪らなくなって、人よりも早く自分の手元に呼び戻したのだと、彼の訃報を聞いたとき、私は思いました。涙は出ませんでした。確かにクラスメイトが亡くなって、悲しく思いましたし、気の毒にも思いましたが、彼の死をさほど関わりのない私ごときが悼んでもよいのか、と感じているからです。泣いてしまっては、我慢していたであろう、帽子を被った副部長さんを筆頭としたテニス部の方々に怒られてしまいそうな気がしたからです。

いま、幸村くんが声を出して笑いました。テニスコートでなにか面白いことでもあったのでしょうか。ここからテニスコートまでは随分と距離があるのですが、さすがは神の子と言ったところでしょうか。

私が彼を見ていたことに気づかれたのか、彼は振り向くと私に向かってなにか言ったようでした。しかし、聞こえません。彼は困ったように眉を八の字にしました。

「君はもう亡くなったのでしょう?」

私は彼にそう言うと、彼は生前と変わらない小さい微笑みを見せました。生前も儚げ、という言葉で彼の美貌を称える人がいましたがいまのそれは、似合いすぎるほどに似合ってしまい、こちらが居たたまれなくなるほどです。彼は私に向かって、口を大きく動かしました。


"な"

"か"

"な"

"い"

"て"


あれ、いつの間に流れていたのでしょう。頬は濡れていました、おそらく涙で。幸村を見やると、彼はすでにいなくなっていました。気分屋の彼のことですから、明日にはテニスコートにいるかもしれません。



vol.2
-同級生の幸村と-




20110727

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