「――…因果…因果!」


…カルマが呼んでる。ゆっくり目蓋を上げると、霞む視界の中で何だか嬉しそうなカルマが私を覗き込んでいた。


「…カルマぁ…?」

「もう大丈夫だから。ほら、起きてこれ飲んで」


よく分からないままカルマに上半身を起こされて、錠剤を飲まされた。

回らない頭で聞いた話を纏めると、今回の主犯は鷹岡だったようだ。結局のところ逆恨みというやつで。感染したウィルスは本物では無く、後三時間も経てば自然に治るらしい。詳しい話はまた改めて聞くことにして、もう一度眠りについた。



***



「おはよ、因果」

「…おはよー」


隣にはカルマが。どうやら完全に治るまで心配だったようで、同室のカエデ達に許可を貰って添い寝していたらしい。カルマの手が額に当てられる。


「熱は下がったみたいだし、顔色も良くなったね」

「ん、もー平気(へーき)」

「そっか、良かった」


嬉しそうに目を細めて言ったカルマは私の頭をぐちゃぐちゃと撫でてから部屋を出て行った。軽くなった身体を起こし、シャワーで寝汗を流してからジャージに着替えて外に出た。

一瞬日の出かと思ったけど、実際は日の入りで。一日眠っていたらしい。烏間先生は不眠不休で殺せんせーを殺す為に指揮をとっていて、イリーナは伸び伸びとビーチで寛いでいた。ここからじゃ疲れてるようには見えないけど、烏間先生大丈夫かな。…あ、ホテルで何があったのかカルマから聞かないと。


「いいなと思った人は追いかけて、ダメだと思った奴は追い越して。多分それの繰り返しなんだろーな、大人になってくって」


聞こえてきた会話に耳を傾けていると、突如爆発音が空気を震わせて鳴り響いた。殺せんせーを囲っていたコンクリートが爆発したようだ。


「爆発したぞ!!」

「殺れたか?」


そうは言うものの、結果は何となく分かっていて。


「先生のふがいなさから苦労させてしまいました。ですが皆さん敵と戦いウィルスと戦い、本当によく頑張りました!」


後方からいつもの聞き慣れた声が。皆の視線も自ずとそちらに向かう。


「おはようございます、殺せんせー。やっぱ先生は触手がなくちゃね」

「はい、おはようございます。では旅行の続きを楽しみましょうか」


球体ではなく、トレードマークの触手が生えた殺せんせーがそこに居た。旅行の続きと言っても陽は沈み、あっという間にもう夜だ。


「昨日の暗殺のお返しに…ちゃんとスペシャルなイベントを用意してます。真夏の夜にやる事はひとつですねぇ」


死装束姿の殺せんせーは、暗殺肝だめしと書かれたプラカードを持って言った。お化け役は先生が一人で担うようで、その間の暗殺も有りらしい。海底洞窟を男女ペアで通り抜けるので、洞窟の入り口まで移動してからペア決めのクジを引いていく。

ふと気になって、烏間先生を探した。…見付けた、けど。先生の隣には、いつの間にかあの際どい水着から着替えたイリーナがいた。肝だめしに参加するから付き合いなさい、なんて言ってるんだろうな。何となく分かる。いつもなら気にも留めないのに、何故だが今日は胸が締め付けられた。修学旅行の不良や鷹岡に殴られた時とは比べ物にならないほど痛くて、なにより悲しくなった。


「さあ、因果さんもクジを引いてください」

「……私はいーや。終わるの待ってる」


殺せんせーがクジを持ってやって来たけど、首を横に振った。肝だめしなんて気分じゃない。


「にゅや!肝だめしは嫌でしたか!?」

「……んーん。まだちょっと、本調子じゃないだけぇ」

「そ、そうですか…。あまり無理はしないでくださいね」


殺せんせーはちょっと残念そうにクジを持って他の子のところに行った。先生の悲しそうな姿に嘘まで吐いて断ったのは申し訳なくなって、また違った悲しみが押し寄せてきた。感情を上手くコントロール出来ない。

近くの木の根元に座り込んで、ペアを作っていく皆をぼんやりと眺める。渚君とカエデ、杉野と有希子。あ、カルマは愛美とペアだ。結局班で固まってる、なんて考えていると、こちらに向かって来る足音に気が付いた。


「因果、参加しないのか?」

「…なんだか調子が出なくてぇ」


きっと私を気にかけて来てくれたのであろう烏間先生にも、さっきと同じ返答をする。すると先生はしゃがんで視線を合わせた。今はあんまり先生の顔を見たくなかったのに。


「大丈夫か?」

「大丈夫(だいじょーぶ)だから、気にしないでぇ。ここで大人しくしてるー」

「…分かった、辛かったらホテルに戻った方が良い」

「ん、そーする」


烏間先生にまで嘘を吐いて心配させて、そんな自分に嫌悪感を抱く。ふと視線を下げると、先生が優しく頭を撫でてくれた。


「無理はするなよ」

「っ…!」


息が詰まった。その優しさが嬉しい半面、苦しくてしょうがない。イリーナの呼ぶ声に、烏間先生は面倒臭そうに息を吐いてから歩いて行った。

膝を抱えて顔を伏せる。噛んだ下唇が痛かった。


[14/11/04]






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