殆どのペアが洞窟に入った辺りで、出口に先回りする。何組かはもう既に出てきていた。中から悲鳴が聞こえてくる、多分殺せんせーだ。皆から話を聞くと、肝だめしとは言えない内容ばかりだったようで。…殺せんせーの魂胆が読めた気がする。 「要するに…怖がらせて吊り橋効果でカップル成立を狙ってたと」 ああ、やっぱり。皆から責められた殺せんせーは遂に泣き出した。 「だ、だって見たかったんだもん!!手ェつないで照れる2人とか見てニヤニヤしたいじゃないですか!!」 ゲスい大人の見本のようだ。その様にみんな呆れている。 「殺せんせー、そーいうのはそっとしときなよ。うちら位だと色恋沙汰とかつっつかれるの嫌がる子多いよ」 莉桜に宥(なだ)められ、泣く泣くカップル成立を諦めた殺せんせー。その時、イリーナの声が響いた。 「だからくっつくだけ無駄だと言ったろ。徹夜明けにはいいお荷物だ」 「何よ男でしょ!!美女がいたら優しくエスコートしなさいよ!!」 烏間先生の腕にしがみつくイリーナ。やっと落ち着いてきたのに、また息が詰まった。 「…なぁ、うすうす思ってたけどビッチ先生って…」 「…うん」 「……どうする、明日の朝帰るまで時間はあるし…」 皆はゲスい顔をして、イリーナと烏間先生をくっつけることになった。どうしてだろう、息が出来ない。 *** 「意外だよな〜。あんだけ男を自由自在に操れんのに」 「自分の恋愛にはてんで奥手なのね」 ホテルのロビーに全員集合。イリーナは本当に烏間先生のことが好きなようだ。 「俺等に任せろって。2人のためにセッティングしてやンぜ!!」 作戦決行は夕食の時間だと、皆は盛り上がって作戦会議を始めた。この場にいるのが嫌になってきた。堪えられない。 「因果ちゃん、どちらに?」 「…んー、部屋に戻るよ。時間になったら下りてくるからぁ」 不思議そうにする愛美にそう伝えて、ひとり部屋に戻る。結んでいた髪を解いて、ベッドにダイブした。静かな部屋に、コントロール出来ない気持ちも少しずつ落ち着いていく。 携帯のアラームをセットして、夕食の時間まで一眠りしよう。そしたら多分、この訳の分からない煩(わずら)わしい感情は消えている筈だから。 *** 二十一時丁度に鳴ったアラームに起こされ、少しぼんやりしてから髪も結ばずに一階の食堂に行くと、皆は窓辺に集まって外を見ていた。視線の先には外にセッティングされた席に座る烏間先生とイリーナだ。皆は期待しながら様子を覗っているけど、私は到底そんな気分にはなれなかった。 適当な席に座って、ひとり夕食を食べようとしたけど。お腹は空いてる筈なのに、食べたいとは思えない。見た目も匂いも美味しそうなのに。ステーキをひと切れ、それからスライスされた一切れのフランスパンにマーマレードを塗って食べた所で手を止めた。これ以上食べたら吐きそうな気がする。 「何よ今の中途半端な間接キスは!!」 「いつもみたいに舌入れろ舌!!」 「あーもーやかましいわガキ共!!大人には大人の事情があんのよ!!」 凄まじいブーイングがイリーナに浴びせられる。どうやら作戦通りには行かなかったようだ。まだ騒がしい中、カエデが私に気付いて駆け寄って来た。 「あれ、因果もう食べてたの?」 「んー。食べ終わったって感じかなぁ」 「え?でも、殆ど残ってるみたいだけど…」 「食欲無くてさぁ。私の分のデザート、カエデにあげるから食べてー」 カエデは何か言いたげだったけど、そのまま席を立って、出て来たばかりの部屋に戻った。 …今度は無性に苛々してきた。そうだ、囮に使ったSV-98の手入れでもして気を紛らせよう。 *** 無心になって手入れをしていたら、いつの間にか終わってしまった。デザートイーグルにいたっては一度バラしたので時間もかかったのに、カエデ達は戻って来ない。何してるんだろう。 部屋に籠もってばかり居ても気が重くなる一方で、気分転換に外の空気を吸いに行くことにした。 「…あれ、皆でなにしてんのー?」 一階に下りると、ロビーには皆が集まっていた。見たところ烏間先生とイリーナは居ないみたいだ。 「さ、さっきの作戦の反省会をしてたんだ」 「ふーん…反省会ねぇ」 私の疑問に代表して磯貝が答えてくれた。これからも二人をくっつける為に皆で応援するのだろうか。その輪の中にいる自分を想像出来ない。 「殺せんせー、ちょっと外の空気吸ってくるねぇ」 「!…分かりました。何かあったらすぐに連絡してください」 「んー、三十分位近くを歩ってくるからー」 殺せんせーに外出の許可を貰ったんだから大丈夫だろう。何も考えず、海を眺めよう。…あ、虫がいなきゃ良いけど。 [14/11/04] |