《not因果》

凄まじい爆風に、生徒達は全員海に投げ出された。これまでの場所に殺せんせーの姿は無い。海面を見張るがその姿は無く、手応えもあった為、成功したのだと笑みを溢す生徒が多くいた。


「あっ」


倉橋が不自然な気泡に気が付き、視線と銃口がそれに向く。そして全員が見たものは、殺せんせーの顔が入った透明とオレンジの球体だった。


「これぞ先生の奥の手中の奥の手。完全防御形態!!」


肉体を縮め、余分になったエネルギーで肉体の周囲を覆ったらしい。


「この形態になった先生はまさに無敵!!水も、対先生物質も、あらゆる攻撃を結晶の壁がはね返します」


この形態の持続時間は二十四時間程度、何も効かない変わりに全く身動きが取れないようだ。核爆弾でも傷ひとつつかないと余裕振る殺せんせーを、カルマがあの手この手で弄ぶ。


「あと誰か不潔なオッサン見つけて来てー。これパンツの中にねじ込むから」

「助けてーッ!!」

「…ある意味いじり放題だよね」

「…うん。そしてこういう時のカルマ君は天才的だ」


烏間はカルマから球体を取り上げてビニール袋に入れた。そしていつものように殺せんせーは笑う。


「世界中の軍隊でも先生をここまで追いこめなかった。ひとえに、皆さんの計画の素晴らしさです」

「「………」」


褒めてはもらえたが、全員は落胆の色を隠せずにいた。渾身の一撃を外したショックは相当のもので。異常な疲労感と共に、生徒達はホテルへと戻って行った。

そして小屋の残骸に残ったのは千葉と速水、因果だ。


「俺さ、撃った瞬間わかっちゃったよ。「ミスった。この弾じゃ殺せない」って」

「……。断定はできません。あの形態に移行するまでの正確な時間は不明瞭なので」


今回の暗殺の一部始終を撮影していた律が解析を進める。


「ですが。千葉君の射撃があと0.5秒早いか、速水さんの射撃があと標的(ターゲット)に30cm近いか。もしくは因果さんの射撃が0.2秒早ければ、気付く前に殺せた可能性が50%ほど存在します」

「……チッ、」


小さく舌打ちをした因果は得物を片手に、二人より一足先にホテルへと歩いて行った。こんなにも悔しい思いをしたのはいつ振りだろうか。いや、初めてかもしれない。結局何も出来なかった無力な自分に腹が立つが、なにより自分を信じて背中を押してくれた烏間に報いることが出来なくて悔しいのだ。



***



「しっかし疲れたわ〜…」

「自室帰って休もうか…。もう何もする気力無ぇ」


テラスで生徒達が疲労感に襲われぐったりしているが、何処か様子が可笑しい。因果はビーチの更衣室で手早く水着から着替えて皆と一緒に居たのだが、心做しか身体が怠いのだ。部屋に戻る為に、肩で浅く息をしながらゆっくりと立ち上がる。しかし足が震えて力が入らない。テーブル伝いに何とか一歩ずつ足を進めるが、身体が言うことを聞かず、因果はふらりと力無く倒れた。


「っ…因果……!」

「…あ、烏間…せんせぇ…」


そんな彼女を受け止めたのは、丁度殺せんせーを持って戻って来た烏間だった。潤んだ瞳で見上げてきた彼女の身体は熱く、一体何事かと烏間は眉間に皺を寄せた。周囲を見渡すと見るからに体調の悪そうな生徒が半数ほど居り、鼻血を吹き出すなどその症状は明らかに異常なのだ。


「ッ……!!」


烏間は近くに居たカルマに因果を任せ、フロントへと走った。


「っ…すっごい熱じゃん…!因果、意識ある?」

「んっ…なんとか、」


カルマは軽々と因果を横抱きにして、テラスの柱に寄り掛からせるようにして静かに下ろした。


「飲み物は?」

「…いらない…そばにいてぇ……」

「大丈夫、ここにいるから」


弱々しく握られた手をカルマは強く握り返した。すると因果は安心したように、苦しいながらも小さく笑った。


[14/10/30]






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