《not因果》

烏間の元に掛かってきた一本の電話。相手は生徒達を苦しめている犯人だった。犯人が使ったウィルスは人工的な物で、一週間で死に至る恐ろしいものらしい。治療薬は一種類のみ。一時間以内に山頂のホテルに渚と茅野が殺せんせーを持って来なければ、薬は爆破するというのだ。


「………と、いう訳だ」


烏間は全員に電話の内容を話した。部下の園川が政府としてホテルに宿泊者を問い合わせても望む答えは返ってこず。


「…カルマぁ…、」

「っ…大丈夫だって」


話を聞いて弱気の因果はぎゅっとカルマの服の裾を握る。そしてカルマはいつも以上に小さく見えた妹の肩を抱き寄せた。

更に烏間も聞いた話ではあるが、山頂のホテルは国内外のマフィア勢力やそれらと繋がる財界人が出入りしているらしい。政府の人間ともパイプがある為、警察も簡単には手が出せないようだ。


「そんなホテルこっちに味方するわけないね」

「どーすんスか!?このままじゃいっぱい死んじまう!!こっ…殺される為にこの島来たんじゃねーよ!!」


この状況に恐怖し慌てる吉田を原が無理に笑顔を浮かべて宥(なだ)めた。その言葉に吉田は我に返り落ち着きを取り戻す。


「こんなやり方する奴等にムカついてしょうがねぇ。人の友達(ツレ)にまで手ェ出しやがって」


寺坂の言葉に村松と狭間は嬉しそうに小さく笑った。要求を無視して都会の病院に運ぶことを寺坂は提案するが、珍しく竹林がそれを反対したのだ。患者の負担を考えるなら取引に行くべきだと、フロントから貰って来た氷を袋に詰めながら言った。

打つ手無し。烏間はどうするべきか考えるが答えは出ない。生徒達も不安を募らせる中で、殺せんせーだけはいつものように笑みを浮かべていた。


「良い方法がありますよ」

「え…?」

「病院に逃げるより、おとなしく従うよりは。律さんに頼んだ下調べも終わったようです。元気な人は来て下さい、汚れてもいい恰好でね」


殺せんせーの意図が掴めぬまま、動ける生徒が言われた通り集まる。カルマはずっと傍らで付き添っていた因果の頭を優しく撫でた。


「因果、行ってくるから」

「…無茶、しないでねぇ」

「分かってる。絶対に俺が何とかするから」


自信を持って言った兄の言葉を信じて、因果は笑顔で見送った。



***



「動ける生徒全員でここから侵入し、最上階を奇襲して治療薬を奪い取る!!」

「「……!!」」


殺せんせーに言われるがまま車でやって来たのはホテル裏の崖下だ。そして提案したのは犯人への奇襲だった。動ける生徒達の安全を考慮すると良い作戦とは言えず、烏間は乗り気ではない。


「どうしますか?全ては君達と…指揮官の烏間先生次第です」

「……」

「…それは…」

「ちょっと…難しいだろ」


一同が高く険しい崖を前に言った。イリーナもそれに声を荒らげて同意する。烏間は諦め、渚と茅野に取引に行ってもらうよう言い掛けたのだが。


「いやまぁ…崖だけなら楽勝だけどさ」


いつもの訓練より簡単だと言って、生徒達は軽々と崖を登って見せた。その様子に烏間とイリーナは言葉を失う。


「でも、未知のホテルで未知の敵と戦う訓練はしてないから。烏間先生、難しいけどしっかり指揮を頼みますよ」

「おお。ふざけたマネした奴等に…キッチリ落とし前つけてやる」


磯貝と寺坂が続けて言った。生徒達は皆やる気のようだ。そしてまだ迷っていた烏間を殺せんせーの言葉が決断させた。


「――…3分でマップを叩き込め!!19時50分(ヒトキューゴーマル)作戦開始!!」

「「おう!!」」


(待ってなよ…因果…!)


平然を装うカルマの内心は犯人への怒りと憎しみで一杯だ。脳裏を過るのは苦しむ因果の姿。必ず妹を救うと決意し、先へと進んだ。

あの時から何があっても因果を守り抜くと誓ったのだから。


[14/10/31]






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