謙也弟01
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ついにきてしもうた。この季節。
春、俺の髪をなでていく風は微かに桜を香らせている。


「忍足、達也」



はい。



そう言って立ち上がる。
ああ、憂鬱な青春のはじまりだ。






***謙也くんの弟***






「忍足達也。道頓堀第二小出身です、よろしく。」




そう言って座る。まばらに空気を揺らす拍手の音はキライじゃないが、HRのノリが小学校とは全然違うことに驚いている。空気を読まない担任が、目を輝かせて俺に聞いた。




「忍足って、あの忍足謙也の弟か?」



「・・・はい、」

そうや、どっかで見たことあると思ったんや、この禿頭。そういや家庭訪問かなんかで結構前にウチに来た覚えがある。



「ほんまかぁ!あいつの1年のとき担任やったけど面白いやっちゃなー。あんま似てへんけど、期待しとるでー」



まただ。また兄ちゃんの話題。
この学校に入るからには、覚悟してたけど、聞くたびに苛立ってしょうがない。

別に兄ちゃんのことは嫌いやないし、むしろ慕ってるほうやと思うけど、こうも出来がよすぎると困る。どうせ、将来医者になる頭のよくて明るい長男と、生意気でひねくれた次男って世間様からは見られてるんや。




「達也〜っ」



HRが終わると、兄ちゃんが廊下から俺を呼んだ。俺の席は窓側だったから、否応なしにその声は教室に響く。なんでそないでっかい声で呼ぶねん、ど阿呆。お前も空気が読めんのか。



「兄ちゃん、」


「え〜謙也くんの弟に見えない〜。頭良さそう〜」


「やろ〜。ちゅうか今さらっと嫌み言うたな」



派手目の三年を何人か引き連れて来ていて、一年はちょっとビビってる。だって兄ちゃんも頭パツキンやしな。一緒に来た女とかもケバいし。兄ちゃんのパツキンは去年の暮れにいきなり染めたからビックリした。てか、兄ちゃんそんなケバいのが好きなんか、趣味悪いな。



「なんで来たんや、兄ちゃん」


「可愛い弟のクラスとか見ときたいやんかぁ」


にへら、と笑う兄ちゃんは人好きのする顔で、やっぱり俺とは似ても似つかないなと思った。



「達也。入学おめでとう、」


「ありがとうございます、白石先輩」


顔を出したのは兄ちゃんと同じテニス部で、部長の白石先輩。何度も家に遊びに来てるので仲はいい。



「部活はサッカー入るんやったっけ?」


「はい」


「テニス部勧誘する気やってんけどな〜、決めとるんならしゃあないか。頑張りぃや。」


「はい、頑張ります」



頭を撫でられた。振り払うのもなんなので、好きにさせる。兄ちゃんは俺のクラスに入っていって、まだいたらしい担任と談笑している。


「にしても、そっくりやな」

「はい?」

「いや、なんでもないで。俺も一年のころ思い出してなぁ」


なにやら廊下が騒がしい。


「蔵リン、謙也クンの弟クンは〜?」

「ああこの子や、」

そう言って白石先輩は俺の肩を掴んで身体を回した。白石先輩が俺の後ろにいる。ほんのり甘い香りがした。べ、別に、どきっとかしてへんでっ。いい匂いやなぁって思っただけやでっ。


「あら〜、か・わ・い・い★」

「ひっ」


振り向いた先にはやたら身体をクネクネさせてる坊主の先輩。俺は思わず後ろにいた白石先輩のシャツを掴んだ。その先輩も多分テニス部だろう。テニス部は変な人しかいないらしい。


「あ〜ん、怯えちゃって可愛い〜。謙也クンには無い理知的なのがまた庇護欲を駆り立たせるわぁ、」


近づいてくる坊主の先輩。と思ったら、前からすごい足音が聞こえた。


「こぉはるぅぅうう〜っ、浮気か死なすどっ!!」

「いやぁん、ユウくん、ウチのためにここまで来てくれたん?小春、う・れ・し・い★」

「こぉはるぅぅうう〜っ」


「な、なんなんや、」

「ごめんなぁ、うちの部やねん」


白石先輩が小さく笑う。先輩のシャツをまだ掴んだままだったので、慌てて離した。


「す、すいませんっ」

「ん?気にせんでええよ。達也いい匂いやし」


いい匂いなんはアンタや、と言おうとしたら後ろから抱き締められる。


「白石、お前は女の子じゃ飽き足らず俺の弟まで…」

「え〜、べつそっちの趣味はないで。まぁ達也なら考えてもええけど」

「やらんっ、お前なんかに可愛い弟はやらんでっ」


俺の意思を優先してくれ、白石先輩。
それから教壇でホモ漫才しとるあの二人も止めてくれ。



入学初日は
いい加減にしてください



20110811


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