もう夏休みも最終日。二学期に向けての予習を部屋でしていると、遮るようにノックの音が鳴った。


「因果」

「んー?」


手を止めてカルマに応えると、扉が開いた。そこにはカルマと、向かいの部屋の窓の外に何故かプラカードを持った殺せんせーが居た。


「殺せんせー?」

「今日皆で夏祭りに行かないかってさ」

「因果さんも一緒に夏休み最後を楽しみましょう!」

「んー…カルマはぁ?」

「暇だし行くって言ったけど」

「じゃー行くー」


殺せんせーは嬉しそうに「待ってますね」と言って、マッハで去って行った。夏祭りなら浴衣出さなきゃ。下駄も大丈夫か見ておかないと。


「浴衣着てくけどカルマはぁ?」

「いーよ面倒臭い。向かいの婆ちゃんに着付け頼むなら早く言いに行きなよ」

「分かってるー」


向かいに住んでいるお婆ちゃんは昔からよく浴衣の着付けをしてくれる。息子は結婚して家を出ていき、今は夫婦二人で暮らしていて少し寂しいらしい。だから私とカルマを孫のように可愛がってくれるお爺ちゃんとお婆ちゃんが大好きだ。

七時に駅集合なら早く頼みに行かないと。……烏間先生、今日も仕事かな。



***



「……はい、出来ましたよ。因果ちゃんは何着ても可愛いねぇ」

「ありがとー、お婆ちゃん」


あのあと、お婆ちゃん家で着付けてもらった。髪も結い上げてもらって、綺麗に着飾った。タイミング良く玄関先からカルマが私を呼ぶ。


「お待たせぇ。どーお?」

「まあ、良いんじゃない?」

「えぇ、ひどい」

「二人とも気を付けて行ってくるんだよ。ああそうだ、少しだけどお小遣いあげようね」

「わー、ありがとー」

「婆ちゃんありがとう。…因果、行くよ」

「んー、行ってきまーす」


カルマに手を引かれ、目指すは集合場所の椚ヶ丘駅。お婆ちゃんから貰ったお小遣いで二人に何かおみやげでも買って帰ろう。大判焼きとかあんず飴なら喜んでくれるかな。

駅には結構皆集まっていた。やっぱり女の子は浴衣が多い。…あ、凛香の浴衣可愛いな。来年はあんな感じのやつ買おう。


「因果可愛い!」

「ありがと、陽菜乃も可愛いよぉ。…メグは浴衣着ないのー?」

「ん?…私はあんまり似合わないから。それに動きにくいし」

「えぇー、綺麗に着こなせると思うけどなぁ」


そのまま浴衣談義をしながら夏祭りが行われている神社に行き、思い思い出店を見て回る。カルマは糸くじでゲーム機を狙いに行った。勿論ただくじを引く訳じゃ無いけど。私は射的がしたかったけど既に凛香と千葉がほとんどの賞品を撃ち落としていて出来なかった。


「因果、戦利品」

「儲(もー)かったねぇ。ソフトはぁ?」

「気になってたのあるし、帰りに買ってく。…あと、ハイ」


糸くじのおっさんを揺すって手に入れたゲーム機を持つカルマから手渡されたのはぬいぐるみ。見た目通り柔らかくて手触りが良い。


「ん、ありがと」

「金魚すくいでもする?」

「んー…いーや。それよりかき氷(ごーり)食べたい。あと焼きそばとー…わたあめ!」

「太るよ」

「今日(きょー)はいーの」

「はいはい。…で、あいつ屋台始めてるけど?」


カルマが指差した先では殺せんせーが分身を使っていくつもの屋台を営業していた。皆が荒稼ぎした所為で早仕舞いした場所を使っているようだ。まあ殺せんせーは月末になると金欠だし、しょうがないからカンパのつもりで買ってあげよう。


「イチゴ練乳とブルーハワイ練乳くーださい」

「ねえせんせー、あと焼きそばと綿飴買うから練乳かけ放題にしてくんない?」

「仕方ないですねぇ、特別ですよ」

「やったぁ」


二つ分の金額を払ってかき氷を受け取る。遠慮無くイチゴ氷に練乳をかけていると、カルマが少し離れた所で殺せんせーの出店を見ていた渚君を呼んだ。


「渚くーん!ここ練乳いくら使ってもタダだってよー」

「にゅや!?止めてくださいカルマ君!練乳は高いんですよ!」


慌てる殺せんせーを横目にカルマも練乳をたっぷりとかける。それを見て渚君とカエデは苦笑していて。更にカルマが殺せんせーに仕掛けようとした時、花火が打ち上がった。夜空に綺麗な花が咲く。急いで焼きそばと綿飴も買って、カルマと二人で神社の階段に腰掛ける。


「綺麗(きれー)だねぇ」

「これが最後の花火にならなきゃいいけど」

「…二学期も頑張らなきゃなぁ」


来年もまたこうやって夏祭りに来たいな。今度は……烏間先生と来てみたい。


[15/03/27]






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