《not因果》

時間を少し遡り、因果が部屋でデザートイーグルの手入れをしていた頃。生徒達は夕食後ロビーに集まっていた。諦めずに今後もイリーナの恋が上手くいくように力を貸そうと話は盛り上がる。


「そういえば、ずっと因果を見てない気がするけど」

「そーいやそうだな。さっきの作戦会議の時にはもう居なかったし」

「因果なら部屋にいると思うよ。夕食の時は一回下りてきたけど、殆ど食べないで戻っちゃった」


ふと湧き出た疑問に、因果と会話したカエデが答えた。彼女が肝だめしにも参加していなかった事を思い出し、いつもと様子が違うのを心配する声が上がった。

単に調子が悪いだけなのだろうか。しかし因果もスモッグから渡された栄養剤を飲んでいる。もっと別の理由があるのでは、と全員で考え込む。


「あ、」


ぽつりと発した前原に視線が集まる。


「思ったんだけど、因果が俺等から距離を置き始めたのって、丁度ビッチ先生の片想いが発覚した辺りじゃね?」

「確かに…で?」

「つまり、実は因果も烏間先生が好きで、ビッチ先生をくっつけようとする空気に堪えられなかった、とか」


一瞬の静寂、そして笑いが起きた。大胆な予想に、誰もが「いくらなんでもそれは無い」と続けようとしたのだが。よくよく思い起こしてみると、生徒の中で一番烏間と距離が近いのは因果で、烏間が一番手を掛けているのも彼女だ。前原の仮説は十分に考えられる。


「そう言えば…以前保健室で烏間先生が因果さんを押し倒していましたねぇ。後で事故だと分かりましたが」

「修学旅行の時、烏間先生が眠った因果をお姫様抱っこで運んでたよね」

「球技大会の際は、烏間先生が因果さん個人に応援メールを送っています」


律まで参加し、結構出てくる因果と烏間のエピソードで盛り上がる。


「二人は付き合ってたりして!」

「いや、堅物の烏間先生が生徒と付き合うなんてことしないだろ」


矢田の予想を木村が否定した。確かにあの烏間が生徒と付き合うとは思えない。色々考えてはみるが、真実を知るには一番手っ取り早い方法がある。


「で、実際の所どうなんだ?カルマ」


千葉の問い掛けに、今まで黙っていたカルマが口を開いた。


「付き合ってないよ。まあ、俺からしたらどーでもいいけどね」

「やっぱ妹の恋は興味無し?」

「というより相手に興味無い。俺は、因果が幸せならそれでいいから」


無闇に首を突っ込むことなく、一定の距離を保って妹の幸せを願うカルマの言葉に、彼も兄なんだと改めて思い知った一同だった。


「けど、この前因果が家出した時は烏間先生ん家に一泊したみたいだから。お互い無関心って訳じゃ無いと思うよ」

「え!そうだったの?」


家出した因果を一緒に探した渚も初めて聞く事実に開いた口が塞がらない。勿論、家出事件を初めて聞いたこの場の全員もだ。


「それじゃあ烏間先生も因果のことが好きで両片想いとか」

「烏間先生鈍感だし、因果も鈍いとこあるから無自覚両片想いかもね」


岡野と中村の言葉に同意の声が上がる。しかしどれだけ盛り上がっても気にかかるのはイリーナだ。


「…ビッチ先生、少し可哀想だよな」

「でも仮に想い合ってる二人を引き剥がしてまでビッチ先生とくっつける方が可哀想だよ」


微妙な三角関係に、良い方法がないかと考える。しかし忘れてはならないのは、因果の恋心はまだ仮定段階ということだ。


「…あれ、皆でなにしてんのー?」


のんびりと間延びした声は紛れもなく因果で。突然の本人登場に思わず挙動不審になってしまう。


「さ、さっきの作戦の反省会をしてたんだ」

「ふーん…反省会ねぇ」


代表して磯貝が彼女の疑問に答えた。因果はその答えをさして疑っていないようだ。


「殺せんせー、ちょっと外の空気吸ってくるねぇ」

「!…分かりました。何かあったらすぐに連絡してください」

「んー、三十分位近くを歩ってくるからー」


ふらりとひとりで外に出て行った因果を見送り、その姿が見えなくなった所で一息吐いた。


「…ヌルフフフ、良いことを思い付きました。因果さんと烏間先生の、お互いへの想いを確かめる方法を」


殺せんせーは携帯を持ってニヤニヤとゲスい笑みを浮かべた。


「あ!それ因果の携帯!」


矢田が気が付いた通り、殺せんせーが持っている携帯は因果の物で。どうやら先程の一瞬で彼女のポケットから抜き取ったらしい。


「悪用はしません、連絡手段を断っただけです」

「なんだかよく分かんねーけど、脈がありそうなら俺等で背中を押してやろーぜ!」

「「おう!」」


[14/11/05]






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