《not因果》

テラスではウィルスに侵されている生徒達が横になり、残った竹林と奥田が応急処置に当たる。氷や水分を用意し、今出来る限りのこと精一杯行う。しかし竹林が、見たい深夜アニメまでに全員回復して欲しいと思いつつ処置に当たっていることなど誰も知らない。


「因果ちゃん、お水飲めますか?」

「…ん、ありがと愛美ぃ」


奥田から水分を受け取って飲もうとするが、それすら身体が拒否して咳き込んでしまう。苦しそうにバケツに水を吐き出す姿に、奥田はただ背中を摩ることしか出来ず、心を痛めていた。


「っ…ご…ごめんねぇ、」

「気にしないでください!飲めそうな時にまた言ってくださいね」

「……」

「…因果ちゃん?」


ふと因果の目付きが変わった。眉間に皺を寄せて睨み付けた先には、天井から設置されている監視カメラだ。何だか嫌な感じがすると、第六感が反応したようで。


「っう…愛美ぃ…私の鞄からさぁ、エアガン…取ってきてくんない……?」

「エアガン…ですか?」

「そ…、お願…げほっ……!」

「わ、分かりました…!」


全く意図が分からず困惑する奥田だったが、因果に言われた通り彼女の部屋に行き、鞄からエアガンを持って来た。


「因果ちゃん、これですか?」

「…ん、ありがとー……」


因果は力の入らない肢体に鞭を打ち、ゆっくりと上半身を起こした。奥田は心配そうに彼女の身体を支える。すると因果は奥田から受け取ったエアガンをおもむろに構えた。銃口を向けた先は、こちらを向いていた監視カメラ。突然のことに目を丸くする奥田と竹林を横目に、手が震え視界が霞む中、引き金を引いた。


「!」


カメラのレンズ部分が真っ赤に染まる。彼女が撃ったのはペイント弾だった。因果は命中したことを見届けると意識を失ってしまった。



***



山頂にある普久間殿上ホテル、その最上階に黒幕はいた。視線は目の前のモニターに釘付けだ。映し出されているのはウィルスに侵され苦しむ生徒の姿。高揚感から自然と笑みが溢れる。


「いいなァ…中学生が苦しむ顔。百億円手にしたらよキキククク、中学生たくさん買って毎日ウィルス飲まそうかなァ」


爪を立てて頬を掻きながら言った姿は正に異常。後ろでそれを聞いていた雇われた殺し屋も内心呆れていた。モニターの映像が自動的に映し変わった時、黒幕は思わず手を止め見開いた。

あの少年の笑みが夢に出てくるように、刃を向けてきた生意気な少女の笑顔も時折脳裏を過るのだ。そしてその少女が、エアガンをカメラに向けていた。真っ赤に染まる画面。一瞬だったが男は確かに見たのだ。赤に染まる直前、こちらを見据えてあの時と同じように挑発的な笑みを浮かべていたのを。

その生意気な笑みを壊したい。ウィルスで苦しむ姿をカメラ越しに見ているだけではつまらない。その端整な顔を目の前で、自分の手で歪ませたい衝動に駆られた。


「…ガストロ、今の見てたか?」

「ええ、末恐ろしいガキっスね」

「見回りついでに適当な奴等に今のガキを攫わせて来い」

「…了解」


「死んだら剥製にするんだ」と聞こえてきたそれに微かに嫌悪感を示したが、雇い主の命令だ。ガストロは命令通りボスの部下二人に少女を攫って来るように指示し、自分も見回りに向かった。

そして部下の二人はリゾートホテルへ。物陰からテラスの様子を覗い、指定された赤髪を見付けた。見たところ病人と看病している子供が二人いるだけなので、手っ取り早く正面から少女を連れ去ることに決めた。


「よし、行くぞ…!」

「何処に行くって?」

「「!?」」


背後からの男の声に、部下二人は振り返って臨戦体勢に入ろうとしたのだが。それよりも速く背後の男は動き、一人を一撃で気絶させた。もう一人が銃を取り出そうとしたが、いとも簡単にその手は捻り上げられてしまった。


「ッ…て、テメェは一体何者だ…!」

「通りすがりの観光客だよ」


そして男はもう一人も気絶させ、地面に放り投げた。


「全く…丸腰の子供を狙うとは、とんだ外道がいたもんだ」


呆れたように言い放った男はテラスで横になる少女を一目見てから、闇の中に消えて行った。


[14/11/02]






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