南の島から帰って来てからは、特に何もない平和な夏休みを送っている。課題はとうに終えているので二学期の予習に励み、息抜きにカルマとゲームをし、クラスの女の子達と街に繰り出す。そんな代わり映えのしない毎日を過ごす中、頭の隅で烏間先生のことを考えてしまう自分がいた。

多分私は烏間先生が好きだ。けれどそれが本当に恋愛感情なのか、単に私を理解してくれている大人への憧れなのかは分からない。だって、恋なんてしたことないから。


「……はぁ、」

「今日起きてから七回目の溜め息ですね」

「一々数えてたのー?」


スマホの画面に突如現れた律は、私の溜め息をわざわざ数えていたらしい。これ以上勉強しても大して集中出来そうにないから、持っていたシャーペンを置いてノートを閉じ、そのままスマホ片手にベッドへダイブした。


「現在の状態を総合的に考えると、因果さんは「恋」をしているのだと思われます」

「…やっぱりぃ?」

「はい、お相手はやはり烏間先生でしょうか」

「…んー…」


やはり、ってことは結構分かりやすいのか…。周りにバレてたら嫌だな……イリーナのこともあるし。


「そういえば、今日は烏間先生のお誕生日ですね」

「今日っ……!?」


思わず飛び起きる。選りに選って今日が誕生日なんて。前もって知ってたらプレゼント用意したのに。


「…何かした方が良いかなぁ」

「好意があるのであれば、やはりプレゼントはした方が良いかと。余程奇抜な物でなければ喜んでもらえると思います」

「じゃー、律は何が良いと思うー?」

「そうですね……。一般的には財布やネクタイが多いようですが、ここは因果さんの手料理というのはどうでしょう」


「手料理」というキーワードで律はフリルが沢山ついたピンクのエプロン姿へと変わった。お玉を片手に定番メニューのレシピを画面上に次々と表示していく。


「…手料理かぁ……」

「たとえ失敗したとしても、気持ちがこもっていれば喜んでもらえると思います」

「……ん、そーだよね」


多分財布やネクタイなんかじゃ気が引けるだろうし、第一受け取ってもらえないかもしれない。それなら烏間先生の健康を考えてバランスの良い食事の方が喜んでもらえそうだ。


「律、園川さんに連絡してー!」

「はいっ!」


思い立ったら即行動だ。



***



「烏間さんは会議で帰りは遅くなると思いますが、」

「その時は鍵閉めて帰るんでぇ」


一度来たことのある烏間先生の住むマンション。私の手には膨らんだスーパーの袋。そして目の前にはどこか心配そうな表情を浮かべた園川さんがいる。


「何度も言うようですが、私は貴女を信頼しているから合鍵を用意したのであって…」

「大丈夫(だいじょーぶ)ですよ。こんな私を信頼してくれてありがと、園川さん」


そう言って笑えば、園川さんは諦めたように笑った。

思った通りE組に出入りしている防衛省の人達は全員同じマンションのようで、何とか園川さんを通して烏間先生宅の合鍵を入手。先生は朝から晩まで会議続きで、今日も忙しいらしい。21時を過ぎて先生が戻らなかったら、置き手紙でも書いて大人しく帰るつもりだ。

扉の前で一度深呼吸をしてから鍵を開け、脚を踏み入れる。


「…お邪魔しまーす」


特に意味は無いが、なるべく音を立てないようにして上がり込む。先生を意識するようになってしまった所為か、前に来た時よりも緊張している自分に気付いた。

一度大して物が入っていない冷蔵庫に買ってきた食材とケーキを詰め込む。それから調理スペースの片隅に律をダウンロードしたタブレット端末を立て掛ける。使用した形跡が殆ど無い調理道具が乱雑に仕舞ってあった為、勝手ではあるがそれらを使わせてもらう。持って来たエプロンを身に付けて、気合いを入れる。


「…よしっ……!」


少しでも、喜んでもらえると良いな。


[15/01/19]






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